小説
――2――
「新生徒会会長に当選した、柳 光輝だ」
マイクを通した男、光輝の声が場内の空気を震わせる。
ざわついていた場内は、ほとんどの生徒が今、壇上で話している光輝の声を聞こうと耳を澄ませ視線を固める。
「えー、まず今回俺に票を預けてくれた人達に感謝している。俺を選んでくれて、ありがとう」
光輝は頭を下げる事はしなかったが、場内に居る光輝に投票した生徒達は、光輝のその言葉で充分だった。
「たとえその投票方法や理由が、どれ程くだらなかろうとバカらしかろうとふざけていようと、俺が今ここでこうして諸君の前に立ち、マイクを持って話している状況の為に、俺を選んでくれた人達が大勢居る事に変わりは無いだろう」
場内でまだこそこそと話をしていた生徒達が、光輝の言葉を聞いて話すのをやめた。
何故ならその生徒達はこの投票方法に不満があったからだ。
―――抱きたい・抱かれたいランクなんてもので選ばれた人間が学園の生徒のトップに立つなんておかしいじゃないか。
光輝の言葉はそんな生徒達をひるませた。
「俺は俺を選んでくれた大勢の人達を、俺を選んだ事を後悔させないように、これから努めていこうと思う」
光輝はそこで一旦言葉を止めた。
息を大きくついた。
進行役はそれが光輝の挨拶の終了だと思い、終わりを告げようと声を出した。
「生徒会長、柳からの挨拶でした――」
「まだだ!」
光輝の声が鋭く進行役の言葉と声を制止した。
「まだ俺の話は終わってねぇ。お前の物差しで勝手に終わりにするな」
「…申し訳ありませんでした。引き続き、挨拶をお願いします」
進行役は自分のミスに赤面しながら、申し訳無さそうに光輝を見た。
視線を合わせた光輝は、分かったなら良い、とでも言うように頷き口元を上に上げた。
その表情の変化は、同じ壇上の舞台袖から光輝を見つめていた進行役しか気付かない程度だったが、進行役は自分の鼓動が上がっていくのを感じた。
「この会場の中には、俺を認めてない人間も大勢居るだろう。それこそ、認めていないどころか嫌っている奴だって居るだろう。それは仕方が無い事だ。だが、一つ言えるのは、俺を嫌っている事と認めていないことは全くの別物である、と言う事だ」
会場内の空気が少し揺らぐ。
光輝の言う通りに、光輝に投票していない生徒の方が、光輝に投票した生徒より大勢いる事は事実だ。
光輝はそんな生徒達に向けて、続ける。
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[*退却!]
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