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小説
常連になりたくて、初夏。上



俺の名前は小林。
春に大学生になったばかりだ。

そんな俺には今、お気に入りのカフェがある。
俺の通っている大学の最寄り駅から、徒歩10分かかるかかからないか程度の、ふとしたところの路地裏を少し入った場所に位置している。

位置的にも分かると思うが、小さいカフェだ。
店員の数は、春から店に通っている俺が知る限りでは、いつだって男二人だけだ。
大学生になったばかりで、少々浮かれていたところに見付けたせいか、それともそのカフェの雰囲気がとても良かったせいか、俺はそのカフェの常連になろう、と決めたのだ。
そして、その春から今現在、初夏に当たる今日まで、俺は大学の帰りや何かにほぼ毎回そこを訪れている。


その店は夜にはバーに姿を変える、らしい。

らしい、というのも実は、俺は今のところそのバーになる時間帯に、その店に入った事が無いのだ。何故か、と聞かれても特に、夜にそこに行く機会が無かったから、としか言いようがない。



ドアを押せば心地の良いベルが店内に鳴り響く、そんな感覚。
昨日の夜に行ったコンビニの曲とは大違いだな、とそのコンビニで働く友人を思い出す。

「こんちわーす」
「お!いらはいな、小林くん」
「いらっしゃい」

俺が軽く店内を見回してから、カウンターに向けて挨拶をすれば、二人分の返事が帰ってくる。
俺の名前を呼んでくれた方は、ホール側からカウンターに寄っ掛かって立っている、翔さんだ。
もう片方は、カウンターを挟むようにして翔さんの方を向いているヤスさん。
俺が知る限りのこのカフェの二人の店員だ。

俺が翔さん達の近くのカウンター席に座るのを見て、翔さんが俺に「何にする?」と聞いてきたから、常連の常套句、「いつもので」と答えた。

「はい、頂きましたぁー小林くんのいつもの発言!」
「いつものな」
「良いでしょ、いつものって。なんかカッコ良くないすか」
「なんかぁ、じょーれんさん!ってイメージかね?俺も言ってみてー。あ、なぁなぁヤスぅー」
「はい、いつもの。何だよ翔」
「俺にもいつものを寄越しなはれや!」
「どもっす。やっぱヤスさんの淹れるブレンドが今んとこ俺のナンバーワンっすわ」
「世界にひとつだけの、ってやつー?」
「ありがとう。素直にそう言われると少し照れる」
「あ、それはオンリーワンだったわ!いやーん、翔ちゃんったらド・ジ」
「とか言いつつ表情変わってないっすよ」
「あらやだ、ヤスったら素直な良い子の小林くんに嘘なんてついたの?やだー、この節操なしぃー」
「翔は少し黙ってろ」

翔さんはヤスさんに頭を小突かれて、けらけらと楽しそうに笑っているが、俺としては寒気のするセリフであったし何より節操なしの使い方と意味が違っていると思う。
これでも俺は一応文系なのだ。

「この店って夜にはバーになるんすよね?たしか」
「そうだよー」
「それがどうかしたか?そういえば、小林くんは夜には一度も来たことないよな」
「そうなんすよね。なんかタイミング合わなくて」
「そんなこと言って、実は下戸なんです、とかありえる?」
「ありえないっす、俺お酒大好きくんですからね。高校生で一升瓶空けて親に起こられたレベルっすからね」
「や、嘘でしょ!この俺を騙そうったってそーは問屋がおろさねーってのは、この俺のことさ!」
「翔さん、なんかそれ色々違うっす」

翔さんはいつでも軽口ばっかり叩いている。面白いから俺的には良いんだけど、ヤスさん的にはただうるさいだけのようだ。
でも呆れたようにするだけで、怒ったりしたところは見たことがない。
なんと言うか、ああ、仲が良いんだな、長い付き合いなんだな、とかそう感じる何かが、例えば空気みたいなものが、二人の側に居ると感じられる。






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小林(こばやし) 常連に憧れる大学生。
ヤス マスター
翔(しょう) バーテン


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あきゅろす。
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