長編小説 第二話 君の口からあいつの名前が出てくるのが何より嫌だった。 君があいつの名前を呼ぶたびに、口を塞いでやりたくなった。 君には僕だけを見ていて欲しいと、願っていた。 『君は誰とキスをする』 「ってゆうか早く帰んないと骸兄うるさいんだけど」 名前と骸は血が繋がっていない兄妹だ。 名前が小学生のとき、親が再婚したときの連れ子。 僕と名前は物心ついたときからずっと一緒にいたため、いきなり間に入ってきた骸が気にいらなかった。 だから骸との時間を少しでも減らしてやろうと思って書類の整理を手伝わせたりしているのだ。 今更だけど名前は僕を怒らせる天才だ。 それでもトンファーを向けようとは思わないのはやっぱり名前には甘いからだと思う。 「ちゃんとバイクで送るし、わけも説明してあげるよ」 「んー……あ、そういえば。今日のご飯何がいい?」 最近は僕の両親の帰りが遅いため名前の家で食べている。 といっても名前の両親も仕事で忙しいので僕と名前と不本意だけど骸の3人で食べるのだが。 「パイナップルの丸焼き。」 骸への嫌みを込めて言ってみる。 「骸兄怒るよ」 そのために言っているんだ。 あいつのすべてが気に障る。 あの南国果実のような髪型も、特徴的な笑い方も、名前の兄だということも。 君に他の奴を見て欲しくない。 君なら群れてあげてもいいから このもやもやした気持ちがなんなのか、それを知ったのはすぐ後の話だった。 [*前へ][次へ#] [戻る] |