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ソラゴトモノクロ
07 友ちゃん


その夜、あたしは眠れなかった。


翌日はいーくんに連れられて、玖渚友ちゃんの住むマンションへと行く。

とても高そうなマンションだった。チキンハートが踊る踊る。エレベーターの中でまた高鳴る心臓。

頭の中では青髪、青目と連呼。


「友ー、ぼくだ。友恵ちゃんを連れてきたぞー」


中に入っていーくんは呼び掛けた。あたしも届くように「お邪魔しますー」と言う。
「あ、足元気をつけて」といーくんが言ってくれたのにあたしはコードに躓いた。
何のコードなんだろう…。
「ドジだね」といーくんに見下ろされた。
「涼しいね」スルーして立ち上がる。
「エアコンをつけてるんだよ」といーくん。


「こっちだよー!いーちゃん」


可愛らしい声が聴こえた。その方に向かうと、五台のパソコンがある一室に着く。
そのパソコンの前に小さな女の子が一人。
青い髪、無邪気な笑顔で女の子が手を振った。


「こんにちは…」
「わーあ!君が友恵ちゃんー?」


丸い青い瞳で玖渚友ちゃんがあたしを見上げた。
興味津々な目で首を傾げる。
か、かわいいっ。

「初めまして…」と会釈。
どうやら嫉妬はされてないみたい。よかった。


「いーちゃん!お菓子もってきてよ!一緒に食べよう!」
「わかったよ」
「うに、こっちに座っていいよ!」


いーくんは玖渚友ちゃんに言われたようにお菓子を取りに部屋を後にした。
早速二人きりかよ。息を飲む。
なんだかなぁ。
ぎこちなくあたしは譲られた椅子に座った。膝の上に、玖渚友ちゃんの小さな手が置かれる。


「それで友恵ちゃん。君は一体何者なのかなー?」


ビクッと震えた身体は凍り付いた。


「君のこと調べたのに全く君の存在がないんだ。一体何者なのかなー?いーちゃんは一般人なんて言ってたけどー。誰なのかな?僕様ちゃんに教えてー?」


にこにこ、と楽しげに笑う青い少女。

いーくんのバカヤロー。
もう嫌な予感が的中しやがった。ピンチだ。

人識……あたし死ぬかも…。

なんて後ろ向きになったが、意を決してあたしは玖渚友の手を握り締めた。


「正直に、真実を、話します…とても信じられない話だけどどうか、信じてください。それからいーくんは内緒にしてほしいんです!」
「うん、聞くから話してみて?」


あたしより小さい身体なのに、大人びた対応で玖渚友は促した。

チキンハートがこの上無く踊ってるが、ちょっと早口にあたしは正直に話した。


いーくんの鏡である人識くんとあたしが異世界で会ったと。
そして少し同居してからこの世界に来た経緯を話した。
人識くんは、一般人であるあたしを、いーくんに預けて、何処かに行ってしまったことまで話す。
小説のことは、話さなかった。

大まかに告げたあとの彼女の反応は。


「はわわーすごいねー!トリップってやつだね!現実であるんだ!すごいすごーい!」


…………喜んでた。


「あれ…?信じたのかな…?」
「信じてあげるよーじゃなきゃ全く情報ないなんてあり得ないもん!」


とってもいい子だった。
殺されるとか思ってすみません。


「ありがとうっ!あたし…不安で……ありがと…!」
「うににー、いいんだね!ただし!!」


無邪気な女の子の手をひしっと握ったら、その子が人差し指を立てた。あたしは身構える。


「いーちゃんに話すこと」
「えっ……」
「だっていーちゃんの部屋に住むんでしょー?いーちゃんにもちゃんと言わなきゃ!僕様ちゃん、そうしないと全国に言いふらしちゃうから!」


とんでもない脅迫をされた。
この子ならやれる。横にあるパソコンを使って容易く。…恐ろしい。


「…………はい…話してみます」
「よし!じゃあ友恵ちゃんが異世界から来たのを知るのは僕様ちゃんといーちゃんだけの秘密!あっ違う!その零崎人識もいれて四人の秘密!ひゃっほい!」


ハイテンションに玖渚友ちゃんは騒いだ。無邪気な子供のよう。
この子を、いーくんは愛してるんだね…。


「友ちゃんって呼んでいいかな?」
「うん!僕様ちゃんもえーちゃんって呼ぶ!」
「あははっ、名前被っちゃうもんね?友ちゃん」
「えーちゃん!」
「友ちゃん!髪触ってもいい?」
「いいよー!僕様ちゃんも触るー!」


互いに互いの髪を触りあいっこ。とっても綺麗な青色だ。あたし青って好きなんだ、と友ちゃんに伝える。
僕様ちゃんはいーくんが好き、と返された。


「仲良くなったみたいだな」


そこでいーくんがお菓子を抱えて戻ってきた。
場所を変えて、テーブルでお菓子を堪能することになったがあたしは手につかない。

いーくんにも、異世界から来たと暴露したので滅茶苦茶疑いの目を向けられた。普通の反応です。


「友恵ちゃん、病院にいこうか」
「えーちゃんは正気だよーいーちゃん!じゃなきゃえーちゃんが存在してるのが説明つかないんだよ!」


友ちゃんがいーくんを説得してくれた。
「友が言うなら」といーくんも信じることにしたらしい。


「あの《人間失格》に確認すればわかることだしな」
「うん、人識くんしか証言できる人はいないよ…」


と、あたしは苦笑する。原作のことは黙らせておかなくちゃ。


「ごめんね、嘘ついてた訳じゃないんだ。言い訳だけど…この世界には親も親戚も知り合いも誰もいないのは事実だから…ごめんなさい」
「アイツはそんな君を置いてけぼりにしたのか?全く信じられないよな」
「パラレルワールドかもしれないね!」
「うん、あたしもそう思うけど、どうかはわからない」


いーくんは一人で思考し始めた。友ちゃんはパラレルワールドについて難しい仮説をペラペラ話し出した。ちんぷんかんぷんだ。
呪文を唱えてるのかにゃ?


「戻る方法はわからないの?友恵ちゃん」
「えっ…さぁ?寝ちゃったから…わからないけど、人識くんならわかるかも」
「じゃあそのひーくんが迎えに来なきゃえーちゃん帰れないんだ!」


戻る方法は人識くんが知ってるはず。
どの駅に、どの時間に、どの電車に乗ればいいかがわかれば、きっと帰れる。
でも、あたしは、帰るつもりはない。


「いーくん…怒った?…尚更わけわからない女だと知って…早く追い出したくなった…?」


いーくんは少し苛ついたような感じだったからあしは恐る恐る訊いた。
追い出されちゃうのかな。


「怒ってないよ、怒ってないさ。ただね、もっと早くに言ってほしかったね、ぼくとしては。友に話す前に」


口調は、刺々していた。
怒ってる。

ごめんなさい、と謝った直後にいーくんの上に友ちゃんが飛び乗った。


「だめだよ!いーちゃん!許してあげて!えーちゃんはいーちゃんが混乱しないように黙ってたんだからさ!」
「…だから、怒ってないって、友」


微笑ましい光景だった。
つい微笑んだらいーくんに睨まれてしまった…。怖かった…。
「そうだ!」と友ちゃんがいーくんが許してくれるようにある提案を出した。


「………友ちゃん、ちっちゃいよ」


あたしの言葉なんて聴こえてない友ちゃんは大はしゃぎ。
あたしは友ちゃんに渡されたゴスロリを着させられた。友ちゃんサイズのそれはキツくてキツくて、コルセットを絞められてるようだ。息が。

これでいーくんの許しが出るのやら…。目に毒だよ。と思ったのだがいーくんは親指を立てて許しをくれた。
男ってやつは…肌を出せば許してくれるのだろうか。
パシャパシャ。


「きゃー!友ちゃん!写真に残さないで!」
「次は友ちゃんサイズのをお揃いで買っておくよ!ひゃっほう!かわいーかわいー!」


聞いちゃいない。
友ちゃんは必需品なのかカメラでパシャパシャ撮った。さりげなくまたゴスロリを着る約束までされる。
でも、ちょっとだけ。
人識の感想が聞きたいと、思った。




《異世界の住人》と《この世界の住人》


 


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あきゅろす。
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