ソラゴトモノクロ
68
「何の用だったんです?」
「後始末をした報告をしにきたの。映画館とかコンビニだとかは任せとけだって」
「頼もしいですね」
「うん」
頼もしいけど、凄くダメージを受けるんだよね。
ふう、と一息をついてから崩子ちゃんと昼飯を食べることにした。
これで本当に万事解決。
あとで友ちゃんにお礼を言いに行こう。
「ごめんね、崩子ちゃん」
サンドイッチを食べ終えた頃にあたしは言い出す。唐突だったので崩子ちゃんは首を傾げた。
「家出してる君達の名前が下手に広まったらまずいことになるでしょ」
「平気です、友恵姉さんのためなら」
「…………まぁ、広まらないだろうから平気だよね」
お茶をずずっと飲む。
《暗殺者》の《闇口》から抜け出してきた崩子ちゃんと萌太くん。逃げて隠れている二人の名前が《闇口》の耳に入ったら非常にまずい。
それは。それはまだ先のことだ。
「友恵姉さん」
「なぁに、崩子ちゃん」
「もしもまたこのようなことが起こったのならば、友恵姉さん、わたしの《主》になってくれませんか?」
潤さんの勝負しようぜ、の言葉並にポカーンとしてしまう。
「あ、あたしでいいの?」
「はい」
「本当に?」
「はい」
「他に《主》にしたい候補はいないの?」
「嫌ですか?」
「いや………いーくんは?」
「戯言遣いのお兄ちゃんですか?でも、危険な目に遭うのは友恵姉さんです。わたしは守るために《力》を使うために《主》になってほしいのです。これ以上友恵姉さんが傷付くのを黙って見ていられませんし足手纏いはごめんです」
そんなことを言われても、きっと崩子ちゃんにはいーくんが《主》の方がいい。いーくん以外あり得ないのだ。
「……うん、もう殺し屋に目をつけられることなんてないと思うけどね。そうしてもらおうかな。そしたらずっと一緒だね」
「…そうですね」
それを言ったら崩子ちゃんが微笑んだ。萌太くんに似た綺麗な幼い微笑。
「でも崩子ちゃん。その選択はやめよう、なるだけ。君は《闇口》から家出してきたんだから…ね?」
あたしは崩子ちゃんの頭を撫でる。
崩子ちゃんは黙って頷いた。わかってくれただろうか。うん…でも、あたしが同じことをやらかさなければいいだけか。
「友恵姉さんを迎えにくるという零崎人識さんは」
「ん?」
「友恵姉さんの好きな人なのですか?」
ぶはっ…!
お、お茶、お茶を吹くところだった!げほげほっ!
「やっぱりですか。なんとなくそうだと思いました。みー姉さんと姫姉さま達から好きな人がいると聞いていましたので」
「よ、よくわかったね…」
「友恵姉さんが友達の話をする時、特別な感じに話していたのでこの崩子にだってわかりますよ」
だよね。わかりやすいですよね。うにゃー。恥ずかしいー。ぐへえー。
顔を押さえて項垂れていれば、崩子ちゃんが続けた。
「恋人関係ですか?」
「え!?ち、違うよ、片想い」
「片想いなのに迎えにくるのですか?」
「うっ…………うーん………」
それはとても痛いところをつく。
そりゃあ好きでもない女を男が引き取るのは可笑しいだろう。
人識くんだってそんな義理はない、いやあるよめっちゃあるよ。
忘れがちだけど異世界では人識くんが居候であたしが面倒みたし、この世界に引っ張り込んだのはアイツだもん。
アイツにその義理はある!
「色々事情があるんだよ、うん。今度話すよ」
「今度じゃなきゃだめなのですか?」
「うん…………ごめんね」
「…はい、待ちます」
崩子ちゃんは礼儀正しく正座で頷いた。今度、ね。
一日中、姫ちゃんが帰って来るまで二人きりでいた。
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