ソラゴトモノクロ
05
「おかえり、友恵ちゃん」
階段を降りながらいーくんが声をかけてきた。
「遅かったね、迷ったかと思ったよ」
「あ、ごめんなさい」
「二人にはもう挨拶したみたいだね」
いーくんとこのやりとりをやるのは何か微妙だ。いーくんは萌太くんと崩子ちゃんを見た。
「いー兄。いつからこのお姉さんと同居を始めたんですか?」
「三日前だよ、萌太くん」
「黙ってたなんていやらしいですね」
「いやらしくないよ、萌太くん。ぼくは家のない友恵ちゃんに住む場所を与えたんだよ」
平然となんか話すいーくんと萌太くん。いやらしいって。いーくん何もしてないのに誤解が…。
「あ、二人はもうご飯食べた?よかったら一緒に食べない?まあ、作るのは友恵ちゃんなんだけど、彼女のつくるパスタは美味しいよ」
「あっ、いいね。四人で食べよう?どうかな、崩子ちゃん、萌太くん」
あたしの許可をとらなかったがあたしは快く賛成した。失敗しないことを願う。
崩子ちゃんを見下ろして、それから萌太くんに首を傾げて訊いた。萌太くん、あたしより大きい…。
「ぜひ」
「喜んで」
二人はそう返事をくれた。美少女と美少年の微笑付き。
お礼に美味しいパスタを作ってあげなくちゃ。
そのままいーくんの部屋に皆で集合。
あたしは一人で夕食作り。
座って三人はあたしの話をした。
主に崩子ちゃんが今日あたしから聞いた話を萌太くんに話し、萌太くんがそれをいーくんに訊いた。
いーくんはあまりあたしのことを知らないから「初耳だな」と言っていたが多分怒らないだろう。
必要なら訊くはず。
「そう言えば、友恵ちゃん。散々、料理下手だって言ってたけど、パスタとかは美味いよね。どうして?」
「あ、それはバイトでやってたから、慣れです。人し──…友達に、負けたくなくって散々作ったので」
人識の名前を出しかけて慌てて言い直す。零崎の名前をこの二人の前で出すのはだめだろう。
いーくん頼むから出すな、と祈る。
「負けたくないって、競ってたんですか?」
萌太くんが面白そうに笑っていーくんより先に口を開いてくれた。
「そう。アイツったらあたしより料理が出来るからって威張って…あたしは不器用で友達は器用だったからね」
パスタがあがってお湯を切る。用意した更に盛り付け。トマトを添えて味付け。
萌太くんはいつの間にか隣に立ってお皿を運んでくれた。萌太くんには負けるけど笑みでお礼を返す。
「最後はあっちが降参してね、かなりべた褒めしてくれてもうケチつけられなくなったんだ」
萌太くんと一緒にいーくん達に出来上がった料理を渡した。
人識くんが「傑作傑作」とおかわりをしまくったあたしの料理を三人が口にする。
「美味しいです、友恵姉さん」
「今まで食べたパスタで一番美味しいですよ」
「そこらへんの飲食店よりは美味しいね」
美兄妹がほめてくれたあとにいーくんが美味しいのか普通なのかどうかわからない感想を出しやがった。
うん。二回目からなんかこんな感じなんだよね。ひねくれなんだよね。はは。
「いいですね、いー兄は毎日おねえさんの料理が食べられて。たなぼたですね」
「そんなことないよ。友恵ちゃん、期限限定だし、和食はまるっきりだめなんだって」
「期限限定…。おねぇさんはいつまでいー兄のところにいるんですか?」
いーくんと話した萌太くんがあたしを見て訊いた。
「えっ………。さぁ…?どうだろう……わかんないかな……。いつ…かなぁ…」
迎えに来るまで。
じゃあいつ迎えに来るんだろう。
わからない。
わからないんだ。
あたしは沈黙してしまう。
部屋が気まずい空気に満ちた。
すると崩子ちゃんが萌太くんの腹に鉄拳を打ち込んだ。危うく萌太くんは皿を落としそうになった。
「大丈夫ですか?友恵姉さん」
「えっ、あっ、大丈夫だよ?」
悲愴な顔でもしちゃったのかな。慌てて首を振る。
「行く宛がないならここにずっと居てください。わたしは大歓迎です」
「嬉しいな…でも、大丈夫だよ。あたしね…迎えに来てくれる人がいるからさ…多分。いつくるかわからないから、いーくんには迷惑かけちゃうんだけど」
苦笑しつつも、自嘲をまじりながらもあたしは伝える。
もうそれには触れてほしくなくって、話題を変えさせてもらった。
フォークでパスタを絡めながら、食欲を失せたが頑張って食べた。
楽しく四人で食事を摂らせてもらったが、不器用なあたしはすぐに切り替えができない。モヤモヤと、してた。
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