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ソラゴトモノクロ
62 生きなさい


「やるぞ!!同岸!」

「?」

同岸が両岸の元に向かう。
二人が並び、左右対称に構えた。足を広げて身を低く、剣を下に向けて溜めるように構える。

何をする?立ち上がって、十分に距離を取る。ここまで離れているのに何かをする気だ。


「全空──」
「──斬撃」


両岸と同岸の白い剣が重なって振られた。

咄嗟に。
あたしは萌太くんの腕を引っ張り、あたしの後ろへと突き飛ばした。

ガシャン。

白い剣が振られた。
斬撃が鎌鼬のように座席を床を切り刻んだ。コンビニの店内のように滅茶苦茶に刻まれた。
鎌鼬のようではなく、鎌鼬と呼べる技だ。

あたしはなんとか自分の身体にくるそれを防ごうとしたが、無理だった。
右腕から肩にかけてと、左手と左脚に、喰い傷つけられた。
血が吹き出す。


「く………ぅ…」
「友恵さん!!」


よろけても踏みとどまる。
しかし、右手に力が入らなくナイフが落ちた。切りつけられた痛みで震える。


「逃げて萌太くん」
「何を言って」
「逃げなさい!!逃げなさい!!逃げなさい!!」


あたしは睨み付けて怒鳴った。萌太くんは、動かない。


「はんっ!終わりだな、友恵サン!なかなかいい腕だ。アンタ零崎だけあって末恐ろしいねーししし。でも、まー、おじょーさんはここで死亡決定」
「………」
「あれ?もう走馬灯見ちゃってる?最期なんだから面白いことを言ってよ」


萌太くんから話し掛けてくる両岸にあたしは目を向けた。
黙って見据えればつまらなそうに口を尖らせる両岸。
煩いな。萌太くんを助ける方法を探らせてくれ。
すると萌太くんがあたしの前に、庇うように立った。全く。この子ったら。
あたしは萌太くんの胸ぐらを掴み、後ろに押し出す。睨まれた。


「両岸くん、同岸くん」

「ん?なになに?ししっ。遺言?命乞い?」

「殺し屋、やめていいよ」

「…………………………は?」


萌太くんを後ろに押しつつあたしは両岸と同岸を見る。


「辞めていいよ。引退しなよ。平和に過ごしなよ。殺しなんて楽しくないでしょ?」

「なにを……」

「……」

「殺し殺されるのが日常の生活の中でいいの?人生楽しもうよ。そうだ。友達にならない?過去に殺し合って友達になったことあるよ、二回ほど。いい友達になったよ。本当。友達になろうよ、両岸くん、同岸くん」

「おい…」

「……」

「ファミレスでくっちゃべったりカラオケで熱唱したりくだらないこと話して笑おう。君達何歳?あたしよりは下に見えるけどさ、それで殺し屋なんて酷いよ。遊びなよ、君達。楽しみなよ、君達。幸せになりなよ、君達。『殺し名』なんて関係ない。産まれた家なんて関係ない。好きなように生きなさい。生きる理由を持ちなさい。生きるために生きなさい。笑うために生きなさいよ。誰かのために生きなさい。自分のために生きなさい。誰かを大切にして生きなさい。誰かを好きになって生きなさい。誰かを愛して生きなさい!」

「知ったような口をきくんじゃねぇえええええぇ!!!!!!」


ビクッとあたしは震えた。喋ることに集中していていきなりの怒声に驚いた。

少年の喉が潰れるのではないかと思うくらいの大声。それを出したのは。同岸だった。
あたしを睨み付ける。


「アンタが俺達の何を知ってやがる!!何も知らないくせに!!わかったようなことを、言うな!!」
「ど……同岸……」
「言うな…!!だ、黙れ!!!黙って死ね!!」


睨み付けながら、同岸は震えていた。触れられたくない部分に触れられて毛を逆立てている。
両岸はその弟を見て、愕然としていた。
情けない顔だった。あのにやついた笑みもなく、泣きそうな表情で同岸を見る。


「─────嫌なら……辞めるべきだ」


あたしは言った。きっと彼らが周りに言われない言葉を。あたしは言う。誰も言わないのならあたしが言おう。


「もう黙れって言ってんだろ!!舌をっ、切り落としてやる!!もうっ、口を開くんじゃねぇ!!!」


今度は両岸が叫んだ。
まるで、悲鳴だった。


「なんだよっ!なんだよなんだよ!!なんなんだてめぇは!!素人だとか臆病者だとか零崎とかっ…意味わかんねぇんだよ!!愛だぁ?辞めていいだぁ?ふざけんな!!こっちだって生きてんだ!哀れむように見んじゃねえ!!黙れ!!煩いんだよ!!笑えねぇよ!!てめぇみたいなっ、お幸せなっ、臆病者なんかにっ……………死にやがれっ!!!!」


哀れを誘うよう姿だった。
初めて見た姫ちゃんと被った。怒鳴って喚いて悲鳴を上げていた哀れな少女とそっくり。
行き場所のない子供達。
両岸は剣を振り上げ、向かってきた。

どたん。

しかし、彼が一歩踏み出した途端、倒れた。両岸と同岸が倒れる。


「うがっ…あっ!」
「っあ……痛…!」


痛みに二人は呻く。床に俯せて、だけどもがくことができないように呻いた。


 

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