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ソラゴトモノクロ
61 ズタズタ


人がいない場所へと先ずは移動することになった。《死神》の萌太くんが人の魂がいない方へと先導する。
殺し屋は先回りなどせずに後ろからついてきた。逃がすつもりはないらしく、一定の距離を保つ。

「どう思う?萌太くん。やっぱり消そうと思ってるかなあの二人」
「命を狙って剣を振ったようにしか見えませんでしたけど。殺気も殺す気満々ですよ」

だろうね。ふむ。どうしよう。

「それより、何か作戦はありますか?」
「萌太くんは同岸くんを相手して。殺さずに拘束する」
「どっちがどっちです?」
「無表情の弟くん」
「わかりました。…でもこの時間、人がいないところを見付けられないですね…」

まだ夕方。萌太くんは人がいない場所を見付けられないでいた。そうか。昨日の路地では他人を巻き込む形になってしまう。
人がいない場所。


なら────────…。



一か八かであの映画館に行った。店員さんもいない客もいない。潰れてしまったのだろうか。好都合なのであまり深く考えなかった。


「嬉しいね。俺達と出会った場所を覚えてくれたんだぁ?おじょーさん」

「傷も消えてないのに忘れるわけないじゃない…」


映画館。あの劇場であたしと萌太くんは竹河兄弟と向き合って立った。


「やる前に確認。君達あたしの命を狙ってるの?あたし、君達の仕事を邪魔するつもりはないよ」
「しししししっ、よくゆーよ。そこのお友達に告げ口したくせに」
「怪我の手当てをしてもらったの。ボディーガードだよ。そちらの世界に首を突っ込みたくはないから、穏便にすませようよ」
「はぁあぁああん?おいおい、零崎と関わってるくせによく言うじゃん。零崎恋識ちゃんよー」
「零崎曲識さんに殺されずに済んだのにどうしてあたしにまだ関わるの?」
「ししししっ…………一賊に仇なす者は皆殺しだっけかぁ?怖くねぇよ。やり合おうぜ、臆病者」


にんやり。両岸は好戦的に笑う。嫌なやつだ。姫ちゃんのいう零崎を怖がらない人間か。


「嫌だね、殺し屋。あたしは君の手足を切ってでも諦めてもらうよ。殺し屋引退に向けて両手を無くしておく?」

「ししししししっ!ぶはっ!!殺し屋に恨みでもあんのー?おじょーさん。手足を切られても…殺しに行くぜ!!!」

「嫌なストーカーですね!」

「ストーカー上等!!」


金属がぶつかりあう音が劇場に響いた。
剣と大振りナイフ。剣と大振りナイフ。
萌太くんはブランクがあるらしいがそれなりに同岸と戦えている。自分の心配だけすればいいみたいだ。


「んん!?どーした?おじょーさん!なんだか…顔色…わりぃぜぇええ!?」

「ぐっ!!」


数分経過。
玉藻ちゃんの大振りナイフは重い。怪我している右腕には負担過ぎた。
簡単に押し退けられる。
「っ…」とあたしは左手を振って両岸の剣に絡み付けた。ぐっと引っ張ったが、両岸は剣を手放さない。


「同じ手を食らうかよ!綱引き───どっちが勝つかな?」

「あらあら、弱い者苛め楽しいんだ?酷いなぁ。この技が剣を奪うだけだと思ってるわけ?」

「ししししししっ!なんかすげぇことすんの?」

「人間の身体を解体できるよ。言ったじゃん。手足を切るよ、って」

「!!」


剣を奪うと見せ掛けて、あたしは両岸の身体を拘束をした。
両岸はずっと指先を警戒していたから、剣が糸に捕らわれたときに警戒が緩んだ、その時を狙う。


「右手を─────ズタズタにしてやろうか?」


チェックメイト。
そう思ったが両岸は顔色を変えなかった。寧ろ笑った。不気味に笑う。

パリン。

糸の上に、小瓶が割れる。
飛んできた方には、同岸。
ボォ。両岸が手に握っていたライターをつければ糸に引火。糸から糸へと火が移り、あたしの指に迫りくる。


「奇術───封じたりぃ。いひしししししししししししっ!!」


火が指に辿り着く前に、萌太くんが糸を切り落としてくれた。糸が。全滅。
曲絃糸が封じられた。
全てがおじゃんだ。曲絃糸で封じて説得をするつもりだったのに、完全に不利になった。

「萌太くん………逃げて」
「……聞こえませんね。なんです?僕にストーカーを撃退してほしいですか。仕方ありませんね、一肌脱ぎましょう」
「ん?聞こえなかったのかな。アパートに走っていって姫ちゃん呼んできてって言ってるの」
「聞こえません。全く聞こえませんよ、友恵さん」


だめだ。萌太くん、退くつもりがない。従順な子でいてほしいものだ。
溜め息を吐いて、手袋を捨てて、隠し持ったナイフを左手に持つ。


「しししししししししっ!なぁに?あの技でなんとかしようとしたわけ?甘いね温いね。殺し損ねたのが悪いんだよ、おじょーさん」
「ふーっ。君達を縛り付けて脅そうと思ったんだよ。でも……負かせることにしたよ。負けたら……もう二度と現れないでよ」
「勝負?いーね。いーよ。殺し合うぜ!!」


片や殺す気、片や殺す気なし。フェアじゃない。全くフェアじゃない。


「萌太くん。死んだら許しません」
「約束は守りますよ。死んでも」


いや、死んじゃ駄目なんだって。
吸って吐いて深呼吸。


「死なない程度に……ズタズタになってくださいよう」


ナイフを逆手に構えた。
踏み込んで両岸の懐に入り、ナイフを振るう。胸に掠り傷をつけれた。


「っ!──いきなり、動きを変えるなよな!!読めねぇぜあんた!!」


一度身を引き、それから両岸は低い姿勢から振り上げた。その剣を大振りナイフで受け流し、ナイフで腕を切りつけてから回し蹴り。
距離が離れて、一息つく。
横目で萌太くんを見る。同岸と対等にぶつかりあっている。


「余所見してんじゃねぇ!!」


両岸が突進する勢いで向かってきた。首を狩ろうと襲い掛かる剣をしゃがんで避け、腹に向けて両腕を交差させるようにナイフを押し出す。
剣を持ち変えて両岸はその二つのナイフの軌道を変えて防いだ。
それでもあたしは踏み込んで身体を切りつけようとした。

人識くんに聞いた玉藻ちゃんの動きを真似した。実際に一度だが玉藻ちゃんの構えも見たし、完成度の低い真似事。

玉藻ちゃんはただズタズタにする為にナイフを振るう。ズタズタにするだけ。本能のままにズタズタ。
軽く軽く。ズタズタにしてやろう。
服を脇腹を腕を脚を首を顔を切りつけた。
押す押す攻める攻める切りつける切りつける。
直感した。理解する。あたしに。彼を殺せる。
竹河両岸も、直感する。身体で感じて、理解した。あたしに。殺されると。


「くそうっっっ!!」


首を。首を跳ねようとナイフが向けた。避けきれない両岸が目を見開く。

あと数センチ。七。六。五。四。三───────。

バタン。

倒れる音に反射的に振り返った。

「萌太くん…」

萌太くんが倒れている。同岸に押された。

「────くっ!!」

ポカンとした両岸が我に返ってあたしの腹を蹴り飛ばす。鳩尾。萌太くんの隣に倒れた。
痛い。鳩尾に重い痛みが響く。
ううっと呻いている時間もくれず萌太くんに起こされた。


 

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あきゅろす。
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