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ソラゴトモノクロ
60 殺し屋襲撃



あたしは。
あたしはドアを開けた。


その先にあったのは、店内。めちゃくちゃな店内だった。棚なんて崩れ落ちていて、品物は散乱している。飲み物で床は濡れていた。人間の血で濡れてもいる。店内が裂かれていた。

一つの白い剣によって、ズタズタにされていた。


「しししししししっ!」


レジの上に立つ殺し屋があたしに向かって笑う。
おいでなさった。

全身が黒い少年。にやりとつり上げる笑み。白い剣を一振りして肩に置いた。


「登場の仕方が派手だね……殺し屋の竹河両岸くん」


強がって笑いかけたが睨んでしまう。店内にいた客も店員も殺しやがった。


「ししししししししししししっ!!探したぜ、臆病者の《猫野友恵》ちゃーん!」


両岸はあたしの。あたしの名前を口にした。名乗ってない。なのになんで。
ああ、バイトか。確かあたしはこのコンビニで猫野友恵と名乗ったのだ。
調べられた。
住所だって安易に調べられたかもしれない。一抹の不安が過る。


「両岸くん、同岸くんは?……いないみたいだけど」
「ぶはっ!同岸が好みぃ?しししっ!妬いちゃうなーししししししっ!!両岸とらぶらぶしようぜ!!」
「!!」


レジから両岸が飛んで向かってきた。真っ二つにしようと剣を振り下ろそうとする。
それはあたしに振り下ろされることはなかった。白い刃は空中で停まる。
違う。糸に停められたのだ。


「ちっ!めんどくせー技だな!!」
「ありがとう!」


張り巡らした糸を両岸の身体に絡み付けて拘束をする。
曲絃糸が使えることを知ってて真っ直ぐに向かって来たのは何故だろう。
疑問に思ったが「萌太くん、姫ちゃんに連絡して」と鞄から携帯電話を取るよう言う。

店の障害物を斬っただけで封じたつもりだったのか?

それよりもアパートが心配だ。同岸がアパートにいる可能性がある。だから、考えるのは放棄した。
萌太くんがあたしの肩にかけた鞄の中から、携帯電話を取りだそうとした。視線はあたしも、拘束をした両岸に向けている。

にやり。

両岸が笑った。

背後から殺気。

後ろかっ!!

キンッ。
萌太くんがいち早く気付いて鞄から大振りナイフを取り出して後ろから襲い掛かった同岸の剣を止めた。
死体に紛れていたらしい。両岸は囮、隙をついてあたしを仕留めるつもりだったらしい。
あたしは剣とナイフを避けて、同岸を蹴り飛ばした。
糸から集中を逸られて、両岸が自由になりあたしに剣を振り上げた。
反応ができなかったが、萌太くんが突き飛ばしてくれたおかげで切られずに済んだ。
あたしは棚の頭サイズの破片を両岸に叩き付けた。

「逃げましょう!」

萌太くんがあたしの腕を引く。言われた通りあたしは萌太くんと一緒に逃げ出した。
コンビニを襲撃するとは、予想外だ。大事だぞ。


「ふふ、強烈なキックでしたね」
「足癖悪いんだよあたし」


涼しい顔で萌太くんが和ませるように笑う。ちょっと緊張が解れた。
後ろを振り返ったがいない。

「いえ。追ってきてますよ」

やはり男の子。あたしゃり足が速くてあたしを引っ張って走っていく。
萌太くんの言う通り姿は見えないが、殺気は追い掛けている。
心拍数上昇。うわっ。走るのが辛くなってきた。

「……逃げ切れませんね」
「ゲホッ!ごめんっゴホッゴホッ」
「謝らないでいいです」

すぐに萌太くんがあたしを心配して足を止めてくれた。噎せてしまう。長距離に向いていないんだよなぁ、ゲホッ。

「流石に人混みの中では斬りかかってこないはずです。ゆっくり息を整えてください」
「うん……はぁ…」

萌太くんはあたしの背中を擦る。人通りが多い中であたしは呼吸を整えた。殺気はまだ向けられている。
「何かいい案がある?萌太くん」なんとか心拍数を下げて萌太くんに問う。

「一姫さんに連絡した方がいいです」
「んー………」

それはいただけない。


「萌太くん。お願いなんだけどさ」
「なんでしょう?」
「姫ちゃん無しで一緒に決着しない?正直来ない方を賭けてたんだ。姫ちゃんには本当に殺し屋と会わせたくないんだよ」
「…………あの人が大事なんですね」
「うん」


賭けていた。殺しに来ないことを賭けていたんだ。
それでなくても可能な限り、姫ちゃんとあの殺し屋を会わせたくない。
萌太くんが首を振るならば、一人で決着をつける。


「…勝算は、あるのですか?」
「二体二なら、いける気がする」
「…………わかりました。ただし、終わったらデートしてもらいます」
「デート?喜んで」


にっとあたしと萌太くんは笑う。よかった。君を縛り付けるところだったよ。
肩を回して、一息つく。


「よし。じゃあ…殺さず解して並べて揃えて晒してやろうか」


遊ぼうか、殺し屋。



 


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あきゅろす。
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