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ソラゴトモノクロ
57 家族

「なぁ、友恵ちゃん」
「なぁに、人識くん」
「なんで俺に優しくするんだ?」
「優しくなんかないよ、あたしは」
「嘘つきめ。友恵ちゃん、知ってんだぜ?アンタが俺にすっげぇ優しくしてんのを」





一人で対処するつもりだったのに、三人がこの事態に参戦した。
零崎曲識さんは退場したが、殺し屋二人は不明だ。
あたし、あたし達は守備で彼らは攻撃。待ち構えるしかない。
崩子ちゃんによれば、尾行はされていないようだ。

明日は萌太くんが付きっきり。夜や部屋にいるときは姫ちゃんが曲絃糸でカバー。殺しを禁じているので人の身体は切れない、しかし通さない糸だ。
竹河兄弟の特徴も話した。これで三人が単独行動をしても逃げられる。来たら逃げろと指示をした。
竹河兄弟がもしも来たら。その時は《零崎》の名前を使う。姫ちゃんに中には効かない人間だっていると言われたがあたしはとりあえずと宥めた。
話し合いで決着をつけられないのなら暴力で蹴りをつける。曲絃糸は効果的だ。できるならやりたくはないが腕一本を奪う。本当に、やりたくない手段だ。


夜は皆で雑魚寝をした。姫ちゃんの部屋で。かなり狭かった。ぎゅうぎゅうだ。扇風機が天使にみえた。
でもなんか嬉しくて崩子ちゃんを抱き締めた。


「暑いです…友恵姉さん」

「えへ…なんか嬉しくて。姫ちゃんもギュッ!」

「うぎゃー!ムサイですえー姉!」

「ムサイって酷いよ姫ちゃん!」

「友恵姉、僕は?」

「それセクハラです!」

「僕だけ茅の外ですか」

「萌太暑いです」

「えっと、今鈍い音が聴こえた気がするんだけど」

「気のせいです」
「気のせいですよー」
「……」

「萌太くんから応答がありません」


萌太くん、崩子ちゃん、あたし、姫ちゃんの並びで狭い部屋に横たわって眠ろうとしたが暫く皆喋った。

流石に蒸し暑くてくっつくのをやめたあと、天井を見つめて呟く。


「なんかこのアパート。一軒家みたいだね」


狭い部屋、呟きは皆に聴こえたらしい。


「何言ってるんです?ボロボロのボロアパートじゃないですか」
「うにゃー…そうじゃなくてね。一緒の家に住んだ家族みたいだって思うの。あたし」


天井を見たまま、あたしは言う。


「前住んでたのもボロアパートだったけど、近所付き合いなんてしなかった。全くの赤の他人。人付き合い好きじゃないしあたしは人見知りするからまぁ、それが当たり前だったけどさ。ここは皆家族みたいだ。きょうだいいるけど無関心でね、親なんて嫌いでさ、家族愛がわからないんだよ。あたしはそこが欠落してるみたい。でもね、みいこさんに世話してもらったり可愛がってもらったり、片頭痛で萌太くんと崩子ちゃんに看病してもらったり、今日みたいに心配してくれたり……初めてだよ。こんな風に雑魚寝してじゃれなかったし互いの心配なんてしなかったんだ。一ヶ月話さなかったりもするよ。なのにすごいよね。このアパートの皆は素敵だ。すごくね。その辺の家庭なんかよりずっと、素敵だよ。あたしはここに住めたことを誇りに思う、自慢に思う。あたしは大好き。萌太くんも、崩子ちゃんも、姫ちゃんも。皆好き」


一人で長い台詞を言ってふと我に戻る。ちょっと恥ずかしいことを言ってしまっただろうか。

誰からも返答がない。

長すぎてつまらなすぎて子守唄代わりに寝てしまったのだろうか。
「あれ……みんな寝ちゃった?」と小声で聞いてみるが寝てる気配はしない。


「………僕も、そう思いますよ。友恵姉」


萌太くんが口を開いた。
「ここは自慢だと、思います」そう言ってくれた。

「自慢で誇りで───大事です。友恵姉も大事なんですよ、僕。だから、心配しますし守りたいです」
「……萌太くん。ん?」

天井を向いたまま萌太くんの声に耳を傾けていれば、服を握り締められていることに気付く。左右から小さな手が握りしめていた。


「……なんですか。いきなり。いきなり…そんなこと。まるで…………明日死んじゃうみたいですよ…友恵姉さん」
「え?」
「えー姉が死ぬのは反則ですよ。そんなのずるい。遺言は聞きませんよ。やめてくださいよ、嫌です」
「え?」


くっつくのを嫌がった姫ちゃんがギュッと抱きついてきた。その逆から崩子ちゃんが腕にしがみつく。
…痛いぞ怪我人だぞ。

もしかして、この状況でこんなことを、言い出したから死ぬかもしれないと勘違いしたのか?
命を狙われているのにこれはそう勘違いしてもしょうがない。思わず苦笑をする。失笑かな。


「やだな、二人とも。遺言なんかじゃないよ。死ぬなんて思っちゃいないよ。もう……二人とも大好き!妹みたい!可愛い!大好き!」


あたしはギュッと二人を両腕で抱き締めた。妹みたいな、崩子ちゃんと姫ちゃん。大好きだ。だから、だから、巻き込みたくない。幸せになってほしい。
傷付ける者は、許さない。






 


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あきゅろす。
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