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ソラゴトモノクロ
04 萌太くん


「あ、あのね崩子ちゃん。あたし散歩に行こうとしたんだけど、京都って初めてだから道わからなくて…よかったらこの辺教えてくれない?」
「いいですよ。わたしはこれから図書館に行くつもりだったのでご一緒にどうですか?」
「図書館?いいね、一緒に行くよ」
「じゃあ行きましょう。友恵姉さんと呼んでも構いませんか?」
「うんっ!いいよ」


崩子ちゃんがそう言われて嬉しくなった。友恵姉さんか。


「じゃあいーくんに図書館に行くって伝えてくるね」
「……友恵姉さん。本当に何もされてませんか?」
「へっ?え、何もされてないってば…」


またもや崩子ちゃんがそんなことを言う。否定したら「そうですか」と呟いた。
気にしないであたしはいーくんに崩子ちゃんと出掛けることを告げる。
それから、図書館へと向かった。
崩子ちゃんはあたしと手を繋いで案内をしてくれた。

その間、少しお話をした。
あたしがいーくんの部屋に居候した経緯を。人識くんの名前はぼかして、家出同然だと話しておいた。ていうか家がなくなったと、そうきっぱりと言う。

そしたら崩子ちゃんも兄と二人で家出をしたと話してくれた。
それからその兄がお洒落を許してくれないと愚痴を洩らした。
「過保護なお兄ちゃんなんだね」とあたしは苦笑する。


「お兄ちゃんか……欲しかったなぁ」
「友恵姉さんは一人っ子ですか?」
「ううん。長女で弟二人妹一人、いたよ」
「多いきょうだいですね、大変でしたか?」
「うん……でもあたしは崩子ちゃんのお兄ちゃんのように過保護じゃないし、あんまり面倒みてなかったから」


「仲が悪かったのですか?」と崩子ちゃんが見上げる。あたしは首を振って否定した。
「多分そこそこ仲が良かったよ、あまり互いに興味なかっただけ」と答える。


「ちょっとうざいくらいの過保護なお兄ちゃんが欲しかったなぁと思うよ」


お兄ちゃん。人識くんのお兄ちゃん。会って、みたいけど。
大丈夫かな。人識くん。


「構ってほしかったのですか?」
「誰か一人くらい、構ってくれる人がいなきゃ…ぐれちゃうんだよ」


理解しがたそうに首を傾げた崩子ちゃんに笑って言う。


「友恵姉さんはぐれたのですか?」
「んーまぁ、そこそこぐれて反発したよ。可愛い程度だけれどね。遠くに家出する勇気がなかったからさ、ちょっと悪いことしたりしたよ」
「…見掛けによらずいけないことをしてたんですか?」
「うん、いけないことをあれやこれやってね」


冗談めいて笑ったあとに図書館について、それぞれ読む本を探した。
図書館とか懐かしいなぁ。
どんな本があるのかとあたしは眺めた。全てのジャンルを見回した頃には崩子ちゃんは選んだ本を読んでいた。知的な白ワンピの美少女は目の保養だ。

ふぅ、と息をつく。


何かあたしに出来ることはないのかな、と見回してみるが見付かるわけもない。

人識くんが迎えに来るまで、いーくんを助けてみようか。
…戯言だ。

あたしに何ができるっていうのだろうか。
静かに溜め息を吐く。

武術の本だとかを見るが、見るだけで強くなるわけない。
人識にちょっと(喧嘩の際)相手をしてもらったが、人識にもてあそばれてたからそこらの殺し屋には安易に殺されるのだろうな。

いやだいやだ…。

せめて人識くんが迎えに来るまでに生き残る努力をしようか。
みいこさんに剣道教わろうか。それともいーくんに…。怪我してるしなぁ。

どうしよう。

思考しつつも武術の本を漁り飽きて次は図鑑で武器を眺めた。
眺めてもあたしは丸腰なのだが。

カバンに人識くんに貰ったナイフがあるけれど。
「どうしてぼくにはくれず友恵ちゃんにあげているんだあの人間失格は」といーくんは独り言を愚痴っていた。
貰ってしまったのだよ…いーくん。多分安いナイフだったんだよ。


暫くして「友恵姉さん」と崩子ちゃんが探しに来てくれた。
兄が帰ってくる時間だから帰ろうとのこと。
気付いたら夕方だった。
あたし達はまた手を繋いで帰ることにした。
一体どんな本を読んでいたのかと他愛ない話をして、アパートへと戻ると前にいる少年を崩子ちゃんが指した。


「あれが萌太です」


作業服の少年が気付いたのか振り返る。バイト帰りらしい。たれ目だけど美少年だ。微かに、煙草の香りがする。この子煙草吸ってたんだっけ…。


「どうも。こんにちは」
「こんにちは」


にこり、と萌太くんは綺麗な微笑を返してくれた。
うわっ超タイプなんですけど。チキンハートがバクバクする。


「わたしの兄の萌太です、友恵姉さん。萌太、こちら友恵姉さん。戯言遣いのお兄ちゃんの部屋で居候してます」


手を繋いだまま崩子ちゃんが紹介してくれた。
「いー兄の?」と萌太くんは目を丸めて崩子ちゃんからあたしに目を戻す。


「あ、崩子ちゃんにも言ったけどいーくんの恋人じゃないんです。ちょっとだけお邪魔させてもらってるんだ」
「ああ、そうなんですか。崩子と仲良くしてくれたみたいですね、ありがとうございます」


萌太くんはいいお兄ちゃんの笑みを向けてあたしに手を差し出した。
「よろしくお願いしますね?」とのこと。ああそうゆうことかとあたしは萌太くんの手を取った。
「こちらこそ、よろしくお願いします」と握手。


 


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