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ソラゴトモノクロ
55 お願い


「これは姫ちゃんだけじゃない。《闇口》崩子ちゃん。《石凪》萌太くん。君達三人はもう《その世界》から抜け出したんだ。これはお願いだよ。あたしが勝手に巻き込まれた事件に首を突っ込まないで手を汚さないで」


あたしは萌太くんと崩子ちゃんにも目を向けた。
二人は沈黙する。名字を強調したから、沈黙した。

「……知ってたのですね。友恵、お姉さん」

最初に口を開いたのは、崩子ちゃんだ。
あたしは無言で頷いた。

「《闇口》は《暗殺者》、《石凪》は《死神》。知っているよ」

知っている。知っている。
どうやら姫ちゃんも気付いているようで、黙り込んでいる。互いの素性はもう薄々気付いているらしい。


「あたしの友達が《零崎》だからね、聞いたの」
「…そうですね。《零崎》と《匂宮》を知っているなら《闇口》くらい知っていますよね。僕が《死神》だと知っているからこそ護衛を許した」
「びっくり?これでも一般人だよ。《殺し名》を知ってても別にいいでしょう。問題は君達だよ、別に《死神》だから護衛してもらおうと思ったんじゃない。殺し屋と関わるなんてしてほしくない」


萌太くんも口を開いたがあたしはちゃんと言う。巻き込みたくないことを。
すると隣で「…殺し屋…」と姫ちゃんが呟く。
「匂宮っ…!」バッと立ち上がった。あたしは反射的に姫ちゃんの腕を掴む。
小さな体は安易にバランスを崩してあたしの上に落ちる。つかさず姫ちゃんの首に腕を回して両手を封じる。

「どこいくの。姫ちゃん」
「っ!殺し屋ですよ!なんでえー姉が狙われるんです!殺される前に」
「声でかいし、勘違いしてる。落ち着いて?お願い」

もがく姫ちゃんに静かに言う。無邪気な顔はない。あの首吊高校の廊下で見た姫ちゃんの表情だ。
口を押さえれば姫ちゃんは次第にじたばたするのを止めた。
あたしはぎゅうっと抱き締める。


「え…姉……」
「別に殺し屋の標的になったわけじゃない。ただね、まずいものを見ちゃったから、もしかしたら殺しにくるってだけ」
「…っ同じです!」
「同じじゃない。可能性は低い。だからね…姫ちゃん。そんな顔しないで、絶対になにもしないで、お願いだよ。殺しはやらないで。殺るっていうならあたしは……あたしは……皆の前からいなくなる」


他の客に聴こえないようにあたしは抱き締める姫ちゃんに言う。その声は萌太くんと崩子ちゃんにも届いたらしい。

「じゃあ誰が殺し屋を殺すのですか?話し合いではそうですかと引き下がってはくれないでしょう」

崩子ちゃんが睨み付けてきた。
「友恵お姉さんが殺すなんて言いませんよね」と皮肉そうに言う。


「人類最強の哀川潤さんに約束してるから。あたしは人を殺さない」


あたしは首を縦に振って頷く。姫ちゃんがビクッと震えた。
少ししてあたしは姫ちゃんを話す。うつ向いて強く唇を閉じた表情は、胸が痛む。

「………大丈夫だって。多分諦めてくれたよ。襲ってこない」
「そんな顔はしないでください!」

姫ちゃんの頭を撫でて微笑んだつもりだったが、崩子ちゃんがぴしゃりと言った。また、あの顔をしてしまったらしい。


「そんな…荒唐無稽に言わないでください、お姉さん」
「そんなことないよ、崩子ちゃん。びびりだから色々常備して明日は萌太くんと一緒だから護衛みたいなことをしてもらうだけで。そんなに」
「諦めるわけないじゃないですか…殺し屋ですよ……」


姫ちゃんまでボソリと言う。んー。二人に言われると狙われてる気がしてしまう。
さりげなく、あたしは周りを見回してから溜め息をつく。気まずい空気の中、嫌なほど響いた。

数分。皆が黙った。

沈黙を破ったのはまた、崩子ちゃんだ。


「わかりました。そちらの条件を呑みます」
「え?」
「友恵姉さんの条件を呑みます。だから…守らせてください」


崩子ちゃんは涙で揺れる瞳であたしを見つめた。
あたしは暫くそれを見て、姫ちゃんを見る。
姫ちゃんは無言で頷いた。

それが一番いい方法だろう。


 


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