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ソラゴトモノクロ
54 バレバレ





ファミレスについて姫ちゃんに崩子ちゃんと来るよう連絡した。それから向かい合って座る萌太くんに昨日のことを話す。
つい誤って映画館にいったとか対抗して曲絃糸やら剣で戦ったとか戯言とかはまあまあ省いておいた。
とりあえずとして殺し屋の殺しを目撃したが殺される直前に前々から話していた《友達》つまり《とある零崎》の兄である零崎曲識さんに助けられたことを話しておく。


「……友恵さんって何者ですか?」


一通り話を聞いたところで萌太くんが発した第一声がそれだった。


「えーと……どうゆう意味かな?萌太くん」
「殺し屋に殺されかけて《零崎》に助けられるなんて前代未聞ですよ」
「………………まぁ、《零崎》には色々と縁があるからね。そこはまぁ…いつか話すとします。とりあえず問題は《零崎》じゃなくて殺し屋の方」
「竹河兄弟ですか。それなら聞いてますよ、なかなか名の知れた殺し屋です」


《零崎》の話題は回避。
両岸くんもなんかそれなりに腕の立つ殺し屋だと名乗っていたからそうだろう。萌太くんの耳に届いているというならすごいんだろうね。


「《零崎》が出てきたなら彼らも無闇に手は出さないでしょう」


萌太くんは店内を探るように見回せつつ自分の意見を言った。


「うん、あたしもそう思いたい。けれど油断はできない。目撃者は消すのに限るって言ってたからさ…何もないならそれでいいけど」


そう願う。もしも彼らが探しているならば、こうやって誰かといるのは巻き込むことになるので嫌なのだが、そんな不安を吹き飛ばすように萌太くんが笑いかける。


「きっと大丈夫ですよ、友恵さん。心配ならば僕が側にいますから」


優しくテーブルの上に置いた手を、萌太くんは握ってくれた。


「明日は一緒ですしね。僕が護衛します。異論はないですよね?友恵さん。ここまで話しておいて近付かないでくれなんて冷たいことは言わないですよね?」
「………」


意地悪な笑顔だった。
この子の笑顔はたまに悪意を感じる。


「……萌太くんが話させたんじゃん。君には敵わないな。異論はないよ。でも最初に言ったように二人には隠してね?」
「わかってますよ。では、四六時中お側にいさせていただきます」


四六時中か。笑顔で頷く萌太くんがボディーガード。美少年がボディーガード。おう、にやけてしまうぞ。なにどきどきしてるんだ。


「えー姉!おまたせですー。あれ?どうして萌太くんと手を繋いでるですか?」


そこに姫ちゃんと崩子ちゃんが到着。姫ちゃんが繋いだ手を見て首を傾げる。
「ああ、これは腕相撲して負けちゃったんだよ」と嘯く。
「ああ、なるほど!」と納得した。
あたしの隣に姫ちゃんが座り、萌太くんの隣に崩子ちゃんが座る。


「あたしの奢りだからデザートまで頼んでいいよ」
「当たり前じゃないですか!」


………当たり前か。そうだね。あたしが年長者だもんね。
店員さんを呼んで注文した。日払いでバイト代を貰っているので金の心配はしなくてすむ。別に欲しいものはないからね。無くなっても不便ではないし。


ああ。いいなぁ。やっぱり。誰かと食事するのは和む。
朝と昼はコンビニで黙々と食べたから、四人でテーブルを囲むだけで癒された。
癒されたのだが、崩子ちゃんから不機嫌オーラが出ている。どの角度から見ても不機嫌だ。
これは心当たりがある。朝のことだろう。

「あー、崩子ちゃん。デザートいる?」
「そんなもので朝のことをなかったことにできると思っているのですか」

勇気出して話し掛けたらばっさりと斬られた。仰る通りです崩子ちゃん。

「うん……ごめんなさい」

苦笑しつつ後退。萌太くんをちらりと見たが、萌太くんは間に入る気がないらしい。知らん顔を決めている。


「なんです?この夕食は崩子ちゃんへの罪ぼろこしですか?」
「姫姉さま。罪滅ぼしと言いたいのですか?」
「……違うよ。姫ちゃん。臨時収入が入ったからご馳走したんだよ。今日は料理する気分じゃあなかったから」


どんどんと皿の中の料理を食べていった姫ちゃんが言ってきたので答える。夕食が作れないのも理由だったりする。腕痛いんだよね。


「気分の問題じゃなくて怪我の問題じゃないですか?えー姉」


さりげない姫ちゃんの台詞を聞き流しそうだった。思わず身体が反応してフォークがカラリと掌から落ちる。

「え…………?」
「左腕は膝の上に置いたままだし、フォークを持つ右手はあまり動いていません。湿布のにおいしますよ。怪我してるでしょう、えー姉」

言葉を失う。
自然に振る舞っていたし、Yシャツで腕を隠したのに姫ちゃんに、バレた。

「図星ですか?実は今のは引っかけだったんですけど」

と姫ちゃんがしれっと言ったため絶句。


「潤さんから連絡があったんですよう。何かトラブったらしいから助けてやってくれと頼まれたんです」


潤さんの仕業か!!うわっ。ビビった。ちょっと!危ないじゃないか!


「姫ちゃん!あたしはびびりでチキンハートなんだよ!脅かしちゃ、めっ!」
「え?ああ、すみませんです。でも、でもでも!えー姉がこそこそメス豚みたいに隠すのがいけないんです!」
「め、メス豚!?」
「んー…あっ。泥棒じゃないですか?ねぇ、崩子」
「そうです、隠す友恵姉さんがいけないのです。びびるほどのことを隠しているんですか?友恵お姉さん」
「隠しちゃいけませんよ!潤さんからしっかりと頼まれたのですから!」
「ううっ……」


姫ちゃんに崩子ちゃんが便乗。萌太くんが間に入ったが誰にも構ってもらえなかった。
わあ萌太くん肩身狭い思いしてるう。
詰め寄るような二人にあたしはなるだけ離れるが逃げ道はない。


「一体何があったのですか?友恵姉さん。何故怪我をしたのですか?」
「どんなトラブルですか?えー姉。姫ちゃんの糸を持ち出したでしょう?話してください」


二人が鋭い目付きで問う。バレバレだ。二人を言いくるめるのはちょっと。無理がある。


「別に……大丈夫だってば。解決したから」
「嘘ですね」
「嘘です」


やっぱり無理がある。


「えー姉は師匠と同じ嘘つきです!」
「ひどっ!君に嘘ついた覚えないのに!あんな戯言遣いと一緒にするなんて姫ちゃん酷い!」
「友恵姉さんだって戯言を言うじゃないですか。戯言遣いのお姉さんです」
「ううっ……ずるいよ、口喧嘩弱いのに二人で詰め寄るなんて。萌太くんヘルプ」
「え?僕が助けるべきですか?」
「萌太は事情を聞いたみたいですね。萌太から聞きます、話してください」
「ですね」
「ですね、じゃないよ萌!」


いーくんみたいに悪意を持って嘘ばかり言ってないのに、酷い。追い詰められて萌太くんに救いを求めたらあっさりと彼は白旗を上げた。


「だって友恵姉。もう隠すどころかバレバレじゃないですか。話しちゃいましょうよ」
「軽すぎるよ、萌太くん。もう君に秘密を明かしてやらない」
「それは傷付きますね……」


項垂れるあたしを萌太くんは説得し始めた。
話すだけならいいじゃないですか。条件をつければいいでしょう。



「ん……じゃあ、話しても何もしないことを誓ってよ」
「やですよー。話を聞くだけじゃないですかそれ。姫ちゃんがトラブルの意図を切って差し上げますよ」
「それをしてほしくないんだよ。姫ちゃん」


姫ちゃんは条件を呑まないとすぐに首を振った。あたしは睨み付けるように隣の姫ちゃんを見る。


「大丈夫ですよ、全快とはいきませんが指だってそれなりに」
「そうゆうことじゃない」


あたしは姫ちゃんの手を掴んで下ろさせる。


「姫ちゃん……君に殺しはもう二度と。やってほしくない。やめなさい。あたしなんかのせいで、君の手を汚してほしくなんかない」


真っ直ぐに、あたしは姫ちゃんの目を見た。その瞳の奥に告げるように言う。


 


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あきゅろす。
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