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ソラゴトモノクロ
51 自業自得



「ふふっ」

会話を聞いていたのか、男が情けない顔をしていたからか、笑う者がいた。
レジの前に、ツナギをきた、少年が。

ていうか、萌太くんが立っていた。
顔がひきつる。なんでこの子、いるんだ?

「いらっしゃいませ…」

とりあえずレジには萌太くんが購入しようと持ってきたパンとペットボトルが置かれていたので接客をした。
「品整理してきます…」と男は気まずさに逃げていく。


「なんでいるの、萌太くん」
「え?たまたまですよ。昼休憩に買いに来たんです。だめでしょうか?」


とぼけて演技気味に萌太くんは笑いかけた。萌太くんの仕事場から近かったけ?このコンビニは。
「別に」とあたしは会計をする。

何のために来たのだろう。あたしの様子を伺いに?
ああ、ミスった。今あたし口を滑らせてしまったではないか。
《今あたし命を狙われてますから》
聞かれてしまった。
余計に心配かけてしまう。あーあ。


「崩子ちゃんに怪我したことバレちゃった」
「あー、だめじゃないでしか。崩子が心配しちゃうでしょう」
「君が上手く隠さないからでしょう。あたしのせい?ひどーい」
「友恵さんが隠すからですよ。僕の妹には隠しきれません」


きっぱりと、萌太くんは笑顔で言った。あたしは呆れながらも品をビニール袋に入れて差し出す。それを受け取らない萌太くんはにっこりと笑うだけだ。
あたしは仕方なく身を乗り出して、萌太くんの耳元に顔を近付けた。


「君の妹が危険な目に遭ってもいいの?崩子ちゃんを心配して。暫くあたしに近寄らないで」


そう囁く。誰も聴こえないように囁いて、それからビニール袋を萌太くんに持たせた。

離れて萌太くんを見たら、身を引き気味にして目を丸めてる。
…息が臭かっただろうか。
シリアス空気ぶち壊し…。


「萌太くん…?」
「あっ…。ああ…はい…コホン。友恵さん、何時にバイト上がりますか?」


呼び掛ければ咳払いを一つ、にっこりと萌太くんは気を取り直した様子で訊いてきた。
あれ…?今の…聞いてなかったのかにゃ?


「あのね、萌太くん…」
「仕事が終わったら迎えに来ますので待っててください。ではまたあとで」


さっさと言い萌太くんは意地悪に笑って店を出ようとした。
呼び止める前に「ああ、そうだ」と顔だけこちらに向けて萌太くんは言う。


「崩子なら大丈夫です。《主人》がいなければ、動けませんので」


萌太くんはそう言い残してスライドドアを抜けて行ってしまった。
そうか。《闇口》である崩子ちゃんは《暗殺者》というより奴隷に近い存在で《主人》がいなければ殺傷能力が使えないのだ。
ではよっぽどのことがない限り、ばかなことはしないはず。
なら、心配はないだろう。
あたしは一息ついた。


それから五時間にバイトは終わり、コンビニの前に出る。

律儀に十分待ったが、限界だ。あたしは短気なんだ。
萌太くんを待つのは止めて、歩き出す。待つのは嫌いだ。
待つなんて一言も言っていないので、待つ義理はない。


歩いて三十分後。確信した。あとをつけられている。
視線が背中に突き刺さり、一定の距離をとってついてきているのを感じる。

零崎曲識?彼なら“気配”を感じれるはずだが。
竹河兄弟?彼らはプロだ。あたしに気付かれる尾行はしないはず…。
わざとだろうか。わざと気付かせようと?それなら殺気を向ければいい。

まぁ、どちらでも同じだ。
手袋は嵌めて用意済み。ついてくるのなら人が来ない路地に行き、曲絃糸で捕まえるまでだ。

今回は切らない云々は言わない。足の一本、奪ってやる。
指先を動かしながら鞄から糸を抜き、路地を探して向かう。

さぁ。ここでいいだろう。


路地に入って、バッと振り返り様に糸を振り撒く。後ろを見て、あたしはポカーンと口を開けてしまった。

そこにいたのはあの貧相な男だったのだ。つけてきたのはこの男。

それだけなら「は?」といった感じになりつつも対処できるのだが、男はガタガタと震える腕を突き出して鋏をあたしに向けていたのだ。レジにあった鋏。


「……あー。“殺してやる”以外の用件なら聞きますけど?」


とりあえず撒き散らした糸を回収する。男は糸の存在なんてまるきり気付かずにあたしに一本近付いた。


「お、お前がっ!お前が悪いんだっ!!」


あたしが悪い?あたしが何かしただろうか。はて。見当もつかない。


「こ、ここっ殺してやるっ!!な、なにが生きてるだ!死ねばいい!人間なんて死ねばいい!」


それは胸の中だけに留めるべきだろう。傍迷惑だ。ん?自業自得?昨日に引き続き?
そんなわけ………………。
「哀川さん曰く、ぼくらは存在するだけで“落ち着かない気分”にさせるんだって」
退院後にいーくんがあたしに言ったのを思い出す。
「自分の欠点を指摘された気分になって心が揺れるらしい。それを恋心と判断する人がいれば敵意と判断する人がいる。前者は傷の舐め合い、後者は同属嫌悪」
事故頻発性体質……。
「つまりは、君とぼくは仲間……同志だね」
死んだ目ですました顔で親指を立てるいーくん。

いや…うん…そこは忘却しよう。

無為式云々は忘れよう。

あたしはただ異世界からきた不自然な存在だからちょこっと悪影響を与えただけだよ。うん!


 


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