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ソラゴトモノクロ
46 偽零崎vs殺し屋



「ししししししししっ!何いってるかさっぱりわかんねぇ狂った?ぷはっ!可哀想ーなぁ兄弟。早く逝かせてやろ───ぐ!!?」

「!!?」


竹河兄弟が、呻き声、手にした剣を落とす。身動きできない身体に思わず驚き剣を手放した。

「動くなって…言ってるでしょ」

あたしは溜め息をついてから静かに言う。
疲れたように冷めたように息をつく。

「な、なんだよ!?なにしやがった!?」

「同岸くんが来たときはバレたとひやひやしたけど、良かった。気付かないでくれて……ありがとう」

自分が何故身動き取れないかは理解できていない二人に構わずあたしは言う。
「もがくと、身体がバラバラに切れちゃうよ?」と脅せばもがいていた二人はピタリと止まった。

「………糸……」

同岸が呟く。自分の身体の自由を奪う正体を。
「あん!?」両岸も目を凝らしてそれを確認した。

曲絃糸。
姫ちゃん直伝の拘束術。
手袋を常備してたのが幸いして、逃げるのを断念した時から鞄から糸を取り出してナイフを振り回す際に辺りに撒き散らしておいた。
数えてはいないが百近くの糸があたしの手から伸びている。まだまだ未熟だが姫ちゃんはこんなに早く出来てしまうなんて天才だ!とか褒めていた。無理ある。


「動かないで死ね。絞め殺してあげましょうか。バラバラは惨めですものねぇ」


あたしはにっこりと笑ってやる。初めて向けるが上手く笑えてるかどうかは謎。
指を少し動かして軽く二人の首を締める。
戯言なのだがな。
人識くんと潤さんとの約束がある。1ヶ月もしない内に破るなんて情けない。我慢強いんだぞあたし。だから殺さない。
だから殺せない。

終れない。殺せたらどんなに楽か。追われずにすむのに、殺せない。さてどうしようか。
一先ず指を動かして首を締める糸を緩む。


「ねぇ、どうしてあなた達は殺し屋なの?」

「はぁあ!?」

「《匂宮》の分家だから?そんな理由じゃなくて。どうして君達は殺し屋になって殺し屋なの?解せないなー。解せないよ。《零崎》は殺さずにはいられない殺人鬼だ。君達は殺しが好き?だから殺しをやるの?産まれてから決まってたレールだから殺し屋になっちゃいました?あらりゃあらりゃ、可哀想」


戯言だった。思ったことを何も考えずに言う。
両岸が何かを言いかけたが構わずあたしは言った。それからもう一度「可哀想」と告げる。
座席に縛り付けてとんずらしようか。
なんてぼんやり考えていれば、両岸の顔が怒りに歪んだ。

だんっ!!

両岸が床を踏みつけた。違う。剣を踏んだ。剣の柄が踏み剣が跳ね上がり、それを両岸は左手で掴んだ。
自分に絡む糸をブチ切りあたしに向かってきた。


「うるせーっ!!」


剣が振りかざされる。殺気。間違いなく殺そうと向かってきた。
あたしができることは一つしかない。まだ封じている同岸を、両岸に叩き付ける。
剣が首を掠めたがなんとか命は斬られなかった。
距離を取る。
不利だ。不利すぎる。
こちとら殺しができないのに、相手は安易に殺せる。殺さないように指先に神経使っているのだ。無理だ。
哀川潤クラスでない限り無理に決まっている。

使える糸を回収。縺れても仕方ない直ぐに集めて、左手だけ手袋を脱いで同岸の剣を拾う。


「逃してくれないかな?お兄ちゃん達には黙っててあげるからさ」


最後の足掻き。同岸はともかく、両岸は切れたようだ。何も言わない。

睨み付けて剣を構える。
同岸は他に武器がないらしく素手で構えた。素手だろうが殺し屋だ。あたしと違って鍛えているのだ。身体の構造が違いすぎる。力量が違うのだ。


「全く…」

笑えるだろう?

「傑作だよな!」


カシャンッ。
剣が剣とぶつかり合う。もっとみいこさんに剣術を教わるべきだった。本格的な殺しの…。否、だめだめ。殺しちゃいけない。

両岸とは別の殺気に気付けば、同岸が横から拳を振るってきた。
あたしがそれを避けるために後ろへ飛べば両岸が剣を振るう。

それを避ければ同岸が攻撃を仕掛けた。
挟み撃ち。二人相手。休む暇も与えない。


「恥ずかしくない!?二人かがりでくるなんて!プロのプレイヤーじゃないね!」
「てめぇが言うか!?ししっ!!奇術師が!!」
「奇術?はて、なんのことかな!」


二人相手にあたしは動けた。拍手をもらうべき素晴らしい動きだ。なんであたしこんな動けるのだろうか。


 


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あきゅろす。
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