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ソラゴトモノクロ
45 ぶちギレ


「あたしは……零崎」
「………はぁーん?ぜぇろさぁき?ぷはっ!!零崎ってアレだよな?殺人鬼集団!!おいおい!ばっかだなぁ!!んな嘘が通じると思うなよ!いひししししししししっ!!」


大笑いされた。
だろうな。こんなボロボロに追い込んだ小娘を《零崎》とは思わないだろう。
玉藻ちゃんに会いたい。
なんで死んじゃったのかな。姫ちゃんが殺したんだ。あたしが見殺しにしんだよな。
首吊高校の女の子達は皆、信じてくれたのになぁ。あーあ。あーあ。あーあ。あーあ。あーあ。


「零崎だよ。零崎。零崎なんだよ。見えないって?慣れてないんだ新人なんだよ。試す?試してみる?一賊を相手にしてみる?あははっいいね、頑張ってよ」
「脅しのつもりぃ?ししししししししっ!嘘ばっか!早く名前を言いなよーおじょーちゃん。面白かったから遺言も聞いてやる」
「だぁからさ、零崎だっつーの。聞けよ。嘘じゃない。零崎だ。あたしは零崎だよ」


取り合わない両岸にあたしは虚ろの瞳で見据えつつ言う。自己暗示のように言い聞かせた。
意識が沈む。静かに沈む。

「遺言か。遺言ねぇ。じゃあ《自殺志願(マインドレンデル)》のお兄ちゃんに言ってくれないかなぁ、もっと愛情を受けたかったって」
「……………」
「兄妹は素敵だったって。大好きお兄ちゃんって。ちゃーんと死ぬ前に言っておいてね?ああ、思い返すと腹立たしいなぁすごく。どうして最後にこんななまったるい映画を観なきゃいけなかったんだ?どうしてあたしはあんなくそギャルにこんなところに連れてこられなきゃいけなかったんだ?なんで危ないところに行かないように努力したのにバカな殺し屋が劇場で殺しをやるのを目撃しちゃうんだよ?うわわー傑作だろう?」


戯言を口にして、睨み付ける。バイトを引き受けたのもギャルに連れられたのも自業自得なので仕方ない。
仕方ないが仕方ないですむほどあたしは温厚ではない。
だいたいあたしは短気なんだ。たまにはストレス発散させろ。いい子ぶるのは大嫌いだ。



「───あたしはこんな目に遭って殺される為にこの世界に来たんじゃないっ!!!!!!」



腹の底から出したのは、間違いなく怒声だった。
剣を払い除けて、立ち上がり、ナイフを振り上げる。
ナイフは両岸の脇をかすった。

「てめっ!!」

流石の両岸も怪我を負わされて顔色を変える。剣を振られる前にありったけの力を込めて蹴り飛ばす。ドロップキックとも呼べそうな蹴りで両岸が吹き飛ぶ。
だがダメージはあまりないようで踏み止まった。
プロのプレイヤーとの差だ。


「全く…!!全く…!!潤さんも買いかぶりだってーの!!全く…!!ああ!イライラする!!殺し屋だと!?物語にも登場しねー分際があたしと関わるなってーの!!!」


多分、ギャルへの苛立ちのせいで溜まっていたのだ。ペラペラとあたしは怒る。
そんなあたしを殺そうと両岸が剣を構えた。その時。剣は不自然に飛び、スクリーンに突き刺さった。

「ああ!?」

一体何が起きたのかわからず両岸は困惑する。不自然な飛び方からして両岸が投げたわけではない。ひとりでに剣は吸い付くようにスクリーンに突き刺さったのだ。
困惑する彼なんか気にもせず常備していたナイフを手にあたしは向かう。

「なんでっ!あたしがっ!こんな目に!遭うんだよ!!」
「っ!!」

腹を裂こうとナイフを振り回せば両岸は避けた。
腹立たしい腹立たしい。
ブチキレた。
《零崎》と言い張って狂った殺人鬼を演じるのも明るくいい子を演じるのも年下に優しくするお姉ちゃんキャラを演じるのも、やってられない。
そうさ。あたしは人によって人格を作る。気持ち悪い。仮面を取り替えて笑うピエロだ。
臆病者のピエロだ。ピエロで臆病者だ。


「てめぇえ!何者だ!!」
「あたしは臆病者だ!!よろしく殺し屋っ!!!」


ナイフで切りかかり、仰け反ったところで足を崩す。
両岸は倒れかけたが両手を先について浮いた足であたしの足を蹴り崩した。
あたしは前のめりに倒れ込む。両岸の上だ。迎え撃つと構えたのが見えた。あたしは咄嗟に彼の腹に足をつき踏み蹴り距離を取る。
すぐに両岸が腹を押さえながら起き上がった。
駄目だ。やっぱり敵いっこない。
逃げても追われる。
どうする?
そう睨み合っていれば、襲い掛かる攻撃に身体が反応した。
視覚じゃない、感覚が直ぐ様危険を察知して身体を動かす。
しかし、間に合わなかった。
すぱっと右腕が斬りつけられる。
「っ!?」痛みと同時に血が吹き出す。


「────竹河同岸(どうがん)」


どちらとも距離をとる。
いつの間にか背後にいた少年の“殺気”に気付いていなければあたしは死んでいた。殺されていた。サンキュ身体。
なんてなんとか余裕を保つ。敵が二人になったのは、本当に本当に本当に希望を根こそぎ浚っていきそうな真実だ。
距離を取っている間に両岸が自分の剣を取りに向かう。


「これで終わりだな、偽零崎!ししししししししっ!」

「………」

「似てない兄弟だね。めんどくせー。なんで俺が殺し屋を相手に戦わなくちゃいけねぇんだよ、たっくよー」

「おいおい、恐怖のあまり人格破綻しちゃったわけ?おじょーちゃん。一人称《あたし》だったろーが」

「《俺》って一人称だったんだよ、前までは。女らしく言葉遣いを直して《あたし》に変えてただけの話。つーか素?つーかもうめんどくせーから楽な喋り方にさせやがれよ」


どでかい溜め息を吐く臆病者。相手は殺し屋二人剣所持。臆病者はナイフに一人。
せめて玉藻ちゃんの大振りナイフがあればな。いーくんの部屋だ。潤さんに何故か大振りナイフを貰ったけど使えず死ぬのか。
勝ち目はない。勝てるなんて思ってたと言うのは戯言だ。勝てるわけない。勝負なんかしてないのだから勝ち負けはないのだ。


「あっそー、おじょーちゃん。じゃあ名前を聞くのは諦めってと。殺してやるよ、偽零崎」

「動くなよ…。両岸くんやい。殺して解して並べて揃えて晒せない身分なんだ。動くんじゃねーよ…全く……」

「おいおい、また愚痴る気かよ?悲鳴の次に愚痴は嫌いだぜ?ししししっ」

「動くな。てめーもだ割り込み野郎。プロのプレイヤーが素人様を後ろから切りつけるとはどーゆーこったあ、ああん?信じらんねー。全く殺してぇ殺してぇ!!潤さんとの約束破りてぇ!!なんで守んなきゃいけねぇんだよ!!なんであたしが頑張んなきゃいけねぇんだよ!!どうして読者が怪我すんだよ!!なんで助けられないんだよ!!なんであたしがいるんだよ!!どうしてあたしが死に物狂いで生きようとしてんだよ!!死んじまえばいい!!自分なんか大っ嫌いだ!!!大っ嫌いだ!!!!大っ嫌いだ!!」


泣きたかった。それでも睨み付けてあたしは怒鳴る。思い付く言葉を吐き捨てる。

吐いて吐いて吐いて吐き捨てる。八つ当たり。ストレス発散。
怒りが怒りでしかないのだから怒声だ。
大嫌いだ。自分が大嫌いだ。
愛想笑いする自分が大嫌いだ。
偽善回答をする自分が大嫌いだ。
何かを演じる自分が大嫌いで大嫌いだ。
何も達成できない非力な自分が何より大嫌いで大嫌いでたまらない。
だから死のうと、何度思ったか。それでもこの歳まで生きてしまった。
ここで、どこで、死のうがいいではないか。自殺より病死より事故死より他殺がいいではないか。

目の前のスクリーンを観る。
ヒロインと意中の男が抱き合ってやがるシーンに音楽が盛り上がっている。
まだ。死ねない。そう思った。
せめて出夢と人識が再会するまで。せめて人識と再会して抱きつくまでは。
死ねない。

嗚呼、泣きたい。

どうして彼が側にいてくれないんだ。


 



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あきゅろす。
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