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ソラゴトモノクロ
124 仲直りのちゅー



「んーや?全然違うぜ、仔猫ちゃん。ぎゃはは」


出夢くんは否定した。

全然違うってあれか。前回と違ってあたしの手を粉砕できます、って意味か?

するーと掴まれた両手をシーツの上であたしの頭の位置まで滑らせる出夢くんはにやにやと笑って見下ろす。

にやにやと見下ろされた、という認識だけをしてどうこの場を切り抜けるかを考えていたので出夢くんが顔を近付けたことをさも気にしなかった。また頬を噛まれるだろう、その程度だった。


「───…!」


唇と唇が重なった。
最初、触れたことにきょとんとする。一体何が起きたのか理解できずに眼を丸めた。

理解する間も与えられず、ぬるっと出夢くんの舌が閉じた唇を抉じ開けて侵入してきた。

「んっ!ふんっ!」

漸く何をされているか脳が理解してもがく。
両手を押さえ付けられているためビクともしない、だから顔を逸らして逃れる。

「ちょ、出夢っん!」

こんなことをした訳を訊こうとしたがすぐにまた唇を塞がれた。

手首を解放されたが出夢くんの手があたしの頭を固定してまた続きをする。

「ふっ」と酸素を欲しがって口を開いたせいで歯の間にやけに長い舌が入り込む。
舌が絡みとられる。
ぞわっとして震え上がった。
なんとか押し退けようとしたがやはりビクともしない。
足はじたばたとシーツを乱れるだけで抵抗の結果を出さない。

両手で押さえつけられて息継ぎする暇もくれずに口の中を好き放題荒らしていく。

押し退けようと出夢くんの肩を握っていたがその手も力が入らなくなって白いシーツの上に落ちる。

酸素不足のせいか口の中の性感帯を刺激されているせいか力が抜けて足掻けなくなった。

くちゃりっ、といやらしい音が聴こえる。唾液がまざって唇から溢れた。

どうにかなりそう。

完全に抵抗しなくなった頃に、やっと唇が離れた。

長い舌が銀色の糸をひく。それを器用に舌だけで舐めとって艶かしい目でにんやりと笑う出夢くん。


「ぎゃはっ……仔猫ちゃんったら、そーんな欲情した顔しちゃって。僕のちゅーがそんなに気持ちよかった?ぎゃはは」


垂れた唾液を指で拭き取りそれを舐める出夢くんは楽しげに笑う。口を開けてあたしはぼんやりしたまま酸素を吸った。もう放心状態。あともう少しで再起動。

その間に出夢くんはあたしの上で髪を指で絡んで遊ぶ。


「ぎゃはははっ!せっかくベッドの上だから最後までやっちゃう?僕テクニシャンだからもぉっと気持ちよくしてあ・げ・る」

「………………ひ」

「ん?」


なんとか呼吸と心音が落ち着いてあたしは、全身全霊で出夢くんを突き飛ばした。
あたしの上から退かすことに成功。


「っ人識くんにもこんな、激しくキスされたことないのに!!何すんの!」
「人識にされたことあんの?激しくないちゅー」


激しくないキスならされたことある。あるとも。あるさ!
だが、出夢くんは《妹》だと思われているのだから肯定はまずい。


「…………ない」
「間があるんだけど。あー、アイツそっちに走ったわけだ」
「違う、違う違うっ!」


納得したように首を縦に振る出夢くんに全力で否定した。

《妹》に手を出す人識くん嫌!変態兄貴じゃあないんだがら!嫌!!


「つかっ、何してくれるんですか!?」
「何って、仲直りのしるしにちゅー」


……………………。
仲直り?仲直りって?


「………許してくれるの?あたしを喰わないの?」
「ぎゃははっ!仔猫ちゃん大好きだから喰わない喰わない。つーか、あれで気に入った!仔猫ちゃーん、面白いからぎゃははっ!」


愉快そうに笑う出夢くん。面白い?何がだろうか…。


「散々挑発したような言葉を言ったのに?」
「ぎゃははっ!だから、仲直りのちゅーしたって言ったじゃん!ん、んー?足りない?じゃあもっと激しいのを」
「十分です!」


にやにやともう一度キスしようと近付こうとした出夢くんを阻止。一応、信じようか。仲直りのちゅーって…。ちょっと精神に攻撃された気分なんですが。

「じゃあ………人識、お兄ちゃんに会ってくれるの?」

「イッエース」

「………友達に戻ってくれるの?」

「イッエース!」

「もう二度と敵対関係にならない!?」

出夢くんが頷いた。

希望が膨らみ心が弾く。
人識くんと会ってくれて、受け入れてくれる。未来が、変わる。


「ありがとうっ!」
「!──ぎゃははっ!」


感情が抑えきれずあたしは出夢くんに抱き付いた。勢い誤り押し倒した、ベッドの端に座っていた為、ベッドから落下。

それでも大したダメージを受けていない出夢くんは笑いながら抱き締め返された。

「ありがとっ!出夢くん!本当に、ありがとう!」

「ぎゃははっ!仔猫ちゃんたらっそんなに嬉しいんだ?愛されてんだねー、人識のやつ。ぎゃははっ、ちょっとちょっと、泣く前に僕達からの条件を聞いてよ」

「条件…?」

涙目になりつつもあたしは出夢くんの顔を見るために床に手をつく。押し倒して人の上にいる大勢はあまり気にしない。


「仔猫ちゃんのお願いを聞くんだから、僕達のお願いも聞いてもらう」


僕達、ということは理澄ちゃんも含んでいるのか。理澄ちゃんに要求した覚えはないが。


「恋識のお願いは、人識と仲良し友達に戻ってもう二度と敵対しないように殺し屋を辞めろ、だろ?」
「殺し屋も辞めてくれるのっ?」
「ぎゃはっ!可愛い可愛い仔猫ちゃんの為に辞めてあげるから、条件を呑んで。一、僕と理澄を守ること。二、僕と理澄の友達になること。これだけでいい」


二本指を立てて、出夢くんは条件を言った。殺し屋まで辞めてくれるのは、最高に嬉しいことだ。条件だって、なんとも簡単なものだった。


「零崎恋識に殺られたってデマ流すけど、それでも《匂宮雑技団》に見つかったら守ってくれよ」


《強さ》が自分。だから誰にも媚びない、靡かない、そう言い張った出夢くんが『守ってくれ』と言った。

変わらないんだと諦めかけてた。きっと皆死んじゃうんだって諦めかけてた。

何も変わらない。何も変えられない。何も守れない。

そうなんだと思った。
だけど、違って。変えられる。


「うん─────────────…うんっ!」


もう一度、あたしは抱き付いた。


物語が変わり始めた───…。
 


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あきゅろす。
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