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ソラゴトモノクロ
123 デジャヴ


「出夢兄貴と喧嘩したって聞いたんだねっ!お姉さん、大丈夫…?」


相変わらず腕は使えないようで上目遣いで訊いてくる。心配した眼差しだ。


「大丈夫。わざわざ心配でくれたの?ありがとう、理澄ちゃん」


あたしは肩を竦めて彼女の頭を撫でる。もしかしたら偵察がてら送り込まれたのかもしれないが、理澄ちゃんの記憶にまだ自分が在ることが嬉しかった。

頭を撫でられたことに照れたようにはにかむ理澄ちゃん。


「あのね、喧嘩したのに、頼むのも悪いとは思うんだけど……兄貴に会ってほしいんだね」


言いづらそうに理澄ちゃんは頼んだ。
……………。
会いに来るように仕向けたのかな?


「仲直りしてほしいのかな?」
「してほしいんだねっ!友恵お姉さんのこと、出夢兄貴大好きだから!落ち込んでるんだね!」


……落ち込んでる。出夢くんに似合わない言葉だった。

んー、でも。断ったら断ったでアパートに押し掛けられない。事態は原作は最悪に陥るだろう。
うん、いいよ。それを言う前に。


「友恵さん」


またもやバイト帰りの萌太くんに遭遇。

「友達ですか?」と萌太くんは理澄ちゃんを興味なさげに見てあたしに問う。
格好が奇抜すぎて触れたくないような感じなのだろうか。


「に」
「うん!友達。ちょっと出掛けてきます!」


理澄ちゃんは殺し名序列一位の名前を律儀に名乗ろうとしたので素早く口を右手で押さえつけてさっさとその場を退散する。

あ、危なかった…。

昨日はなんとか怪我のことは誤魔化せたが《匂宮》の名前を出すのは流石にまずい。

出夢くんと萌太くんの衝突は洒落になんない。


「会うよ、出夢くんに。何処にいるのかな?」
「ありがとう!お姉さん、大好き!」


萌太くんが遠くなったのを見て言い出すとお決まりの抱きつきを喰う。

踏みとどまることが出来ずに壁に衝突。……………痛い(泣)

驚くことに寝床は変えてないと言う。障害とは見なされていないようだ。当然か。

あたしがつけた傷なんてかすり傷にもならないのだろう。息が上がったのはふりで遊んでるのだ。


今日はぶち切れないぞ。そう決意してホテルに向かった。
なんでも理澄ちゃんは人識くんを探しに行かなくてはならないらしく、一人でホテルにつく。

コンコン。

ノックをしたが返事はなかった。ちょっと沈黙して待ったがあたしはドアを開けて入る。開けっ放しとは不用心だ。どこに殺人鬼が彷徨いてるかわからない世界だというのに。


出夢くんはいた。

長い髪、少女の身体の、少年。拘束衣ではない。漆黒の革のパンツとジャケット。やけに長い腕が露になっている。
多少絆創膏が貼られているのが見えたがやはりあたしよりは傷が少ないようだ。
恐怖を感じた。木っ端微塵に殺されたらどうしよう。小さな不安だったが至って冷静だった。

冷静にベッドに腰掛ける出夢くんと眼を合わせる。刹那だけ無言で見つめあった。


「────ぎゃはっ!」


先に口を開いたのは、出夢くんだ。


「ぎゃははははははははっ!ぎゃははははははははははははははははははははははっ!」


腹を抱えて出夢くんが哄笑する。可笑しそうに笑った。バタバタッと足をばたつかせる。


「何で来たの?仔猫ちゃん」

何時間か何十分か何分か笑ったあとに出夢くんはそうあたしに訊いた。

「それって……理澄ちゃんに呼ばれたからって何で来ちゃったのかって訊いてるわけ?」

「理澄?理澄がここに来いって言ったのかい?」

心底驚いた様子で出夢くんは聞き返した。おや、出夢くんの差し金ではないのか。


「うん、理澄ちゃんがあたしのところに来て、会ってほしいって言ったの」


頷いてあたしは答える。ドアノブに手を置いていつでも逃げれるように構える。十全だ。

「……そっか。理澄が……」

出夢くんは呟いたあと少しだけ沈黙。それから立ち上がった。

「仔猫ちゃん、おいで」
「……………」
「おいで」

にんやり笑みを吊り上げて手招きをする出夢くん。その手が怖いから逃げ腰になっているのだが。

この前の殺気はないのだから警戒しなくてもいいのだろうか。

一歩だけ。
あたしは一歩だけ踏み出した。

その瞬間、ぐうんっと浮遊感に味わう。意識が飛んだかと思ったが、ばふんっとベッドの上に落ちたことを頭が理解したから意識はある。

デジャヴだ。

白い天井とシーツの感触。それから腹の上にのし掛かる重さ。


「あの、どうして……この前と同じ展開になっているの?」


あたしは腹の上に乗る出夢くんに言う。我儘を言えば背中にあるナイフを取らせていただきたい。出夢くんとナイフに挟まれて地味に痛いのだ。

さりげなく取ろうとしたら出夢くんの手に掴まれた。


 


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