ソラゴトモノクロ
121 いちゃいけない存在
「『違う世界から来た人間みたいな感じ』だと、君は言ったよね」
「はい」
小さな公園を見つけて、ブランコに腰掛けて話をした。あたしはキィと揺らしたがどうもこの音は邪魔になりそうだと思いやめる。
「僕は《死神》ですから。魂に敏感。友恵さんの魂は周りとは違う特別さを感じます」
隣に大人しく座りあたしを見つめる萌太くんは答える。
特別──特別と言えば特別だ。そう思うと自嘲してしまう。
「その通りなんだ。あたしは違う世界から来ました」
あたしはお茶らけたように萌太くんを向いて告白した。この子にはぶっちゃけしまくりだ。
笑って言ったつもりだがどうも顔の筋肉が歪みしかめてしまう。
萌太くんの反応はない。あたしの言葉を待っているようだった。
「この世界の住人ではない。なんていうか、パラレルワールドみたいな、この世界とは少し構造の違う世界からあたしは来たんだ。魂が違うと感じるのはそのせいだよ。異物──異端児──誤植」
それを口にして気持ち悪くなり吐き気がした。
「存在するはずのない異世界の訪問者なんだ、あたしは」
それでも続ける。
「平行で決して交わることのない違う時間が世界が回る世界。とある青色の少女はそうだと仮定しているけど実際どうだかわからない。あたしは妙な無人電車に乗って、君が産まれたこの地球に来てしまったんだ。違う世界から家出をしてきたんだ、すごいでしょう。本来なら会えるはずもないんだ、君達とは本当なら会えなかった。君達はあたしの存在を知るはずもなかった」
この世界にいてもいい、そういう友ちゃんの言葉を掻き消すようにあたしは言う。
「あたしはこの世界に居ちゃいけない人間なんだよ」
──誤植なのだから。
「君の視界に入っちゃいけない非登場人物だったんだ」
それが当然だから、当たり前だから、仕方ないことだから、決定的なことだからこそ、淡々と無感情にそう言う。
「馬鹿らしいでしょ?」そう言って反応のない萌太くんに笑いかける。
「────…だから、なんです?」
萌太くんは不思議そうに首を傾けた。
「あなたを好きになってはいけない理由になるんですか?あなたを愛してはいけない理由になるんですか?あなたがこの場にいてはいけない理由になるんですか?」
萌太くんは──ただ、そう言った。
違う。そんな言葉を言わせたかったんじゃない。
なんで、なんで、『嘘だろ』と言ってくれないんだ。
信じるなよ、空言だと戯言だと一蹴してくれ。
「友恵さん」
あたしの名前を呼んで、萌太くんが手を差し出した。
「いちゃいけないなんて、誰が言ったんですか?僕は居るべきだと断言しょう。いえ、お願いします。居てください」
なんで。なんで踏みはいってくるんだ。
怖い。
あたしはこの世界に居すぎた。居すぎて楽しみすぎた。
あたしはあたたかい場所に居すぎたんだ。
だから。怖くなった。冷たい場所に突き落とされる《未来》が、怖くなったんだ。
凄く、とても。崩れてしまいそうなほど怖くなった。
出夢くんに何もできなかったことに、やはり自分には守れないんじゃないかと過って崩れ落ちそうになった。
初めて、手にした日常の幸せが、氷へと変わるのが、怖くて。逃げたくなった。
だけど。だけど。だけど。
逃げたら今までの自分と変わらない。
逃げちゃだめだ。向き合おう。逃げたら、終わり。足掻かなくちゃ。足掻かなくちゃいけない。
守るために。
震えながらあたしは萌太くんの手を掴もうとした触れようとした。
けれどもやはり怖い。
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