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ソラゴトモノクロ
109 帰宅



とぼとぼと徒歩で帰る。免許取ろうかな。そろそろバイトやろうか。そんなことを考えながら歩いた。

んっ。ふとあえて考えなかった出夢くんを思い出す。
竹河兄弟よりも潤さんとの“遊び”よりも激戦だった。互いに本気で殺す気はなかったとはいえ、五体満足で生還は奇跡的だ。

それくらい、ヤバかった。

でも、人識くんはあれ以上の激戦を何度もやったのだろう。何度も、何度も。
あたしとの取っ組み合いなんて比べ物にならない。
 愛情と憎しみは紙一重。
出夢くんは最後に憎しみをぶつけた。ぶつけられた人識くんはどんな気持ちだったのだろうか。それを思うと胸が痛むが、“その世界”に生きたことないあたしだから安い同情でしかならない。

気分が沈む。

所詮はあたしが触れることさえもできない二人の絆。

結局、あたしは煽っただけだったみたいだ。八つ当たり同然で怒鳴ってぶつかった。余計にこじらせてしまったのではないか。大きな不安に失神したくなる。
真夜中の公園で互いの身体を傷付けあって血塗れになって、息が切れて睨み合った休憩のあと、それが当たり前のように互いから眼を逸らして離脱した。


何も説得出来ていない。
ずーん。ずどーん。ずずーん。
どうしたものかな。

一応思考しながらアパートに辿り着けば、バイト帰りの萌太くんを発見。
萌太くんもあたしに気付いて二階からにこりっと微笑んだ。


「…友恵さん、何かあったんですか?」
「え?どうして?」


萌太くんは二階からあたしを見下ろして首を傾げた。


「暗い顔をしてます」
「え……そう?」
「それから腕の怪我……切り傷ですか?」


暗い顔と言われて頬に手を当てて気付く、出掛けた時につけていた手袋をつけ忘れてる。
『えーちゃん、生々しいね。いくらなんでも、これ以上怪我するのはよくないよ』
友ちゃんの部屋で涼んでいたので手袋を外していた。ナイフで刻んだような傷があちらこちら両腕にある。出夢くんの八重歯でつけられた傷だ。それを見て友ちゃんが生々しいと表現したがその目は物珍しいものを見る目だった。

それはさておき、傷が塞がったとは言えこの傷が転んでついた傷なんて常識人だって思わないだろう。
あたしはせめて姫ちゃんに見られないうちに鞄から手袋を取り出して傷を隠す。


「また……?」
「…違うよ。黙っててくれる?」
「キスをしてくれれば崩子達には黙っておきましょう」
「…………………」
「冗談ですよ、そんな変態を見るような眼をしないでください。泣いちゃいますよ」


是非とも泣く萌太くんを見たい。
萌太くんは階段を降りてあたしの元に来た。


「個人的に崩子には言いたくないですね。主従契約をするのは僕ですから」
「あ、それまだ本気だったの?」
「当然です」


この子はどこに行きたいのだろう。恋人?従者?


「大丈夫だよ、別に命を狙われてるわけじゃないから」


出夢くんが逆上してあたしの大切な人達を殺しにくる可能性があるけれど、そんなことを話したら本当に崩子ちゃんに主従契約を結ばれかねない。


「じゃあその怪我はなんですか?」
「んー、自傷行為?」
「随分な自傷行為ですね」
「うわっ!ここ突っ込むところ!幾ら根倉のあたしでもこんな傷を利き腕にもつけられないよ!」
「利き腕じゃなければやるんですか…?」


こんな派手な自傷行為をやってたまるか。否、躍起になってたら自傷行為でもあるのか?そもそもあの二人を取り持とうとするのが自虐的なんだ。
あたし傷付いただけ?
大きな溜め息を溢す。


「んー、萌太くん。デートしよう」
「え」


心底萌太くんは驚いた顔をした。不意打ちされて、心の底から素で驚いてる。


「あっいやっ、今のなし!ちょっと場所を変えて話をしようってことでして…」


やばい。軽率だった。
友ちゃんのせいだ。
友ちゃんが『えーちゃん。好意を利用しちゃえば?向けてくれる好意はえーちゃんのものなんだから利用しちゃいなよ。僕様ちゃんも利用したから』とそんなことを言うから。無邪気な振りして邪悪なことはやめてくれ。んー友ちゃんだから仕方ないか。…納得していいのかな。


「いえ。デートがいいです」


萌太くんは嬉しそうに微笑んだ。とてもじゃないが拒否れない笑み。


「ん……じゃあ…行こうか」


あたしはアパートの前を過ぎて、歩いた。向かうは鴨川公園。いや、あそこは出夢くんと初めて会った公園だから他にしよう。気が沈む。


 


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