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ソラゴトモノクロ
108 異物


「萌太くんが姿勢を変えないなら前の関係なんて無理だよ、えーちゃん。えーちゃんが大好きだって言ってるんだからさ。好きだって気持ちが止まらないのはえーちゃんはわかってるでしょ?」


だからねえーちゃん。

友ちゃんは続けた。前みたいに微笑んで言う。


「えーちゃんはね、愛されちゃうんだよ。魅力的だから。一言話すだけでも惹かれちゃう、受け入れちゃうのかな?存在が特別すぎて、存在が似てすぎて、存在が似てなくて、儚いようで、強いようで、触れたくて、視界に入りたくて、何かをしたくなるんだよ。君に夢中になっちゃうんだよ。きっとこれから出会った人間を、関わった人間を惹き付けちゃう。神様にも悪魔にも愛される存在なんだ」


友ちゃんは前回と同じことをあたしに言う。無垢の無邪気な笑顔で告げる青色の少女。

前にも言った。関わった人間を惹き付けると。
だが、あたしは殺されかけた。コンビニの店員であたしを殺そうとしたばかりに殺し屋に殺されたあの男。

しかし友ちゃんは『えーちゃんの言葉だから反応したんだよ、他の人間なら反応しない』と答えた。
そんなの、こじつけでしかない。
マドンナじゃああるまいし、夢小説の愛されヒロインのように出会った人間を笑顔だけで心を奪う存在なわけないだろう。それこそ友ちゃんだ。
あの殺し屋兄弟も、あたしの言葉があって殺し屋を辞めるらしい。いや、多分《零崎》との衝突のおかげだと思うからカウントなしにしよう。

「友ちゃんには……そう、見えるの?」

「うにー、そうだよ」

存在が特別すぎて、存在が似てすぎて、存在が似てなくて、儚いようで、強いようで、触れたくて、視界に入りたくて、何かをしたくなる。惹き付ける魅惑。
それは友ちゃんのことだと思う。


青色の存在は特別、たまに似てると錯覚するが本当は似てなくて、儚いようで強くて、触れたくなる見つめたくなる何かをしてあげたくなる青色のサヴァン。


「理解できないよ、友ちゃん。あたしが異物だからじゃないの?」
「んー。僕様ちゃんとは違う意味の異物だからこそなのかな?」


くりんっ、と友ちゃんは青髪を揺らして首を傾げる。

あたしは友ちゃんの愛され肌説を“異物”だからと仮定してる。異世界の住人だから。
萌太くんみたいに“悪影響”をするのならば、あたしはやっぱり異世界に帰るべきなのかもしれない。原作でも悪影響を及ぼすなら、そうするべき。


「えーちゃん!」
「きゃんっ!?」


いきなり友ちゃんからボディアタック──じゃなくて抱きつきをされて押し倒された。理澄ちゃんよりは痛くはないのは救いだが、これでも病み上がりなのです。
いきなりなに?と聞く前に思いっきり頬を摘ままれた。


「そんな顔しちゃだめーっ!えーちゃんの可愛さ台無しだよ!」
「元から可愛さないんだけど」
「えーちゃん。自分に自信持ちなよ」
「!」


むにむにと頬の柔らかさを確かめるように揉んでいた友ちゃんは手を止めてあたしの眼を除き込んだ。
青色の瞳にあたしが映る。


「えーちゃんは愛されてもいいんだよ」
「……愛…」
「えーちゃんはこの世界にいていいんだよ」
「!」


考えを読まれたらしい。
青色は澄んでてあたしを見透かす。


「えーちゃん。この世界に居て?僕様ちゃん、寂しくなっちゃう。僕様ちゃんね、えーちゃんがしょっちゅう来てくれるの、嬉しいんだ」


眼を逸らせば友ちゃんはあたしの首に抱き着いた。ギュウッと抱き締めてくる。

「………友ちゃんには、いーくんがいるでしょ」
「……………」
「あたしがいーくんの代わりにはならないでしょ」

抱き着かれたままあたしは言う。確かにあたしはしょっちゅう友ちゃんを訪ねてくる。いーくんよりも多く来ていることは間違いない。


「代わりじゃないよ。友ちゃんは、いーちゃんの代わりなんかじゃない。“同じ人”を愛した、んー親友?みたいな」


友ちゃんは抱き着いたまま耳元で楽しげに言った。
同じ人。いーくん、いーくんの鏡の人識くん。みなものむこう。同属。同類。


「親友……」
「女友達、かなぁ?えーちゃんは特別なんだ、いーちゃんとは別でね。えーちゃんは他にはいないんだよ」
「…あたしの代わりはいくらでもいる。あたしが消えても世界は変わらない」


何も変わりはしない。ちっぽけな存在なのだから。
人の死は、世界を変えたりはしない。


「えーちゃん。消えるには、この世界に居すぎたんだよ」


居すぎた。留まりすぎた。


「消えちゃったら、皆、寂しくなる」


抱き締めてくる柔らかい感触を感じながら、あたしは無感情に言う。


「元々、いないのが当然なんだから。そんな寂しささえも消える」


無感情じゃあなければ、泣いちゃうかもしれないから、悲観にならないようにそれが当然だからと言い聞かせて、言った。


「消えないよ。埋まらないよ。えーちゃんは消えたりしない。誰からの記憶にも心にも、えーちゃんは居すぎた」


友ちゃんは譲らない。


「だから帰っちゃだめだよ、消えちゃだめだよ。えーちゃんは愛されてる、特別だから、居てもいいんだよ」


まるで呪文みたいだ。


「まるで呪文だよ、友ちゃん」


あたしは笑ってしまった。





 


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