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ソラゴトモノクロ
105 カクテル



『君は仔猫ちゃんが好きでしょう』

『それがどうかしたんですか?』

『いいの?仔猫ちゃんは微塵も気付いてない。多分告白するまで気付かないだろうね』

『何を勘違いしてるかわかりませんが、僕は友恵姉を姉のような存在として好きなんです』

『そうやって自分を偽る気かい、坊や。ずっと君は弟のように可愛がられるよ。それでもいいのかな?』

『どうしてですか?それで十分ですよ』

『君は仔猫ちゃんが女の子として好きだ。でもきっと姉と弟という関係は越えられないね。弟は男に入らない。それでなくても仔猫ちゃんには好きな人がいる。ずっと、君は弟としてしか、認識されないだろう。可哀想に』


ぽっかーん。
帰ってきてそうそう友恵ちゃんは春日井さんから話を聞いて絶句していた。


「あっ、あなた!それをっ、萌太くんに言ったのですか!?」


何の話だろうと思っていれば、友恵ちゃんはばんっ!と畳を叩いて言った。萌太くんの話らしい。

「うん。君を探して夜アパートの前に立ってたからお姉さんがちょっとからかいに」

「からかいじゃないですよ!萌太くん!結構傷ついてましたよ!?」

「へえ?笑顔のままツンケンしてたから平気かと思った。『僕はこのままの関係で満足してます』とか言ってたのに。わたしよりも仔猫ちゃんの方が傷つけてるじゃないのかい?恋人繋ぎしちゃってさ、たらしこんでる」

「ぐにゃっ!」

友恵ちゃん大ダメージ。
恋人繋ぎって…。友恵ちゃん、スキンシップが激しいとは思ってたけど。さすがにそこまでされたらぼくだって好きになっちゃうだろう。


「あ、あれは萌太くんが…!うぐっ…なんですか…あたしが馴れ馴れしいせいなんですか…!」
「そうだよ」
「にゃあっ!」


ずばり言われて友恵ちゃんはいつも以上に猫チックな奇声を上げる。

涙目でぼくを見上げれば「おかえにー、いーきゅん」と言ってきた。
もう酔ってるらしく舌が回ってないが、やはり可愛い。捨て猫に見えてきた。

「かくてるー」とねだられたので購入したカクテルを差し出せばあけてグビッと飲んだ。

「友恵ちゃん…親に隠れていつから飲んでるの?」
「十六しゃい?れも、親が買ってきてくれたよ」
「……甘やかされて育てられたんだね」

友恵ちゃん、どんな親に育てられたのだろうか。

酔いが回ってぽけえと眠そうな目、頬は紅潮したまま、口元に缶を添えたまま友恵ちゃんは頭を微かに揺らす。

「ところで友恵ちゃん。萌太くんの告白の返事は決めたの?」
「にゃん?返事?返事するの?」

目をカッと開いた。驚いた猫のようだ。

「付き合ってって告白されたんじゃないの?」
「うにゅにゅ、好きって言われただけらよ。あんのね!告白イコール付き合うじゃないの!」

いきなり友恵ちゃんはキッとしてカクテルを持った手を振る。

当然のようにカクテルが吹き出して友恵ちゃんの手が濡れた。
「あにゃ」と友恵ちゃんはなんと濡れた手をペロペロ舐め始めた。猫のように舌で甲を舐め、指を加えて綺麗に舐めとる。
………………エロい。


「んっ、好きって伝えるのが、たいせちゅらって、あたしは教えたのです」
「お前が唆したんじゃねーか」
「ちらう!萌きゅんたちが訊いたから、恋愛の素晴らしいって…にゃん」
「猫語は通じません」


くちゅくちゅと舐め終えた友恵ちゃんはまたカクテルを飲んでさきいかをモグモグ食べた。

「でも友恵ちゃん。これからも弟扱いは、萌太くんに悪いだろ」
「んーにゃーあーんっ」

いや、困った顔をされても困る。猫語は通じないってば。

え?あれ?心なしか艶かしい眼でぼくを見てないか?いや、気のせいだ。
………退室しよう。
そう思い立ち上がったら。


「いーくぅん」
「え?うわっ!」


黙って立ち去ろうとした背中にするるっと手が触れてきたので振り返れば友恵ちゃんがいて、ぼくは押し倒された。酔っ払いにしかも女の子に押し倒された。


「いー兄?」


ガチャリ。神様の悪戯か、わざとなのか、そこに萌太くんがドアを開きやがった。


「………………」
「………………」


ぼくの上に倒れてる友恵ちゃんを見て萌太くんは沈黙。いや…違うんだよ?違うんだよ。

「ち、丁度よかった!萌太くん!友恵ちゃんが酔ってるんだ、起こすの手伝ってくれない?」
「酔ってる?」
「むにゃあー」

ぼくは無実だ!と目で訴えて言えば、萌太くんが首を傾げた。

すると友恵ちゃんが起き上がり、ぼくの上に座り込んだ。いや、退いてくれ。


「友恵さん?」
「ふえ……」


萌太くんは友恵ちゃんと視線を合わせるためにしゃがんだ。友恵ちゃんはきょとーんっと眠そうな目で萌太くんを見つめた。
完全に酔っ払ったな。


「にゃは……いい子いい子」


真っ赤になってパニクるかと思えば、友恵ちゃんはにへらと笑って萌太くんの頭を撫でた。子供を撫でるように、萌太くんの頭を撫でる。


「あの、友恵さん…退いてくれませんか」


ぼくは忘れ去られているようなので脚を叩いて言った。際どいしぼくの理性が危機に陥っているので退いてほしい。


「ひゃんっ…えっち」
「…………………」


ぴしゃあああああああんっ、みたいな。






 


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