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ソラゴトモノクロ
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「────…」

血塗れのずたぼろなのに、仔猫のような寝顔で眠ってしまった友恵ちゃんをぼくは見下ろした。


「なに妙な気分になってんだよ……ぼくに言ってなんかない。アイツに言ってるんだ」








朝。手当てをして包帯だらけの友恵ちゃんはすぐに礼儀正しくお礼を言った。


「ごめんね。押し掛けて。お願い、かくまって?二日は居させてくれないかな。ねっ?」


可愛らしくおねだりされたのでぼくは仕方なく許した。どうしてだか姫ちゃん達に知られたくないらしい。

それからは昨日春日井さんが買ってきたつまみと発泡酒をあけて飲み始めた。


「朝から飲むの?」
「昨日の昼から何も食べてないの。ペコペコ。もしも姫ちゃんに聞かれたら飲んだくれてるって言っておいて。いーくんもどう?」
「……悪いけど飲酒はしないって決めてるんだ」
「あ、そうだったね。いーくん、いーくん、くれぐれも崩子ちゃん達にも秘密にしてね」


友恵ちゃんは殺し屋に怪我を負わされたなんて嘘みたいに無邪気に笑って、するめを噛んでいく。
今日はぼくの部屋から出ないと決めたらしい。


「……ねぇ、友恵ちゃん」
「うにゃ?」
「昨日…じゃなくて眠る前にぼくに言ったこと覚えてる?」
「ん?うん……多分。どうして?」
「友恵ちゃん、萌太くんから逃げてるんじゃない?」


ぼくは、言ってみた。軽く仕返しのつもりで、図星をつくつもりで、萌太くんの名前を出す。
友恵ちゃんに告白した萌太くん。


「へ?萌太くん?」


目を丸めて、友恵ちゃんは首を傾げた。
不思議そうに首を傾げて発泡酒を口にしたのを見て「告白されたんだろ」と言う。

ぶっ!と危うく友恵ちゃんは吹き出しそうになった。ゲホゲホと咳き込む。

その顔は紅潮していく。
本当にあの家出少年は友恵ちゃんに告白したらしい。

「な、ななななっなんで」

「なーんだ、あの子、告ったんだ。つまんない」

「え!?知ってたの、春日さん!」

「知ってたよ。教えてあげようと思ったんだ」

「それだったんですかっ!」

知っていたらしい春日井さんが本当につまらなそうにするめをモグモグと食べながら言う。


「友恵ちゃん。君は人間失格が逃げるとか言ってたけど──今友恵ちゃんも同じことをしていないかい?萌太くんから逃げるためにぼくの部屋にこもるっていうならぼくは追い出さなきゃいけない」


どもった友恵ちゃんに畳み掛けた。ギョッとした表情をした友恵ちゃんは口をパクパクする。


「違うわ!逃げてなんかない!」


やっと声を出して友恵ちゃんは力一杯に否定をした。
「に、逃げてないもん!」とビクビクした様子だ。
真っ赤だから余計、可愛かった。

「こ、告白されたからって、も、えたくんから逃げてないもん!」

かなり声が裏返る友恵ちゃん。


「ふぅん。なら、萌太くんとちゃんと向き合えるんだよね?」
「む、向き合えますとも」
「絶対に逃げない?」
「逃げませんとも」
「じゃあもしも萌太くんが来たらちゃんと話せるよね?」
「望むところだ!」


友恵ちゃんはかなりびびった様子だったが、それでも向き合うと言い切った。

他人と距離を置きたがる臆病な友恵ちゃんは、多分、戸惑っているに違いない。

少なくとも逃げ腰だ。


コンコン。
ドアがノックされた。
友恵ちゃんはびくりと震え、口に放り込んださきいかをぽろりと落とす。

噂をすれば影。

ぼくはドアを開けようと立ち上がれば「姫ちゃんなら」と唇に人差し指を立ててしーっ!とやる。

わかってるよ。よっぽど姫ちゃんに知られたくないらしい。怪我のこと。
ドアを開けば、そこに姫ちゃんがいた。


「師匠。えー姉はいますか?昨日帰ってないんですよ」
「それなら部屋にいるよ」
「え?そうなんですか?」
「うん、朝帰りしてね。お酒を飲んで怪我してぼくの部屋に押し掛けて来たんだ」


友恵ちゃんは姫ちゃんに連絡する暇もなかったらしい。心配しただろう。ぼくは上手く言って部屋の中を振り返った。
友恵ちゃんは横たわっている。

「……えー姉、お酒を飲むような悪い子だったなんて知りませんでした」
「ぼくもだよ」

信じられないとしかめた姫ちゃんはその横たわった友恵ちゃんを見る。慣れた感じで発泡酒を飲んでる様子からして常習犯だろう。


「怪我って、転んだんですか?」
「違うアパートの階段にのぼって落ちたらしいよ」
「人間失格です」


酷い言いようだ。
それでも友恵ちゃんは寝たふりをした。


「師匠、えー姉を任せてもいいでしょうか?」
「あ、うん。任せてよ、酔っ払いの相手はなれてるから」
「ありがとうございます」


姫ちゃんはペコリと頭を下げて背を向けた。セーラー服。これから補習らしい。
ドアを閉めて、部屋を見れば友恵ちゃんが起き上がってグビッと発泡酒を飲んでいた。

「くはっ!……いーくん、カクテル買ってぇー」

乙女が飲んだくれと化している。この子、酒好きなのか?

「ううん、日本酒とぉビールが飲めない」とのことだ。いつもより甘えた声。


「もしかして酔ってる?」
「酔ってません!」
「酔ったらキス魔になったりしないよね」
「酔わないってば」


……………………。
ちょっとアルコール高いやつを買ってこよう。
ぼくは友恵ちゃんの財布から千円札を二枚抜き取ってコンビニに向かった。

階段を降りたら崩子ちゃんと鉢合わせした。


「やぁ、崩子ちゃん」
「どうも、戯言遣いのお兄ちゃん」
「散歩にでも行ってたの?」
「いいえ、友恵姉さんの部屋に行ったのですが留守だったので断念しました」
「友恵ちゃんならぼくの部屋で飲んだく…いや、ちょっと朝帰りして眠ってる」
「朝帰り?」


崩子ちゃんはきょとんと首を傾げた。「うん、今日は一日中寝てると思うけど用件があるなら伝えるよ」とぼくは聞く。

「では明日わたしの部屋でビデオ鑑賞をしましょうとお伝えしてください」

それだけを言い崩子ちゃんは上に上がっていった。
友恵ちゃんは人気だな。


 


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