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ソラゴトモノクロ
102 吐き出せ


「殺し合い?ふふっ───互いを本気で殺す気なんてないくせに、戯言だね。全く傑作だ。お兄ちゃんは君を殺す気なんて微塵もないよ。ねぇ、君は好きで大好きで愛してたでしょ?お兄ちゃんのこと。なのにどうして拒絶したの?友達だった、親友だった、恋人でもあって、家族でもあったのにどうして君は裏切った?」


責めるような口調であたしは問い詰める。


「あたしが殺し屋を辞めるよう唆したように、唆されたのかい?出夢」


突き放すようで近付くように踏み入るように問い詰める。
床に横たわる出夢くんが不快に怒りに歪められた。


「それ以上喋ってみろ──痛い目みるぞ、零崎恋識」

「かははっ、殺せんの?あ、殺せないから痛め付けるだけか。やめてよ、あたしフツーの奴なの。臆病者でね、怪我はしたくないのよ」


殺気をぶつけられても凛とした声で出す。


「《零崎》に守られてよくゆーぜ、零崎恋識。ぎゃはは、よっぽど痛め付けられたいようだな。《妹》を“間違って”殺されれば人識お兄ちゃんは確実に殺しにくるだろーよ。勘違いしてんじゃねぇよ、僕は人識を殺せる」
「あはっ!殺せる!?戯言言ってんじゃねーよ!少なくても実力は君が上だろ!?何度も戦ったのに何故死なない?君が殺せないからだろ!!」


吹き出して笑っては怒号を響かせた。殺せるだと?ふざけんな。ふざけるんじゃない。


「答えてないよ、出夢くん。何故拒絶した?何故拒否した?零崎人識を!君を受け入れた人識を!何故拒否した!?答えろ!」


ぶちギレた。もう地雷を踏みまくってやる。込み上がるチクチクする感情を怒りに変えて問い詰めた。


「──僕が《人喰い》の出夢だからだ!」


出夢くんが立ち上がり、怒鳴り返した。苛立ちを隠そうともせずに笑い睨み付け怒号をあげる。


「僕が殺せないかどうか、その身体で味わうかい!?ぎゃははっ!遊んでやるよ!表に出ろよ!!喰ってやる!」


行き着くのは、結局それか。

「見下してんじゃねえよ。降りろ」

「──ふふ、喰うか。へぇ。殺さないように解さらないで並べないで揃えないで晒さないで───ズタズタに刻んで吐き出してやる」

宣戦布告。睨み合いつつ、あたしはベッドに降りて、鞄を拾った。





場所を変える。
時刻は既に夜になっていて、人気のない場所を見付けるのは容易かった。

星も見えない真っ暗な空の下に不自然に存在する公園にあたしと出夢くんは立つ。

鞄を投げ捨て、右手に玉藻ちゃんの大振りナイフ──《闇突き》を握り、左手に潤さんに貰った大振りナイフ──こちらは名前は決めてないが潤さんに決めるよう勧められてるから考え中。


「随分とまー、様になってるな。恋識。殺人鬼らしい殺気だよ、ぎゃははっ!いいのかい?お兄ちゃんのために死んでも」


出夢くんは拘束衣で立った。
《一喰い》を出す気はない。それでもあたしを殺せるだけの殺傷能力はある。


「──傑作だなぁ。やり合おうって直前でそんなことを言うなんて。あらあら。出夢くん。君は言ったね。『誰にも媚びない、靡かない』ってさ。あたしが友達になってあげるよ。あ?《弱く》なるから恋人も友達も要らないんだっけ?《弱い》は理澄ちゃん担当だから、バランスが悪くなるからだっけ。どうしてバランス悪くしちゃいけないの?《二重人格》なんてフェイクのくせに。殺し屋だから?だったら辞めればいいじゃない。やめていいんだよ、出夢くん。引退して理澄ちゃんとフツーに暮らせばいいじゃん。引退の理由は竹河兄弟と同じ、《零崎》と衝突したからでいいでしょ」


ナイフを逆手にあたしは告げる。
あの時同様に思ったことを吐き出す。

出夢くんは心底不愉快そうに笑みを吊り上げた。


「何が言いたいんだよ──仔猫ちゃんよぉお?」


そう出夢くんが問いただす。

「君に言いたいこと?一、殺し屋を辞めろ。二、零崎人識と友達に戻れ。三、二度と敵対関係になるな。それくらいよ」

「──────ぎゃはっ!ぎゃはははははははっ!兄妹揃ってムカつくぜ!ぎゃははっ、ぎゃははっ!不愉快にも程がある!その舌!僕が喰ってやるよ、恋識。それとも喉かい?二度と声を出さないようにしてやる」

開いた瞳孔は猛獣の眼。ちらつかせる八重歯。低く身構える。


「『誰にも媚びない、靡かない』」


それを見据えて、口元を軽くつり上げて、あたしは続けた。


「友達も恋人も要らないって言ってる君は──弱い。頑張って強がってるようにしか見えないよ。《強い》と言い張る《人喰い》が強がってる。こりゃあ───傑作だっ!!」


言い終える前に、出夢くんが飛び掛かってきた。あたしは叫びながら避ける。

「図星かよ!」

「黙りやがれ!」

「逃げてんじゃねぇよ!」

「てめえが逃げてんだろ!」

「受け入れられてビビって、逃げてんじゃねぇか!」

ギリギリ、出夢くんからかわし続ける。
吐き捨て怒鳴って怒鳴って怒鳴って怒鳴って怒鳴って怒鳴った。

「全く!君達って似た者同士だね!触れようとしたら逃げる!なんだよ!逃げたいのはこっちの方なのに!」

「はあ!?なに支離滅裂なこと言ってんだよ!」

「それは君だろ!思い出せよ!人識のクラスメートを殺した教室で!なんて言ったかを!思い出しやがれ!」

そう怒鳴って逆に踏み込んでナイフを振りつつも、支離滅裂だということは自分でも思った。

悲しかった、苦しかった、悔しかった。

悲鳴を上げていたかもしれない。わからない。けれど叫びずにはいられない。

本能的に腕を振り回してかわして避けて飛び込んだりしながら叫んだ。


「好きだ!大好きだ!愛してる!友達で恋人で家族みたいでもあったのに!びびって喰った!────全部、吐き出せっ!!!!!!」


支離滅裂だったかもしれない。でも。あたしはきっと叫びたかった。じゃなきゃ、きっと、泣いていたと思う。

泣きながら土下座するべきだったかな。あとからそう思う。

でもきっと、自分の命を賭けた方が効果的だ。

あたしはそうしたかった。この胸の痛みから解放されるなら、殺されても構わない。

殺されることで君達を会わせることができるならそれで、それは本望だ。


君が好きで好きで堪らない。
君に救われた。だから君を幸せに導きたい。自分が死んでも君を幸せにしたいんだ。

大好きな人識くん。
君の触れられない傷を───あたしが治したい。

せめて、それだけ。それだけは、やらせてください。
殺されても─────。



「そんな仮染めの《強さ》を、殺して解して並べて揃えて晒してやる!!」


 


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あきゅろす。
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