ソラゴトモノクロ
101 地雷を踏む
「───で?《零崎》の家宝的扱いされてる恋識ちゃんがぁ、なんでまた殺し屋を辞めろなんて言ったんだ?」
出夢くんはシニカルな笑みを浮かべて、唆した話題に戻した。
「思ったことを言ったまでなんだよ」
殺し屋を辞めろと言ったあの時を思い出しながらあたしは答えてみる。
「最後の戯言でもあったかも。でもやっぱり…哀れに思ったからかな。『どうして殺し屋になったの?可哀想』って言ったらキレたからさ、『やめていいよ』って言ったんだ」
「ひゅー、言うねぇ」と出夢くんは他人事のように笑う。
「アンタを怒らせたらヤベーって忠告もらったけど、ぎゃははっ!キレたら大量殺戮でもするわけ?」
「殺人の才能ねーの。キレたらヤバイってのは………動きが読めないんだって」
あたしは肩を竦めた。
そんな話はいい。いいから先ずは零崎人識の話をしようよ。まだ出夢くんは人識くんとの話を一言も口にはしていない。
待つのはやめて、地雷を踏みにいこうか?
「最高の失敗作だな、仔猫ちゃん!それでよく流血で繋がる家族の一員になれたな!」
だって戯言だもん。あたしがそんな大事に育てられるわけないじゃないか。甘い連中じゃないのだから。
純粋な《零崎》だったらコテンパンに育てられただろう。殺人衝動だって起きて、今頃人殺し生活だ。
まぁ、これも戯言だ。
「あたしのことはいい。長話しちゃったね、本題に入ろう」随分離れてしまったがあたしは出夢くんに近付いた目的を話すことにした。
出夢くんはやっぱり聞く気らしい。
深呼吸。大丈夫だ。殺し屋相手は二度目だ。
やれる。話せる。話せ。
殺し屋を辞めさせたんだ。人識くんとまた会わせることも出来る。きっと。
「あたしのお兄ちゃんを知ってるでしょ?」
零崎人識。
「『かははっ』って笑う頬に刺青したいつもニヤニヤしてる零崎人識を知ってるでしょ?」
人間失格。
「彼の話をしよう、出夢くん」
愛する貴方の為に戯言を。
愛する君の為に空言を。
命をかけて臆病者が空言を戯言を吐きましょう。
「──────…ぎゃははっ!何言ってんの、仔猫ちゃん!さっきから《お兄ちゃん》の話をしてんだろ!」
「あたしが言ってるのは、《お兄ちゃん》ではなく─────君が一時期、仲良く遊んでた零崎人識くんの話をしようと言っているんだよ」
茶化す彼にあたしは変わらぬ口調で言えば出夢くんから笑みが消えた。
「………ハッ。零崎人識がなんか言ったのかい?」
出夢くんは鼻で笑いのけ不愉快そうに吐き捨てるように訊く。
「いや」とあたしは首を横に振るう。
「君のことは話してくれなかった。トラウマになっちゃったんだ。触れようとするとすぐ逃げてっちゃうの」
触れきれない。
「チャンスだと思って。君達の関係を。それから今後のことについてを訊こうと思った」
「帰れ」
吐き捨てられた。冷たく刺々しく出夢くんは睨み付ける。
逃がさない。触れてやる。触れて捕まえてやる。
「他人の事情に首を突っ込むなよ。帰れよ」
「他人事じゃないもの。話は至って簡単だよ、簡単な頼み事」
「ぎゃははっ!頼み事?何かな、人識の妹ちゃん」
「お兄ちゃんに会ってほしい」
殺気が。殺気が向けられ、思わず顔を歪ませる。
恐怖はするが負けない。びびってる場合じゃないのだ。
正念場だ。曲識さんの時は失敗したかもしれないが、今度こそは、《シナリオ》をぶっ壊してやる。
「ぎゃははっ!ぎゃはははははははっ!」
笑う。出夢くんは笑う。
先程のような大笑いのようで違う大笑い。酷く不愉快を感じていることが伝わった。
「何聞いてるかは知らねーが!ぎゃははっ!仔猫ちゃん!僕と零崎人識は敵対関係だぜ?ぎゃははっ───会う?殺し合いをやってくれって意味だぜ!?ぎゃははは!あっ!兄貴を殺してほしいんだ?」
ぎゃははっ!と今度は愉快そうに床に笑い転げる。
あたしは。あたしは鼻で笑い退けた。
出夢くんがピタリと止まる。あたしはベッドの上に立ち出夢くんを見下ろす。
「フン、敵対関係?よく言うわね。一緒に戦闘集団を壊滅したり仕事をやったり──それが、敵対関係って言うのか。へぇー」
苛立ちのせいで強がっているせいで、挑発的に言い笑ってしまう。
「────ちゃっかり聞いてんじゃねぇかよ」
「聞いてないってば。お兄ちゃんは問い詰めたって話してくれなかったよ。たまに雑談で『出夢だったら』となんとか言うくらい」
それくらいだ。
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