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ソラゴトモノクロ
99 白状

《人喰い》出夢があたしの腹の上で哄笑する。八重歯を剥き出しに高らかに笑う。
───戦慄。

「え……なに、言って……」

「ぎゃはははははっ!とぼけても無駄だぜ!ぎゃはっ!《猫野友恵》が《零崎恋識》だってことは調べがついてるんだよ、仔猫ちゃーん!ぎゃはははっ!アイツに《妹》がいたなんて愉快だな!なに?なーに?《お兄ちゃん》が狙われてると思って僕達兄妹に近付いたわけ?あーん?」

ゾクゾクとした。もうバレてる。調べられたようだ。
武器。鞄は手が届かない。
絶体絶命。
零崎恋識だと何故知られたんだ。昨日まで知られていなかったというのに、どうして。
嗚呼、そうか。理澄ちゃんとデートしている時に調べられたんだ。
情報源は─────竹河兄弟しかいない。

「竹河兄弟から聞いたの…?」

「ぎゃははっ!そうそう!竹河両岸から聞き出したぜ、ぎゃははっ!アンタにズタズタにされたって!僕ったらそーゆーのに敏感なはずなのに気付かずに仔猫ちゃんに傘を貸してあげちゃったよーぎゃははっ!殺人鬼なのにな、ぎゃははっ!」

「…………両岸くんが何言ったかは知らないけど。あたしは殺人鬼じゃない」

「はぁああん?《零崎》が何言っちゃってんの?」

「人殺したことのない殺人鬼」

きょとん。出夢くんは首を傾けた。可愛い。可愛いが認められる状況ではない。
開き直ろう。


「どうして最初は名前と《妹》しか知らなかったのに、《猫野友恵》が《零崎恋識》だって聞き出しに行ったの?」
「暇だったから。昨日ちょっくら遊んでもらったついでにくわーしく訊いた」


遊んで……?


「二人に手を出したの?殺したの?」
「んー?ぎゃははっ!《零崎》らしい一面、見っけー!なに?なになに?仔猫ちゃん。竹河兄弟が好きなの?僕ショーク!僕の方が楽しく遊んであげるのになああーん」
「ぐはっ!…やめて…胸の上に乗らないで…」


腹の上でぴょんぴょん跳ねたかと思えば胸の上に乗ってきた。息しずらい。つーかワンピの中見えます。

「殺してねーよ、ぎゃははっ!アイツらが渋ったからちょーぉおとばっかし追い詰めただけ」

追い詰めたのが、気に食わない。竹河兄弟が、死んでいないのならまだ、いいか。

「《零崎恋識》が《猫野友恵》だってことも、黒髪で可愛い女の子で平和主義者の《零崎》だってことを聞いてくれたぜ」

あの子は口が軽いな。
まぁ、《死色の真紅》に問い詰められたと同じくらいだから仕方ないだろう。
ふぅ、と息を吐く。


「恋識ちゃん?なんか悠々だねー、自分の立場わかってんの?《匂宮》知らない?《人喰い》の出夢も知らない?ぎゃははっ!喰べようとしてるんだぜ?」


かぷり。頬を噛まれる。歯形がつくぐらい痛く噛まれた。
「っ!?」と睨み付ける。
その反応を見て「ぎゃははっ!」と笑った。


「………………喰うって。《零崎人識》の《妹》を喰うの?」


あたしは、意味深長に言う。
チキンハートなんか知るか。どうせ、今日話すつもりだった。名乗る手間が省けた。

「………何が言いたいのー?仔猫ちゃん」
「理澄ちゃんがいる君に他人の妹を殺す覚悟があるの?」
「─────ぎゃははっ!!両岸の言った通りだ!!ぎゃはははははははっ!面白いお嬢ちゃんだ!」

大いに笑われた。
両岸くんはあたしをどんな奴だと言ったんだか。

「退いてよ、出夢くん。あたしは平和主義者。《お兄ちゃん》について理澄ちゃんが調べてたから聞いただけ。大丈夫だよ、理澄ちゃんを傷付けるつもりはないから」
「《匂宮》だから近付いたってわけじゃないって言うのかい?白々しいねー」
「傘を届けたんだよ!君が貸してくれたからね!最初に近付いたのは君の方だからね!」

いや、ムキになっても仕方ない。とりあえず、人識くんの話をしよう。

「《お兄ちゃん》ねぇ。相変わらず家族ラブなんだぁ。…人識に《妹》なんて初耳なんだよなー……。アンタも秘蔵っ子なのかい?恋識。恋識、ねぇ。恋しき、なんつってぎゃははっ!」
「あたしも同じように笑ったよ。恋識、恋しき。でも友恵ちゃんって《お兄ちゃん》に呼ばれてるよ。秘蔵っ子でね。《零崎》だけど《零崎じゃない》中途半端────つまり失敗作みたいなものなんだ」

出夢くんが眉毛を上げた。このまま会話を続ければ人識くんの話題にいけそうだ。


「両岸くんはなんだって?あたしと衝突したってことだけ?勝敗は?」
「敗けたって白状した」
「あたしにじゃなくて《零崎曲識》が負かしたの」
「!……はぁーん、なるほど。《少女趣味》にはあの兄弟は勝てるわけがねーな。《零崎》とぶつかっといて生きてるわけだ」
「あたしはお兄ちゃん達に守られて生きてるから。殺傷能力なんてないんだ。だから、退いてくれない?」


そう言えば不快そうに睨まれた。地雷を踏んだか?この体勢ではまずかった。

しかし、出夢くんはあたしの上から退いてくれた。ベッドの上を歩いてあたしの鞄を蹴る。ガシャンと中身が出た。ホルダーに仕舞われた大振りナイフが二つ。

「ぎゃははっ!殺傷能力がないだって?」
「……間違い。殺人能力がない」

上半身を起こしてあたしはベッドを降りた出夢くんを見据える。与えるか奪うか。


「零崎人識が、あたしに殺人を殺ってほしくないから──特別扱いされてるの」


いつでも動けるように姿勢を正す。空気が出夢くんによってピリピリしている。戯言開始。


 


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あきゅろす。
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