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ソラゴトモノクロ
98 家出少年の告白

「君はずるい」
「なんだよ、唐突に。あ、友恵ちゃんが唐突なのはいつものことか」
「君は逃げてばかり」
「はぁ?何からだよ?」
「君はずるい」

君は逃げていってしまう。
君が消えてしまうんじゃないかとあたしは怖い。
ねぇ、逃げないで。







八月五日の日曜日。


「僕は友恵さんが好きです」


家出少年の石凪萌太くんが突然、ぼくの部屋を訪れてそう告白した。
顔を見た瞬間にまた金を借りに来たとばかり思ったから思わぬ攻撃を喰らった。
この難問を解くには時間がかかるぞ。

「えっと…………部屋を間違えてるよ、萌太くん」

「間違えていません。いー兄に言いに来たんです」

謎は深まるばかりだ。
どうしてぼくに友恵ちゃんが好きだって告白しにきたんだ?まるで宣戦布告みたいじゃないか。……宣戦布告?

「萌太くん……友恵ちゃんが好きって、今言ったんだよね?」

「はい、いー兄。僕は何度でも言います。友恵さんが友達以上に、姉以上に、好きです。一人の女性として好きなんです」

友恵さん。間違いなく、それは友恵ちゃんのことだ。

女性というにはまだ幼いが、落ち着きがある少女。
ぼくの部屋に横たわっていた人間失格の預かり物。
半同棲をしている恋する乙女。異世界から来た変わった少女。
人間失格が好きかと問い詰めれば熟した林檎のように頬を赤く染める女の子。
猫みたいに頭を撫でたくなる少女。欠陥製品だが無邪気に笑う女の子。
人見知りをするくせに人懐っこいし面倒見がいい。
面倒見がいいから姫ちゃんや崩子ちゃん、萌太くんを可愛がっている。姉御肌の一面もあるからだ。

そんな友恵ちゃんが好き。
萌太くんはそうぼくに告白した。
家出少年。涼しい顔をして過保護な兄。マイペースという感じの性格で悠々自適な振る舞いをする美少年。
やけに友恵ちゃんと仲良くしているとは認識していたが、まさかこの萌太くんが好きになるなんて───。

「萌太くん、どうして僕に言うんだ?それは友恵ちゃんに言うことじゃないのかな」
「昨日、告白しました」

もう告白したのか。


「いー兄に知ってもらいたかったので言いました。今後、友恵さんを押し倒したら僕が大人しくしていませんから、覚えておいてくださいね」


萌太くんがにっこりと笑みで言った。先月の事件。ぼくが友恵ちゃんを押し倒したことが広まって騒動になり、改めて友恵ちゃんとの同居について口論になったあの事件。なるほど。友恵ちゃんに手を出すなってことか。
友恵ちゃんは隙だらけだからな。


「それはもう約束したはずだよ、萌太くん。ぼくは友恵ちゃんを預かっているからね。…でも、萌太くん。知っての通り彼女には好きな奴が」
「ええ、知っています。十分なくらい知っています。それでも僕は、友恵さんが好きなんですよ。いー兄」


萌太くんは何度でも言う。
友恵ちゃんが零崎を好きでも『好き』だと言う。


「いー兄は違いますよね?いー兄は手を出さないでください。僕は友恵さんが大好きなので」


告げられた。伝わった。
萌太くんが、友恵ちゃんが好きだと大好きだってことが伝わってきた。

それだけを言って萌太くんは、行ってしまう。言い残しただけ。

好きだと言って、行ってしまった。

「…………………」

友恵ちゃんを好きになるのは別に、理解できないわけじゃない。


比較的可愛いし仔猫みたいになつくし、気持ちがいい距離感がある。
一緒に半分住んでても友恵ちゃんは、適度に近付いては離れている。それこそ猫のようにだ。
無邪気で穏やかに笑う女の子。
でも、そんな彼女には一途に想っている人がいる。
それでも、好きだと言う。
どうして。
どうして、友恵ちゃんも萌太くんも、『好き』だと言えるのだろう。
ぼくには。わからない。




 


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