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楽しむ黒猫
082



「椿さ…ん…どうしたんですか?」


鼻を啜り、頬に伝う涙を拭く彼女は答えなかった。
答えてはくれなかった。


「椿っさん…」


泣きじゃくり笑う椿さんがあまりにも儚げで、今にも消えてしまいそうで


僕は焦りを感じた。


そのままいなくなってしまうのではないかと怖かった。


「椿さん、泣かないでください……どうしたのですか?」


僕は彼女の頬に手を当てて、椿さんに言った。
ちゃんと聞いてくれるように、僕の目を見てくれるように。


涙の理由<ワケ>はなんなのかを知りたかった


「っふ……ううっん…」


首を横に振り、彼女は涙の理由を話さなかった。

泣き止めそうにもない。


「椿…」


顔を上げるのが嫌だったのか、彼女はまた顔を伏せた。


僕に
彼女の涙をとめる術がない。


「……気がすむまで泣いてください…」


せめて周りに君が見えないようにするしかできなかった。
幻術で周りから僕達の姿を消す。


ベンチに戻るように肩を掴めば、


彼女は僕の胸にすがりつた。


「ごめん……もう少しだけ…」


どうすればいいか
わからなかった

彼女が泣きながら僕の胸にすがり付いている。

今にも崩れてしまいそうな彼女を


抱き締めればいいと、少し遅くなったが気付いた時には


もう彼女を抱き締めていた。


両腕で閉じ込めて彼女をギュッと引き寄せる。

彼女が泣いているのに、満たされる感じが彼女に触れる部分から広がった。

温かい身体の震えを止めようと更に力を込める。


「ふぁっ…うぁ!」


悪化したようだが彼女は僕を振り払わず僕の胸で泣き続けた。


どうして…
泣いているのかはわからない


だけど
どうしようもなく儚げな彼女が
愛しく想えた。


儚い人間を愛しく思うなんて可笑しい。


こんなにも彼女は弱かったのか


いつでも笑いのける、そんなの勝手な想像だった。



嗚呼、どうしてもわからない。


胸に溢れるこの感情の意味がわからない。


震える体と不思議な温もりと甘い声を感じながら、僕は考えた。



もう少し長く、抱き締めていたい








 


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あきゅろす。
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