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楽しむ黒猫
076 空は群青



どうかしてる、そう言う声が聴こえるのに動けなかった。


初代のキスを受け入れて、口を開く。温かい感触、甘い感覚が脳内に広がる。


彼の指が頬をなぞり髪の間に滑り込んだ。それが気持ちよく全ての力が抜けてしまいそうだった。

彼に身を任せてしまいそうだ。


それはだめだろ
理性がそう言う。


   スパァンッ


あたしは思いっきり彼の頬を叩いた。


いつの間にか息を止めていたみたいで呼吸が荒い。
手がじんと痛む。


「っ………オレ痛い目ばっか」


大きな溜め息を吐いて初代は自分の頬を擦る。

それは貴方がセクハラをするから…


でも、もう一度あたしを見た初代はどこか嬉しそうで笑みを堪えていた。


「な、なんですか…」


ベッドに寛いだ初代を睨み付ける。


「いや…今のはよかったなーと思って」

初代……アンタ蹴ってもいい?


セクハラ発言でしかない。
殺意を込めて言えば、初代は体勢を変えて床に足をつけた。


「椿は何を願うか、口にしてみろ」

「願う…?」


一体何のこと…?
初代の話本当に理解できない。


不意に思い出した

昨日雲雀君と話したこと


“変わらない”
“置いていかれる”


あたしが思ってること?
あたしが願うこと?





それは…




それは……




それは、それは……───






だめ……願っちゃ…だめ





最後に初代を見たかったのに、視界が霞んで見えなかった。


次の瞬間、視界は見慣れた天井。


頬には涙が伝っていた。



口にも、しちゃいけないとあたしは思うんだ。





習慣になった時間帯に起きて、お風呂に入ってから家を出て彼らのアパートに向かう。


悲しみを無理矢理押し込んだ空間に空気を入れるため深呼吸。



嗚呼、空は群青色







 


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あきゅろす。
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