楽しむ黒猫 166 キスをされている。 そう寝惚けた頭で理解した椿は避けるため、後ろに仰け反った。 勢い誤り、床に倒れる。 また頭をぶつけたが、痛がる暇なんてなかった。 彼は追ってきて、また唇を奪う。 倒れた椿にもう逃げ道がない。 押し退けようとも眠気のとれていない身体は言うことを聞いてくれず力が入らなかった。 されるがまま。 唇を絡められ、息が零れる。 呼吸がまともにできない。 強引に好き勝手にキスするのは、一人だけだ。 「っこら!雲雀っ!」 怒り任せに怒鳴って突き飛ばすことができた。 「────…」 目を丸める。 真上にいたのは、雲雀なんかじゃなかった。 目が慣れて暗い部屋の中、目の前にいる彼の顔を認識した。 肩を掴んでいる相手、それは。 「む…くろ…く」 「……」 目を見開いた骸が、目の前にいる。 上に覆い被さるようにいるのは骸。 今のキスは、間違いなく骸。 「…なんで…むく」 「…雲雀恭弥…?」 骸が口を開く。 「………雲雀恭弥に、こんなこと…されたことあるのですか?」 ギクリ。 つい思い込みで雲雀と怒鳴ってしまっていた。 それは"こんなこと"されたことあると白状したようなものだ。 「いや、いやっ…それより…ね、ね…?なんで…なにしてんの…退きなさい」 「…クフフ。貴女があまりにも無防備だから…つい、悪戯をしてしまいました」 「い、悪戯…?」 椿は顔をひきつらせた。 悪戯。 質が悪い。 「それより、椿さん。…はぐらかさないでください、どうなんです?」 「…いや、それより…退こうぜ」 「いいえ、それより」 未だに真上にいる骸。 退こうとしない。 両手を頭の上に固定された。 顔を近付けて、鼻の先で囁く。 「彼に────…キスされたのですか?今のように……?」 「…いや……」 頬を押さえつけらる。 骸は問い質す。 [*前へ][次へ#] |