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楽しむ黒猫
142 月見








「きゃあ〜綺麗な月、雲も見えるや」


月見。この時間が一番見所。
椿と雲雀は寝室の前のベランダから満月を見上げた。

見上げるのに丁度いい高さにある満月の周りに浮かぶ薄い雲。


秋の夜空らしい風景に椿のご機嫌は絶頂に上っていた。

そんな椿の横顔を雲雀も上機嫌に見つめる。


綱吉達はリビング。
骸は二人の姿が見えない為気が気ではないが椿に大人しくするように、と言われた為腰を上げられないでいた。


(何もないと、いいのですが)


ベランダだ。
何も起きないだろう。
それに今夜はソファではなく隣に寝てくれると約束したのだから我慢しよう。

そう大人になって骸はテレビを見つめた。


「綺麗だねぇー雲雀君」

「…うん」


ぼんやり、柵に腕を置いて見つめる。

チラリと雲雀はまた椿を見た。

口元は笑みを浮かべたまま。
瞳は月の光で揺らいで見える。

愛しそうに見つめる瞳は青空を見つめる時のと同じだ。


あの時と同じ。

不意に椿がこちらに目を向けて、ドキリと心臓が跳ねた。


「雲雀君も食べる?」


笑顔で見せるのは先程買ってやった雪見だいふくのアイス。


「……いらないよ」

「そっ」


プイッとそっぽを向いて雲雀は頬杖をついて月を見上げた。


椿は一つの餅に包まれたミルクアイスを食べ始める。

そのアイスを半分食べた頃、雲雀は口を開いた。


「ねぇ、なんで僕の事苗字で呼ぶの?」

「ふえ?どうふて?」


アイスをくあえたまま首を傾げる椿。


「君、恭弥って名前が好きなら恭弥って呼べば?」

「んー…。雲雀って名前も好きなんだよね。じゃあキョンキョンって呼ばせてもらおうかな」

「咬み殺されたいの?」


キョンキョンと言う呼び名は呆気なく却下。


「恭弥は椿ちゃんって呼んで」

「………いやだよ」



さりげなく名前を呼んで笑う椿の声は気持ちがいい。
喜ぶ自分を落ち着かせて雲雀は瞼を閉じた。


また静寂になる。

冷たい空気。
秋の夜空。虫の音。

冷たい風が運ぶのは甘い香りは彼女。


彼女の隣にいるだけで落ち着ける。

心音はドクン、ドクン、とゆっくり深く奏でる。


「─────…ねぇ」


意を決して口を開いた雲雀。


横を見ればまた椿はアイスを加えている。
好きなものを食べている椿の顔は本当に美味しそうだ。


頭に並べていた台詞を忘れた雲雀は椿をただ見つめる。


気まぐれな黒猫はアイスをくわえたまま。



 


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