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楽しむ黒猫
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「アンタは子供を産むべきじゃなかった!!アンタがあたしに教えたのは!悪い例の家庭だけ!!
 アンタを捨てた男が去った時にあたしを卸すべきだったね!!」


吐き出すように椿は次から次へと言い放った。


「黙りなさい!!」

煩いっ!!お前の声は大嫌いだ!!


伸びてくる手を椿は振り払う。


残りのお前の子供もあたしみたいにならないように見張りなさいよ!!


立ち上がった椿は鞄を掴み、脱いだ靴を掴んだ。


アンタなんて…大嫌い…!!


それだけを言い残して椿は家を飛び出した。


「こんなくだらないもの描いて!!おまえは何の為にいるのよ!!」


否定の言葉を聞くのが怖くて
耳を塞いでいた



「必死に描いたって……認めてもえないんじゃ紙切れ当然だ…」


否定されて

ただの紙切れになるのが怖い


どんなに綺麗に作り上げても

否定すれば泡沫になる物語


消えてしまうのが、怖い



無我夢中に走った。
走るしかなかった。


走り疲れて足を止めれば足の裏に痛みを感じる。
しゃがんで手に持った靴を履く。


そこで椿は自分が泣いていることに気付いた。


いつから泣いていたのだろうか?
顔はかなり濡れていた。


「ヒクッ……ふぇ…」


嗚咽で身体は震える。
呼吸がうまくできない。


母親を叩いた手が熱い。


叩かれた頬が痛い。


立ち上がり、椿は歩く。
向かう場所は、彼らがいるあそこしかなかった。


だけどこんな顔で会うことなんて出来ない。


啜り泣きながらも歩いていたが、椿は立ち止まりその場に座り込んだ。


人気のない夜道。座り込んだって誰の迷惑にもならない。


泣いたって誰も気付かない。


「うぅっ…あぁあっ!!」


否定される恐怖がゾクゾクと身体に襲い掛かる。


このまま自分が闇に消えてしまうのではないかと恐怖を感じる。


口を押さえて、声にならない叫びを上げる。


「あっ…ああ……っ」


余計虚しくなって涙はまた溢れた。


消えてしまうのが、怖い


   怖い…


  怖いよ…


   怖いよ…



「椿…?」


   誰か助けて


   誰か傍にいて


    助けて



「…椿?」


   笑える


   誰かが
  呼んでる声がする


  幻聴にすがるなんて


  どうしてあたしは
  現実が見れないんだ


  だから上手く
  生きてけないんだよ…



「椿ちゃん?」


目を丸めて椿は顔を上げた。

そこには、同じく目を丸めた綱吉が立っている。


なんで彼がそこに立っているのかわからないが、椿はそんなこと考えなかった。


ただ今自分を見ている綱吉が


自分の名前を呼んでいることが


目の前にいることが


どうしようもなく嬉しくて、どうしようもなく心強かった。




 今一番怖いのは
 君達が
 跡形もなくなって
 消えてしまうのが

 怖いんだ



 


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