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楽しむ黒猫
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   ズルッ


「!?」


不意に引っ張られたかと思えば雲雀の下から出れた。

顔を上げたら、獄寺が肩を掴んでいた。


「ゲーム。次、てめーの番だぜ」

「あっ、うん。…ありがとう」


何かが、可笑しい。
綱吉は何度も瞬きして、睨み合う雲雀と骸を見た。


何かが、変わった。


その何かが、わからない。






「はいはい!!わかりましたよ!!」


翌日。

椿は苛立った口調で自分の家を出た。後ろから母親のわけわからない罵声が聞こえたが椿は聞こえないフリをして、自転車のペダルを踏みつける。


苛立ちが眉間に深いシワを生んだ。大声を出したいのを堪えて歯を噛み締める。

顔に当たる冷たい風で頭を冷やす。


母親の声は、嫌いだ。


「少しは家のことをやったらどうなのよ!」


大きな溜め息を出して椿は苛立ちも吐き出そうとしたが少しも減らない。


「……クソッ」


学校も行っていない、仕事もしていない17歳。
周りが急かす。

追い立てるかのように、時も急かしてくる。


(漫画…描かなきゃな)


さっさとデビューして家族から離れよう。そうすればきっと楽になる。


椿は自転車を降りて、ヒールで階段を踏みつけてかけ上がった。


ドアノブに手をかけて一度深呼吸。


これを開けば、彼らがいる。


自分は、幸せ者だ。


「ただいま!」

「おかえりなさい、椿さん」


開いた途端、目の前に骸がいたからギョッとした。


驚いた椿を気にも止めず中に引っ張り込んだ骸は、頬に軽いキスを落とす。


「おかえり椿ちゃん!」


駆け寄る綱吉とすれ違い骸は先に廊下を歩き去った。


「……」


キョトンと首を傾げながら頬を押さえて立ち尽くす。


綱吉は不思議に思い首を傾げた。


「どうかした?椿ちゃん」

「ん?ううんっ」


椿は笑って首を振って、歩き出した。


骸は外国育ちだ。
頬にキスなんて挨拶だろう。

気にしないように椿は朝食を作った。


いつも通り朝食をとったそのあとに、椿はコーヒーテーブルにノートを広げる。
絵を描きやすいシャーペンの芯を出してノートの上にコマを描き入れて絵を描いた。


黙々と、集中して描いていく。


「……………」


その集中を散らすのは、突き刺さる視線。


「……気が散るから見ないでくれる?」


椿は無視できなくなって言った。
集まる視線は骸と綱吉と獄寺だ。

雲雀はフラリと出掛けてしまって、ソファに骸は腰掛けている。


三人は漫画を描く椿の手元を興味津々に見ていた。



 


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