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楽しむ黒猫
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「スピード、出た方がいい?スピード狂なんだろ」

「いや…事故るのはやだから1速でいいや」

「ふーん…。ねぇ、もっと前に詰めてくれる?」

「あ、うん…」


彼女の手の上からクラッチを握り、ギアを1速に戻す。


「1ついいかな」

「何」

「……くすぐったい」


何がくすぐったいのだろうか、と一瞬考えた。慌てて顔を背く。


「ひゃっ、だから…お願いだから肩に顎を乗せないで」


…そっち?
僕はてっきり、頬が触れてるからかと思った……


「君、肩も弱いの?」

ひゃあっ!ばかっ!事故るよ!?


耳に息を吹き掛ければ、大きく震え上がった椿。思わず笑いを洩らす。


気を取り直して、僕はアクセルを軽く回してからバイクを動かした。


「わっ!」

「どうしても無理ならクラッチをゆっくり放して」

「う、うんっ」

「ビビりだね」

雲雀君…あたしが運転してるって忘れないで


ちんたらと道路のすみを走るバイク。椿は緊張してるのか強張ってる。


「そんなに難しくないでしょ?」

「難しいよ…二人乗ってるし」


初心者がいきなり二人乗りは難しいのかな?
慣れればいいんだよ

僕は勝手に蹴ってギアを変えた。


「!?、ちょっと!?」

「スピード上げるよ」


彼女の手の上からアクセルを回す。何か椿が叫んでる見たいだけど高鳴ったエンジン音で聞き取れない。


スピードを上げたバイクを僕がコントロールして少し走ってれば、彼女がゆっくりクラッチを放してバイクは止まった。


「初心者には優しくしてよね…。事故ったら冗談じゃないんだから」


やっと止まって安心したのか、椿は僕に背中を預けた。

文句を言ってるけど


「でも楽しかっただろ?」

「……」


椿は何も答えずただ笑った。


「…さぁ、降りて。僕が運転するよ」


彼女の肩を掴んで降りるように言った。直ぐに降りた椿は次に僕の後ろに乗る。


「掴まってていい?」

「落ちたいなら掴まらなくていいよ」


特に何も言い返さず、彼女は僕の背中の服を握った。


「……」


僕は少し考えてから彼女の手首を掴み、僕の身体に巻き付けた。


「振り落ちても知らないよ?」

「……うん」


ギュッと彼女の腕が僕の身体を抱き締める。それに心臓が反応するから落ち着かせようとした。

背中から伝わる温もりが、じわりと広がる。


僕は1速踏んで、エンジンをふかして走り出した。


少しだけ彼女の腕に力が入る。
本当に苦手みたいだね…


スピードが出てきたところでギアをいっきに5速に変える。


「きゃ!?」


彼女の悲鳴。また強く僕にしがみついてる。

ちょっとだけ笑う。
きっと彼女は気付かないだろうけど


 


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