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小説
追悼讃歌                            射手座と双子座 ちょっとしんみり










ふと聞こえた声。
嗚呼…………。彼だったのか。
アイオロスは引き寄せられるように足を進めた。


双子宮脇の庭。
「カストーラ……ポリュデウケー……………………」
囁くように歌うその声を辿る。
古代ギリシア語で歌われる讃歌。
この内容は…いや、それより歌い手は…。
「…いざ、私は御身たちをも他の歌をも想い起そう……」
「……カノン」
歌の区切りを待ち、アイオロスは小さく声をかけた。
理由は簡単。
「……何だ」
不機嫌そうにカノンが視線を向ける。その脚…正確には大腿にはサガが頭を乗せ眠っている。
「いや…。歌が聞こえたから」
「……」
返事をせず、カノンの視線はサガに落ちる。
「…サガ、疲れてるの?」
「…サガは夜眠らない」
「……なぜ」
ひそひそと囁くように交わされる会話。
先ほどの歌声とは違いなんだか嫌な感じになる。
「……眠っている間に『もう一人』が出るんじゃないかと怯えている」
「…だってそれは……」
小さく頷くカノン。
「もういない…」
「……」
愁いを帯びたその声に、アイオロスは胸が痛むのを感じる。
「歌を…」
「え?」
だからアイオロスは言った。
「だから歌を…歌っていたのか?」
13年前
双子宮から聞こえる歌声があった。
誰もいないはずの宮から。
あれはカノンだったのだろう。誰の為に歌うのか。讃歌は常に『ディオスクロイ讃歌』
存在しない三人目の為に歌うのか。
「…お前はこちらの方がいいか?」
「え…?」
優しい眼差し。カノンは囁くように声帯を震わす。
まるで何かに怯える様に。
「…栄えある女神、パラス・アテーナーを歌い始めよう。
 輝く眼の、智力あふれ、、和らぐことなき心もちたもう女神、
畏き処女神、城市護りたもう神、心猛きトリートゲネイアを…」
『アテナ讃歌(讃歌第二八番)』
アテナの生まれを、その勇猛さを謳う讃歌。
「……」
アイオロスは気が付いた。
嗚呼。彼は…アテナを讃美しながら深く深く怨んでいる。
サガが苦しむ姿を誰より間近に見、
もう一人のサガがいない現実を泣き、
そして自分も罪に喘ぐ。
「……」
眠るサガ。歌うカノン。立ち尽くすアイオロス。
嗚呼……


なんて平和な一日…








あとがき
カノンが双子宮の亡霊みたいになってしまった…。
聖域の七不思議。誰もいない双子宮の歌声。……あほなこと考えてすみません。
でもアイオロスは知ってるといいです。カノンの存在。
カノンの存在を知っているのが教皇シオンとサガだけでもアイオロスはなんとなく気が付いていたとか。
「サガ…じゃないよな。でも本人は自分はサガだって言うんだよなあ…」みたいな
アイオロスは子供の頃、何回かこの歌声を聴いたことがあって、懐かしくてつい双子宮に…という感じです。
こんなにしんみりするつもりはなかったんですが…。






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