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小説
秘密は秘密と言ったら秘密ではない                    双子座と射手座と獅子座 ほのぼの









拝啓


この手紙を読んでいるのは誰ですか?
どうかここで読むのを止めて下さい。
愚かな私の独り言。
それでよければどうぞ聞いて下さい。
15の私には誰にも話せない秘密があります。
私には双子の弟がいました。
ええ、いました。過去の話。
私が海に沈めて殺してしまいました。
私と違って素直な子でした。
善にも悪にも。すべてにおいて。
真っ直ぐな子でした。……私が歪めてしまいました。
私の半身。私の全て。私の…大切な大切な弟。
閉じ込めたのも海に沈めて殺したのも私。
嗚呼。悔いても嘆いてももう戻らない。戻れない。
教皇の殺害より、友を裏切った事より、欺き続けていく未来を想像するより、何より重い。
名を呼ばれる事のなかった弟。存在を知られる事のなかった弟。何一つ持つ事を許されなかった弟。
大好きだよ。
たった、その一言さえ、最後に言ったのはいつ?
もう思い出せません。あの子の笑った顔も、悲しんでる顔も、空虚な顔も。
歪んだ顔しか思い出せません。
今も思い出せるのはあの子の叫び。
牢の中で、出してほしいと叫ぶあの子の声。
謝る事はもう出来ない。愛する資格すらない。
ですが、どうか
この手紙を見つけ読んでしまったあなたに願う。
私の事は忘れて下さい。
ただ、彼のことだけを覚えていてほしいと。
そしてこれは愚かな私の祈り。
この手紙を見つけ読んでしまったあなたは幸せであってほしいと。


敬具








「…………おいサガ」
「なんだカノン。私はちょっと忙し…」
「これなんだ」
「ん?」
私室の机から顔を上げ、戸口に立つカノンを見返すサガ。
その手には古めかしい一枚の紙。
擦り切れ、インクが擦れかすれた古めかしい紙。
「…それは……?」
「……『拝啓』」
「!?」
その一言で、なにかピンときたらしい。
サガはバッと立ち上がりカノンに詰め寄る。
「どこでそれを!?」
「さあ」
茶化しかわすカノン。
つたない字。汚れた紙。紛れもない。
サガはかみ締めるように叫んだ。
「それは私が幼い頃書いたもの…!!」
「ここに『15の私』ってあるぜ?ってことは15歳の頃か」
「何故カノンが持っている!?」
奪おうとするとヒラリとかわすカノン。
「カノン!」
「…なあサガ」
手紙を見下ろし、カノンは問う。
「…不幸だったか?」
「……不幸だったとも」
自分がまいた種とは言えな。と自嘲するサガ。
「…俺も不幸だった」
せめてどちらかが幸せだったらよかったのにな。と自嘲するカノン。
「……拝啓。この手紙を読んでいるのは誰ですか?」
「カノン…。やめないか」
手紙を朗読し始めたカノンにサガが顔を渋くする。
「どうかここで読むのを止めて下さい」
「カノン」
愚かな俺の独り言。
それでよければどうか聞いてくれ。
28の俺には誰にも話せない秘密があるんだ。
俺には双子の兄がいる。
ああ、いる。現実の話。
俺が苦しめてしまっている。
俺と違って綺麗な兄。
良くも悪くも。すべてにおいて。
優しい兄。……俺が罪深いせいで苦しめている。
俺の半身。俺の全て。俺の…大切な大切な兄。
罪を犯させたのも、今もなおその罪に喘がなきゃいけないのも俺のせい。
嗚呼。悔いても嘆いてももう戻らない。戻れない。
女神を殺害しようとしたことより、仲間を裏切った事より、平和な未来を生きる想像をするより、何より重い。
光にいすぎて辛くなった兄。全てを秘めなければいけなかった兄。過ちを許されなかった兄。
大好きだ。
たった、その一言さえ、最後に言ったのはいつだ?
もう思い出せねえ。兄の笑った顔も、悲しんでる顔も、空虚な顔も。
歪んだ顔しか思い出せねえ。
今も思い出せるのは兄の叫び。
俺を罵倒する兄の怒りの声。
謝る事はもう出来ない。愛する資格もない。
だけど、どうか
この手紙を見つけ読んでしまったおまえに願う。
俺の事は忘れてくれ。
ただ、彼のことだけを覚えていてほしいと。
そしてこれは愚かな俺の祈り。
この手紙を見つけ読んでしまったおまえは幸せであってほしいと。
「……敬具」
「……馬鹿が」
肩をすくめて笑うカノン
「馬鹿はないだろサガ。同じことをしてやっただけだ」
「どこが同じだ。だいたい、歳と内容を少し変えただけではないか」
「しょうがないだろ。俺は今15じゃねえ」
「いい加減それを返さないか」
「嫌だ。発見者は俺。だからこれは俺のもの」
「意味が分からん」
くすくす二人で笑いながら「返せ」「嫌だ」を繰り返し追いかけっこ。
ひらりと舞うように、かわすカノン。追いすがるサガ。
「…………何やってんだか二人」
「「!?」」
声に振り返れば廊下の向こうにアイオロスとアイオリア。
「狭い廊下で何やってるの」
呆れたように笑うアイオロス。
「カノンが悪いのだ。私のものを返そうとしない」
「いいだろ。読み手が俺である以上、この手紙は俺に所有権がある」
「手紙?」
アイオリアが首を傾げる。
「サガ、そんなに大事な手紙なのか?」
「大事と言うか…」
「『拝啓』」
「カノン!読んだらG・Eだからな!?」
「あーあーいい加減にしろ双子。年収めの挨拶を今夜、アテナが直々に言うらしい。遅れるなよ」
アイオロスが、用件は伝えたとばかりに出て行く。
「じゃあな。サガ、カノン。今夜また」
慌てたように兄の背を追うアイオリア。
その背を見送り。
「アテナ直々だってさ。サガ」
「……そうだな」
「まだ時間があるし…」
カノンは笑って振り返った。
「昔みたいにのんびりするか」
「そうだな。それが良い」
くすくす笑いあう双子。
辛い過去。不幸な今。重すぎる未来。
ああそれでも。
「「お前が傍にいれば幸せだ」」
くすくす笑う。
「くさい台詞。よく言えるなサガ」
「人の事言えまいカノン」

さあ。何しようか。












あとがき
あ…甘すぎる。
ショートケーキの食べられない私には甘すぎる。無理…。
何とか年内に収めねばと打ってたら支離滅裂。
別に年収めのアテナの挨拶を年明けの挨拶に変えれば支障ないはずなのだが…。




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