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小説
おちてゆく                         双子座 カノンバージョン ※死にネタ注意















「カノンカノンカノン!!」
狂ったように自分を呼ぶサガの声がする。
あと雨。
雨が降っている。
だってほら。さっきからぽたぽた頬に雨粒。
嗚呼サガ。
「………サ…」
「カノンカノン!!」
『サガ』と呼びたいが、擦れた声しか出ない。
うっすらと目を開け、見上げれば、それは雨粒などではなく涙。
嗚呼。
綺麗だなサガ。
「カノン!!死なないでくれ!!」
零れ落ちてくる雫が、きらきら光って綺麗だ。
なのに、サガはまるで自分が死にそうかのように顔を歪めて…。
そうか。俺、死にそうなんだった。
思い出した瞬間、吐き気。
小さく咳をして咽に溜まったものを吐き出す。
サガが大きく目を見開く。
嗚呼。そんな顔をするな。
「サ……ガ……………」
「なんだっ?カノン!!」
「わ……って……」
「え…!?」
聞こえなかったのか困惑した顔のサガ。
しょうがない。もう一度だけ言ってやる。
笑ってくれよ。
「……!!」
引き攣ったようにサガが驚愕する。
なあ。笑ってくれよサが。俺、サガの笑った顔が好きだ。
神のような…じゃなくて、笑うさまが好きだ。
雨はもういいよ。綺麗だけど、好きじゃない。
海底を思い出して寂しくなるから。
「…サ……ガ………」
俺はサガに手を伸ばす。
届かず、重力に従いそうになる手。感覚のない腕。震える指。あ。爪が剥がれてる。
「サガ……」
呆然とその様を見ていたサガに、ムウが控えめに声をかける。
すなわち『とりなさい』と。
「カノン!!」
すがる様にその手を取るサガ。
血だらけの手を両手で包み叫ぶように言う。
「カノン!!死なないでくれ!!」
「……サ…ガ」
聞けサガよ。
俺はここで死ぬ。
だが、お前は俺の遺した情報を駆使してこれ以上の犠牲が出ない作戦を立てろ。
必要ならお前がまた双子座を纏え。
シオン様と知略の限りを尽くせ。
そのために俺は無謀の末に帰ってきた。
俺の死を無駄にするな。
「カ……ノ……」
サガの顔が再び歪む。
伏せた顔。だが、次にあげられた時、その顔ははっきりと微笑んでいた。
「カ、ノン…。安心しろ。お前の遺志は私が継ぐ」
泣いた名残か、まだひゃっくりを上げながら言い切るサガ。
「決して…無駄になどしない!!」
嗚呼。
それでこそ双子座の黄金聖闘士サガ。
……サガ。
「何だ。カノン」
「…ご…め……んな…」
「何を…」
謝る俺を許してくれ。
笑ってサガを見返す。
俺は最高に幸せ者だ。

し    あ
            わ
                        せ        に

   お    
           
                           て        
                   ゆ                    く


















ムウに呼ばれ駆けた。
カノンが帰還したと。満身創痍で息も絶え絶えで。
それでもカノンはサガを呼べと言うと言う。
情報を渡すからと。
「!!!!」
飛び込んできた現実を一瞬、脳が激しく拒否する。
白い石畳。紅い赤い朱いカノン。
遠目でも分かる。胸部から腹部に向けて破損した聖衣。
その中身はがらんどう。つまり空っぽ。
「サガ!!」
こちらに気が付いたムウが、何をしているんですか!と言わんばかりに大声で私を呼ぶ。
ふらり。また一歩ふらりと足が進み最後には駆け足。
「カノンカノンカノン!!」
走り寄る途中で耐えられなくなった涙腺は、カノンの脇に膝を付いた瞬間崩壊。
涙がばたばたとカノンの顔に降り注ぐ。
嗚呼これではカノンが溺れてしまう。
肋骨の飛び出した胸。どこに内臓を零してきたのか、空っぽになり潰れた腹。
ヒューヒューと、何かから空気が漏れるような音を立てて呼吸するカノン。
「………サ…」
「カノンカノン!!」
眩しそうにこちらを見上げるカノン。
必死に名を呼び、こちらに気を向ける。意識を向けさせる。
すると
カノンが笑った。
何が楽しいのか、綺麗な微笑を見せる。
だが、刹那にその顔は苦しそうに歪み、横を向いてゴボリと血の塊を吐く。
「!!」
言葉にならない絶望。
呼吸さえままならず、内臓もないのに血を吐く。
「サ……ガ……………」
小さいカノンの呼びかけ。
「なんだっ?カノン!!」
一言ももらすまいと、顔を寄せる。
「わ……って……」
「え…!?」
だが、かすれた…否。囁きにも満たないその声はサガの鼓膜を揺すらない。
しっかりしろ私!
カノンが何を伝えたいかを…。
「…!!」
カノンが笑う。
しゃーねえなサガ。もう一度だけ言うぞ?とでも聞こえてきそうな表情。
事実、再び動く口唇。
『わ』『ら』『っ』『て』『く』『れ』『よ』
笑ってくれよ。
「……!!」
嗚呼カノン!!お前はなんと残酷なんだ!!
笑えと。
こんな状況で笑えと言うのか!
悲しげに微笑むカノンの手が、私に伸ばされる。
「……」
上手く現実が認識できず、背後に立つムウが小さい声で私を呼んで我に返る。
「カノン!!」
崩れそうになる腕を、掻き抱くように両手で包む。
こちらが震えそうになるぐらい冷たい手。爪が剥がれ、血だらけの手。
「カノン!!死なないでくれ!!」
「……サ…ガ」
叫ぶとカノンが目を細めた。
刹那。大量の情報が頭を巡る。
敵陣の様子。敵の力量。数。考慮すべき点。弱点になりうる所。罠。注意すべき相手。
凄まじい情報が、小宇宙も使わずに脳に再現される。まるで、先ほどまで自分がそこにいて直接見てきたかのように。
……!!
双子故の同調か共鳴か。鮮明すぎるシンクロにサガは顔を歪めた。
「カ……ノ……」
再び涙が溜まりそうになる。だが、目蓋を強く閉じ、顔を伏せて耐えた。
泣いては駄目だ。カノンに、笑顔で「お疲れ」と言わなくては。
「カ、ノン…。安心しろ。お前の遺志は私が継ぐ」
号泣したせいか、ひゃっくりが出てしまい、上手く笑えない。
「決して…無駄になどしない!!」
それでも笑う。
カノンが好んだ、笑み。上手く笑えているだろうか。
……サガ。
呼ばれた。
理解し、カノンに顔寄せる。
「何だ。カノン」
微笑みは絶やさない。昔のように、二人で笑いあって生きていた頃のように。
なのに、カノンの次の言葉にサガは止まった。
「…ご…め……んな…」
え……。
「何を…カノン?」
嗚呼、目蓋が落ちていく。
カノンの命が…。
「カノン!? 眠っては駄目だ…!逝っては駄目だカノン…!!」
役目を終えたと安心しきった表情。
あやされ、眠る幼子のように。

し    あ
            わ
                        せ        に

   お    
           
                           て        
                   ゆ                    く
















あとがき
おちてゆくカノンバージョン
暗い…。



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