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novel
温厚ではなく悲しいほど弱い青年
大店の三男坊だった彼は、
期待されなかったせいか、成人する頃には
ひどく温厚な男になっていた。
人当たりもよく近所でも評判の青年であった。
そして、
あからさまに上の兄や父に蔑まれる末の妹をかばい、
慰めるのも彼だった。

自分の手にはなにも残されないと悟って、
諦念の心境だったのかもしれない。
だから、
父の勧めるまま知り合いの家元に婿養子に入ることも
受け入れたのかもしれない。

本心が見えない青年だった。

けれどその彼でも、
ひとつだけ手放すのをひどく悩み苦しんだものがあった。

末の妹。
彼にとってかけがえのない存在。愛する女性。

けれどもその禁断の想いに耐えられず、
結局手放してしまうのだ。その後に、
消えた妹を探して新妻を捨てるほど、
後悔することになるのに…。

いつだって、気づくのが遅いのだ。

末の妹曰く、
追い詰められないと自分で動けない人、
なのだそうだ。
温厚ではなく弱い人。
悲しそうに、いとおしそうにそう話す。

彼の"生"は、妹を失ってから始まる。

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