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【二次創作】零崎漆識の人間歓待
覚醒−中編−
「終わった―――な。」
 気がつくと、白墨は屋敷の玄関に居た。手には血脂にまみれながら刃欠けの一つも無い脇差し。身に纏っていた作務衣も端々が血に塗れていた。

 家の中の全生物を殺害する事は、想像した以上に容易かった。少しは揺らぐかと思った心があまりに平穏で、肩透かしをくらった気分になったくらいだ。

それはまるで、以前から何度も無意識で繰り返して来た事の様に。
まるで、生得的に刷り込まれた生命維持活動の様に、当たり前な容易さだった。

 それでも、流石に普段使わない筋肉は疲労したらしく、軋む首を鳴らしながら白墨は周囲を眺める。
錬鉄の為、都会を離れ山中にある罪口家の別宅の一つが白墨の住処だったが。そんな訪う者の少ない家でも玄関は立派だった。
日本家屋には珍しい鉄の門扉に頑丈な閂。年齢どおり、12歳の平均である体格の自分には、大の男二人がかりで開ける扉は重すぎる。
本屋敷と幾つかの離れをぐるりと囲んだ塀は、中に鉄の支柱が入っているため破壊することは困難だ。裏口や通用口も、まるで中の者を閉じ込めるかの様に封じられている。

 外に出るならば鍵を探す必要があるだろう。しかしそれ以前に、白墨にはあまり『外に出たい』という欲求は無かった。彼がこの別宅から出たのは、何度か本家に顔見せに連れて行かれた時だけだ。生まれてからの12年間で、20回有るか無いかという外界との接触。故に、罪口白墨にとって世界とはこの別宅の中だけだったのだ。

白墨は武器作りが嫌いだった。他人の腹の内など解らないのに、その他人が他人を殺す為のモノを作るなんて真っ平だった。
白墨は師が嫌いだった。白墨が少しでも粗のある武器を作ると『こんな物で人は死なんと教えてやる』と白墨に対してそれを振るうその男が嫌いだった。
白墨は屋敷の人間が嫌いだった。友人である除煤から聞く『外』とはあまりに違う常識。慇懃無礼で自分と接してくれない使用人。競い合うだけの『家族』。それは、白墨の理想とは程遠かった。
白墨は、罪口の家が。つまりは世界が、嫌いだった。
ここはまるで牢獄で。自分は孤独であるのだと、嫌でも思い知らされたから。

そんな窮屈な世界を、少しだけ広げてくれた友人も今は居ない。だから、彼にとって『世界』を終わらせる事は必然だった。

―――こんなにも遣る方ない世界なら。一度終わらせて、打ち直したい―――

 その願望は日増しに強くなっていた。今日それが堰を切っただけで、除煤の事が無くとも早晩ここに行き着いたろう。
「ああ―――終わった。」
 いつか片付けなければならない面倒事を終わらせた様な安堵感に、白墨は座り込む。あとは屋敷に火をつけて、自分も一緒に焼いて終幕としよう。それできっと、熱は世界を終わらせ……そして鍛ち直してくれるだろう。

―――今度は、きっと良い家族の中に生まれ変わりますように。―――

そう誰にともなく祈りながら、白墨は屋敷じゅうに撒き散らした燃料に火をつけた。

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