HAPPY BIRTHDAY !!(夢無)
今日は、何かがおかしい日だ。
俺は、そっと溜息をついた。
朝、いつものように出勤するとすでに殆どの隊士がいた。その中には珍しく松本の姿もあって、俺が来たことにすら気付いていないようだった。…どんだけ集中してんだよ。
「松本」
名前を呼べば、ハッと顔を上げて手元の書類を隠していた。…この挙動不審さは何だ?
「おっおはっおはようございます!早いですね、隊長!」
「…それは俺のセリフだ。何かあったのか、お前がこんなに朝早いなんて数年見てないが」
「失礼ですよ!私にだって、ちゃんと早起きする日はあります!今日だって…」
「今日が…どうかしたのか?」
「い、いえ!それより隊長、書類整理終わったら早退してもいいですか?」
「…別に構わないが…終わるのか?」
「はい!ちゃんと棚の上とか裏とか、仮眠室に隠してた書類も全部終わらせてみ…あ、」
「そーかそーか、そんなに隠していたんだな。…今日中に終わらせろよ(怒」
「は、はひっ…っ!」
涙を浮かべて返事をすると、松本は今年の初めに買ったのに、まだ新しい筆を握った。
「……ん?」
いつもはもっと書類がまわってくるはずだ。例えば、雛森からとか十一番隊からとか…。たまに浮竹からも申し訳なさそうな表情を浮かべた隊士が書類を持ってくる。…なのに、今日は全然回ってこない。まぁ、午後になれば雛森が駆け込んでくるだろう。そう思って、俺は執務に取り組んだ。
………もう一度言う。今日は何かがおかしい。明日は雪が降るんじゃないのか。いや、時期が時期だから普通にありえるんだが。(混乱中)松本はすでに帰った。昼の休憩を終えてから1時間後のことだ。そして雛森……雛森は、仕事が終わったから帰ろうと言って松本と一緒に帰った。信じられないこと続きだ。
「…まぁ、これはいつも通りか」
ため息をつくと、目の前の扉をあけた。隊士を2人よこして俺を呼んだのは珍しいが、いつもと殆ど同じだ。決まって俺に満面の笑みで話しかけてきて大量のお菓子を有無も言わさず押しつける浮竹が…。
「やぁ日番谷!今日は凄いぞー!いつもの倍は用意した!」
……いつもと違ったか。ってか、どんだけ用意してんだ?!松本でさえ食べきれないんだぞ?!
「甘納豆を買ったんだ!雛森に聞いたよ、甘納豆が好きなんだってな」
「…あぁ、ありがとう…」
不覚にも俺は手を差し出してしまった。(好物なんだから…し、仕方ないだろっ)
その後、強引に隊首室に連れて行かれ他愛もない話をしていた。(一方的に浮竹が話しかけてきていた)が、不意に思い出したように言いだした。
「そういえば、聞いたか?」
「何だ?」
「次回の瀞霊廷通信の特集で、"もしも隊を移動しなければならなくなったとき、貴方はどこへ入隊する?!"ってのがあるらしい。男性死神の1位は四番隊。2位に十番隊だそうだ」
「…へぇ、」
「女性死神の1位も十番隊だ」
「っ……!」
思わずお茶を噴き出しそうになった。うちの隊がそんなに人気だったのか…?隊長が俺みたいな餓鬼だからそんなに人気はないと思っていたが…。
「嬉しいか、日番谷!!」
「え、あ、まぁ…」
俺の反応を見て、浮竹はうーんと唸った。何か変なこと言ったか?……とりあえず、
「…そろそろ隊舎に戻りたいんだが」
「えぇ?!もう戻るのか?」
「隊長、副隊長が不在じゃまずいだろ」
「…そっかそっか…残念だけど、」
心底残念そうにした浮竹を横目に、俺は十三番隊を後にした。いつも俺が戻ると言うと残念そうな表情をするが、今日みたいな反応は初めてだ。…本当に、今日は色々とおかしい。
「あ、ひっつーん!!!」
「……草鹿か」
後ろからドタドタと駆け寄ってきたのに思わず眉間の皺を深くした。…何か厄介事持ってきたわけじゃねーよな?
「これ、ひっつんにプレゼント!」
「俺に…?」
草鹿の手には透明な袋に入った金平糖。草鹿が好物の金平糖を人にあげる?しかもその相手が俺?…ほんと、意味わかんねぇ。
「………ちぇっ」
とりあえず受け取ると、草鹿は俺の顔をじーっとみて拗ねた表情をした。(ついでに舌打ちしやがった)声を掛けようとしたがすぐにその場を立ち去り、金平糖だけが俺の手の中に残っていた。……ってか、
「檜佐木はいつまでそこにいるんだ?」
後ろを振り向くと、檜佐木が"バレてましたか"と呟いて出ていた。(しかも、なんか持ってる)
「堂々と歩いていればいいだろう。…何か用か?」
「っあ、これ!」
「・・・何だ?」
檜佐木は一冊の本を俺に差し出した。
「現世で見つけたんすよ!何か面白そうだったから、日番谷体長にプレゼントっす!隊長って読書好きっすよね?」
「まぁ……よく知っていたな」
「雛森に聞いたンスよ!」
「そうか……さんきゅ」
礼を言うと、檜佐木はすぐに踵を返してその場を後にした。……一体何なんだ?いや、本を貰ったのは嬉しい。現世の物に少し興味があるからな。…だが、変だ。
「ここにいたのか、日番谷!」
「…悪い、何か用か?京楽」
隊舎に戻る途中に京楽と会った。俺が隊首室にいなかったからわざわざ探していたのか?…んなわけないか。
「日番谷のために買って来たんだよぉ〜?」
「俺に…?」
京楽は紙袋を俺に手渡した。それは結構有名な甘味処の物で。俺は素直に受け取った。(お、重い…とくに浮竹のが)
「あ、ありがとう……今日は何かあるのか?」
そう尋ねると、京楽は一瞬驚いた表情をしたが、すぐに元に戻った。…そんなに驚くことだったのか?
「…いや、何でもない。じゃぁね、七緒ちゃんに怒られちゃうから戻らないと」
「…あぁ」
軽く返事をすると、京楽は満足そうに自隊に戻って行った。…ほんと、今日はおかしすぎる。何があるんだ…?
「ま、松本ぉ―――――!!!!!!」
なんとなく、なんとなーく嫌な予感はしていたんだ。(深いため息をついてから叫んだ)
隊舎に戻ると、そこはお祭り騒ぎ…の手前、つまり宴会会場のようになっていた。…書類整理は終わらせていた。定時になったら自室に帰ってゆっくり休んでようかと思っていた。檜佐木に貰った本を読もうかとも思っていた。なのに……ったく、うちの副官はどーなってんだ?!
「あらヤダ。隊長早かったですね!」
「…お前、帰ったんじゃないのか?とゆーより、この隊舎は何だ!」
机は端に寄せられて、十番隊隊士が全員集まっていた。今日非番だった奴も……それに、他隊の隊長、副隊長まで集まっている。(さっき別れたはずの京楽まで普通にいたのには驚いた)
「どっからどー見たってパーティーじゃないですか!」
「………そりゃ、パーティーにしか見えないな」
「あれ、なんでそんな反応するんですかー?もっと喜んでくださいよ!隊長の誕生日パーティーですよ?」
「………そーいえば」
俺の反応に、一瞬…いや、暫く皆固まっていた。
「仕方ないだろう、いつもどっかの副官のせいで書類に追われて誕生日だなんて考える暇もなかったんだからな」
「う…」
「松本副隊長、こればっかりはフォローできません…」
「う゛…」
「…松本が考えてくれたんだろ、このパーティー」
「もちろん!このために頑張って書類整理して早退したんですよ!」
「普段からやってくれればそんなに頑張らなくても済むんだろうがな。………その、ありがと、な」
小さく呟いて礼を言うと、松本は満面の笑みを浮かべた。
「!!!!隊長、誕生日おめでとうございます!」
「「おめでとうございます、日番谷隊長!」」
「おめでとう、日番谷」
「シロちゃんおめでと!」
…何百年も生きてる俺等にとって、誕生日だなんてたいして意味を持たないと思っていた。…けど、こうして改めて"おめでとう"って祝ってもらうのは…何か、くすぐったいな。
「ありがとう、」
今度は心の底から、まっすぐ皆を見て言った。
隊員達からは湯呑みや新しい筆、花束などを貰った。…こんなに嬉しい誕生日は初めてだ。普段飲まない酒も今日くらいは、と思って少し飲んでいると、いつの間にか周りはどんちゃん騒ぎ。まぁ、結局はこうなるって分かってたから大して気にしていないが。(後片付けを考えるとため息が出た)
「あ…」
ふと外を見ると雪が降っていた。ハラハラと降ってくる雪は、光を反射してキラキラと光っていた。それを見て、俺は無意識に口角を上げていた。
いいねぇ、誕生日に初雪なんて。…と京楽が呟いて、俺は素直に頷いた。
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冬獅郎が雪を見て口角を上げた瞬間、何人かが口を大きく開けて、まるでム○クの叫びのような顔をしたのを当の本人は知らない。
(((雪に負けた…っ!!!)))
どうやら、乱菊発案で"今日の誕生日に、誰が隊長を笑わせられるか勝負しまショー!"というのを密かにやっていたらしい。因みに優勝者には豪華賞品付き。感謝の気持ちを述べられたのは嬉しかったが、冬獅郎は眉間の皺を減らしただけで微笑みはしなかった。だが、雪を見る冬獅郎は笑みを浮かべていて…乱菊は景品のあるものを懐から取り出していた。
「勝者は無し!よって、この"日番谷冬獅郎隠し撮り写真"は早い者勝ち!みんなどうぞ貰っちゃって!」
「「「え〜〜〜っ?!!!!」」」
乱菊はそう言って大量の写真をばら撒いた。…それは冬獅郎のもとにもヒラヒラと落ちてきて…
「松本ぉ―――――――――!!!!!!!!!」
本日二度目の怒鳴り声が十番隊隊舎に響いた。
(そこにあるのは、みんなの笑顔)
HAPPY BIRTHDAY ! シロちゃん!
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