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ねぇ、たくさんの
「ん?凛はどうしたんだ?いつもひっつてるのに」


「知らん」


「(こりゃ何かあったな、)ちょいと様子でも見てくっかな」


「そんな暇はない、これから新選組へ行く。雪村千鶴を迎えに、な」


「ちょっとだけだってーの」


不知火は、客間から出て凛の部屋へ向かった。開けるぜー、と言って返事も聞かずに襖を開けると、そこには昼にも関わらず寝たままの状態の凛がいた。


「おい、凛!」


「…煩い黙れ死ね禿げろ不知火私の名を呼ぶな死ね」


「(死ねって二度も言いやがった…)随分ご機嫌斜めじゃねーか。風間の旦那と何かあったんだろ?この俺が聞いてやるよ」


「よし今すぐそこに座れ望み通り切り刻んでくれる」


「おいおい、そう物騒なこと言うなよ。もうちょっと女らしさをって、ちょ、おい!」


凛はサッと抜刀し不知火めがけて振り降ろした。まさか本当に斬りかかってくるとは思っていなかった不知火は紙一重でそれを交わすと凛を軽く睨んだ。




「どうせ私には女らしさなんてないですよ!早く出てけっ」


「んな怒るなって。風間の旦那に何言われたんだ?」


「……その逆だよ。何も言われない」



「はあ?」


凛は大人しく鞘に刀を収めて膝を抱えて座りなおした。


「不知火も雨霧さんも私の名前をいつも呼んでくれる。だけど、千景様はあまり私の名前を呼ばない。最近呼ばれたのはいつかって考えたけど、思い出せなかった。だけど、雪村千鶴のことを、千景様は千鶴って呼んだ。…ムカつく」


「はーん、嫉妬か」


「鬼の誇りを持っていなくても、あの子はあの雪村の女鬼。千景様が欲しがるのは分かるけど…。私だって純血の女鬼なのに、見向きもしてくれない千景様にイラつくっ!どうして、私じゃ駄目なんだろ…」


「おおおおい、泣くなよ、な?お前に毎朝告白されてるあいつ見てっけど、満更でもなさそうだぜ?」


「…そう見える?」


「見える見える!ただ、風間の旦那が自分に鈍いだけなんだって!」


「……不知火の言葉、信じてあげる」


そう言って瞳に溜まった涙を拭うと、凛はありがとうと笑って不知火に礼を告げた。














「千景様、おはようございます!今日も大好「遅いぞ。早く準備しろ」……はい?」


「京へ下りる」


千景様の声が聞けることは嬉しいけど、内容は胸を痛めるものだった。きっと千景様は新選組へ…雪村千鶴を迎えに行くんだ。やっぱり、千景様に何言っても私の想いは伝わってくれないのだろうかと思って不知火を見ると、彼は大丈夫だとしか言わなかった。…全然、大丈夫じゃないよ。








「お前は雑用をやらされているのか」


「(千景様の屋敷では、私は普通に雑用やってるけど…)」




新選組へ着くと、どうやら大掃除中見たいだった。凄い埃っぽくて、思わず眉間に皺を寄せた。…なんか、彼女を見てるとイラつくから少し離れてよう。千景様に他の場所で暇つぶししてます、と告げてその場を去って、私はその場を離れた。




「あ、」


「っ白昼堂々、どういうつもり?」


「別に、戦いに来たわけじゃないし…ねえ、沖田総司」


「…何かな?」



私に戦う意志がないと分かったのか、刀から手を放した彼は警戒を怠らずに私を見た。


「こんなこと言うべきじゃないって分かってるんだけどさ………雪村千鶴を、絶対に手放さないで」


「え?」


「私は、千景様の為に雪村千鶴を連れて行かなければならない。だけど、それは私の意に反する。だから、千景様にあの子を奪われない様にして」


「君、何言ってるの?」


「…まあ、そのうち病死する貴方に行っても仕方のないことだろうけど」


「!!」


千景様の気配が遠のいた。あの子が攫われたら騒ぎになるはず。だけど、それがない…ということは、




「じゃあね、沖田総司」


彼女を、連れては帰らなかった。…なんで、














「今宵、新選組を襲撃する」


「…私も一緒に?」


「行かぬのか?」


「……行き、ます」


あれから暫く経ったある日、食事中に千景様が新選組への襲撃を宣言した。不知火と雨霧さんを呼んでいたのはそのためか、と納得した私は、またしても心の中に黒い嫉妬の塊が現れていた。



「千景様、つかぬことをお尋ねしますが…雪村千鶴を…その、妻として迎えるのですか?」


「あ奴等に千鶴は過ぎたものだ。鋼道もこちら側にいて、あれが新選組にいる理由はない」



千景様の口から発せられた言葉は遠まわしの肯定のようだった。行きたくない。だけど、千景様のためになら、私は……


「…お茶を持ってきます」


「ああ、」









「誰か、私を殺して…・」

そうしたら、千景様と雪村千鶴の婚姻を見届けなくて済むから。苦しまなくて済むから。だからお願い、誰か私を殺して。











「私が壊してもいいですか?」


「やけに乗り気だな」


「別に……早く屋敷へ帰りたいだけです。夜更しは美容の敵です」


「ほう。貴様もそんなことを気にするようになったか」


「男には一生分からないでしょうね」


西本願寺へ着くと、私は3人の前に立った。足を少し広げて構え、門を拳でぶち壊す。うわっっと呻き声が聞えたから、運悪く門の前にいた人が下敷きになったのだろう。




「人間って、ほんと脆いですね」


「今日も荒れてんなー」


「間違えて不知火のこと斬っても許してねー」


「…冗談に聞こえねえぜ」


「私はいつでも本気の女なんですよー」



そう言って嫌な気配を感じて前を見れば、白髪の男達。



「なんなんだ、こいつら」


「例の研究によって生み出されてようですな」


「あぁ、紛い物か」


「ちょっとは歯ごたえありそうじゃん」


「あ、おい!」

イライラ、イライラ。それをぶつけるように、私は踏み出した。




「急所を突けば脆い。やっぱ紛い物はこんなもんか」


紛い物を倒すと、駆けつける足音が聞えた。不知火が気にいった槍男とか土方って奴等だ。


「ここは任せた」


「任されました!」


元気よく返事をすると、いつものような呆れた笑みが返ってきて、何故か安心した。










「しぶといなぁっ!紛い物のくせに!」


「女でも鬼ならこれだけの力があるとは…貴方の血に興味が湧きますよ」


「気持ち悪いこと言わないで…あ、千景様!」


白髪のやたら強い紛い物と対峙していると、千景様が戻ってきた。肩に、彼女を担いで。ったく、沖田総司は何やってんだか。



「っどけ!」


「っ、」


刀鞘に戻して素手で相手の刀を掴んだ。ツキリと傷んだが、どうせすぐ治る。私の行動に油断した相手の腹を精一杯蹴りあげて距離を開けて千景様に駆け寄った。




「!…あんな紛い物ごときに傷を付けられるとは何事だ」


「もう塞がりましたし、傷付けられた訳ではありません。油断を誘ったのです」


私の袖の血を見て千景様は珍しく驚いた表情をした。むくれて私が反論すると、千景様は更に眉間の皺を濃くした。…なんで、そんな顔するんですか。


「それよりも、」


私は土方と言う男を見据えた。


「お前は下がっていろ」


「…はいはい」



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あきゅろす。
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