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悔しくて悲しくて。

「千景様は、いつからあの子が鬼だと気付いたんですか?」


「お前も気付いたのか」


「最初は分からなかったんですけど…腕の傷がすぐに治ったんで確信しました。…どうなさるんです?あの子、自分が鬼って気付いてなさそうですけど…」


「しばらく様子を見る」


「様子見、ですか…。こっちに連れてきたらどうするんですか?」


私がそう問うと、千景様は何も答えずに自室に入ってしまった。



「あ、千景さまあー」


襖を閉められたら、もう諦めるしかなかった。千景様の邪魔をしたくはないしね。はあ、と深いため息をついて、私も自室へ入って行った。…千景様、あの子を連れてきたらどうするんだろう。女鬼は貴重だ。しかも、純血なら尚更。もし、あの子も純血の女鬼で有名な一族の子だったら…千景様は、あの子をお嫁さんにするのかな。私は一応純血だけど、有名でも何でもないから…はぁ、














「最近、新選組と絡んでばかりですね。出しゃばらずに京の見回りだけしてれば、私達に殺られなくて済むのに」


「そう言ってくれるな。なかなか骨のある奴がいるやもしれん。暇つぶしにはなるだろう」


「…私の暇は潰れません。人間と戯れるなど、時間の無駄です」


私がそう言って不貞腐れると、千景様は私の頭に手を置いて私を宥めた。…くやしいけど、嬉しい。



私達は今、二条城の城壁の上にいる。目的は、あの女の子。さっきからじっと見ているけど、彼女は反応しない。鈍いなあ、なんて思って、ちょっとだけ殺気を向けると、彼女が足を止めてキョロキョロ辺りを見回した。




「貴方達は…っ」


「殺気に気付いたか。さほど鈍いと言う訳でもなさそうだな」


「な、何でここに…どうやって?」


彼女は信じられないのだろう。私達が奴等の施した仕掛けに引っ掛からなかったから。…ほんと、鬼なの?


「あ?俺ら鬼の一族には人が作る障害なんざ意味を成さねえんだよ」


「鬼?か、からかってるんですか?!」


「鬼を知らぬ?本気でそんなことを言っているのか、我が同胞ともあろう者が…雪村千鶴」


「っ…どうして私の名前を」



……なんか、千景様と女の子を見ていて胸がムカムカしてきた。その気持ちの名前を私は知っている。嫉妬ってやつだ。千景様は彼女を連れて行こうと彼女の前に立って手を差し伸べた。まるで、昔の私を見ているようで胸が苦しくなった。
届かない恋心。伝わっても、答えてくれないと分かっている。片思いが酷くもどかしい。千景様は、私を拾った時と同じことを言った。女鬼は貴重だ…共に来い、と。私はあの時、勘違いをしていた。私を必要としてくれている方がいたと。必要だったのは、私じゃなくて桜井と言う姓をもつ純血の女鬼だったのに。……ああ、いやだいやだ。こんなこと考えても仕方のないことなのに。

東の雪村と言ったら、西の風間と同じくらい力のある鬼だ。しかも純血の女鬼……千景様は、きっと彼女をお嫁にするだろう。私は、きっとどこかに嫁がされる。…無性に泣きたくなった。
こんなんじゃ興にのれもしない。私は傍観を決め込んだ。不知火と槍を持った新選組、雨霧さんと無表情な新選組、千景様と土方と言う男。雪村千鶴は、忍びのような男に庇われていた。




「てめぇらは、何だってこんなガキに用がある!」


「千鶴はお前達に過ぎたものだ。だから我らが連れ帰る」



本当に、泣きたくなった。千景様は私の名をあまり呼ばない。最期に呼ばれたのはいつだろうか。いつも傍にいるからか、おい、とかお前とかしか呼ばれてないきがする。…人間なんかに庇われて、千鶴と千景様に呼ばれ欲せられる彼女が、酷く恨めしかった。



「千景様、雨霧さん、不知火!」


大勢の足音が聞えて、私はみんなの動きを止めた。何だ何だと私を睨む不知火に、やってきた新選組達に目配せすると、彼はため息をついて弾丸を相手めがけて打った。


「確認できたんだから、もう帰ろう。興が乗っても…すぐに冷める相手だし」


そう言って傍観していた私を睨む彼等に視線を向けて鼻で笑うと、それもそうだな、と不知火が同意した。なにより、私が早く帰りたいんだ。彼女を見ていると、自分がみじめで仕方ないから。


「いずれ迎えに行く。待っていろ、雪村千鶴」




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あきゅろす。
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