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嬉しくて温かくて
風間千景様は、西の頭領であり、なによりも鬼であることを誇りに思っていることで有名だが、人間嫌いという事でも有名であった。そんな高貴なるお方の小姓…付き人である私は、まあ、純血の鬼なんだよね。だけど、人間に襲われて桜井の姓を名乗る鬼は私以外みんないなくなってしまった。今まで一緒にいるのが当たり前だったみんながいなくなって途方に暮れていた時、千景様が私を拾ってくれたのだ。それ以来、私は千景様のために一生を捧げようと誓った。…大人になるにつれ、反抗期になったのか、千景様がムカついて仕方ないけど。






「池田屋、ですか…」


「一緒に来るか?」


「私が行ってもよろしいのですか?」


「会合の偵察だけだ。すぐに帰るだろうが…」


「行きます行きます!私、京に行くなんて久々過ぎて楽しみです!」


「…遊びじゃないんだがな」


呆れる千景様を横目に、私は懐かしい京を思い出していた。一番最初に行ったのは、千景様と。あの時の私は人間が嫌いで嫌いで、大嫌いで、誰彼構わず殺したい衝動に駆られていた。だけど、千景様が手を握ってくれた時は、そんなのどうでもよく思えて、ただ千景様と一緒にいることに喜びを感じていた。





「あ、千景様!」


「何だ。くだらないこと言ったら斬るぞ」


「おはようございます。今日も大好きで「斬る」きゃ―――っ!!」


「逃げ足の速い奴め」


私は、一目見た時から千景様に惚れていた。金糸の髪と燃えるような紅い瞳に恋焦がれた。だから私は、朝一番に挨拶した後に気持ちを伝えていた。どうしても、届いて欲しかったから。…届いても、答えはないのだろうけど。





「心の底から、お慕い申しております……」


自室に戻ってもう一度口にすると、何故だか泣きたくなった。













「私がやりましょうか?」


「いや、いい。お前は座って見ていろ」


そう言った瞬間、新撰組隊士が部屋に入ってきた。
池田屋に着いてしばらく…二刻ほどすると、新選組が御用改めと称して乗り込んできた。仕事を終えた私達は屋敷に戻ろうとしたのだけれど、2人の人間が乗り込んできた。1人は雨霧さんが相手をし、もう1人は私達の目の前で刀を構えていた。千景様に仇なすものは私が排除する。そう思って私がやろうとしたのだけど、千景様がそれを制してにやりと笑っていた。最近、歯ごたえのない雑魚ばかり相手にしていたせいか、千景様の興がのってしまったようだ。




「分かりました。しかし、万が一…いや、億が一千景様が怪我をするようなことがあれば、手出し致します」


「人間ごときにこの俺がやられるなど生涯ないわ」


それを聞き届けると、私は窓枠に腰を掛けた。暇だから、目の前の相手について分かっていることを考えていた。
千景様に喧嘩を吹っ掛けた男の名は、沖田総司。新選組一番組組長。三段突きをする時、太刀先が下がり気味だから簡単に軌道を読める。…なんか、息が荒い。組長ともあろう者がこれくらいのことで息を乱すとは…おそらく、何か病を患っているのだろう。あ、吐血した。あれ絶対内臓と肺イかれた。ってゆーか、




「ムカつくムカつくムカつくムカつくムカつく!千景様の髪を…っ」


遊び過ぎた千景様の髪を一束、沖田総司の刃先がかすめた。髪はハラハラと落ちていった。千景様の綺麗でサラサラの髪をよくも…!と思って、思わず手を出しそうになった。だけど、千景様がせっかく興にのっているのに邪魔をしては迷惑だと考え直して身を制した。
少しすると、誰かがこちらに向かってくる気配がした。やっと私の出番か!と思って立ち上がると、現れたのは………女の子にしか見えない男の子。否、男装したであろう女の子が息を切らして立っていた。そして、余裕な千景様と、息を切らした所謂絶対絶命という状況の沖田総司を見て瞳を恐怖で染めた。




「この程度の腕か」


彼女が沖田さん!と叫んだことに一瞬沖田総司から目を放した千景様は、不意打ちした彼を簡単に避けて柄頭で彼の胸を強打した。あれですか。千景様って鬼畜ですか。さっきも思いっきり蹴ったし、結構痛めつけるの楽しんでるんじゃないんですか。


沖田さん、と言って彼に駆け寄る彼女は、浅葱色の羽織を着ていなかった。



「お前もそ奴の仲間か。邪魔立てする気ならお前も斬る」


千景様がそう言った瞬間、くたばってた沖田総司が彼女を庇うように立ち上がった。


「あんたの相手は僕だよね。この子に手を出さないでくれるかな」

かっこいい感じだけど、所詮人間。血まみれの彼に、最早千景様を相手に出来るわけないだろうに。…ほんと、人間って馬鹿ばっか。




「愚かな。そんな様では最早盾の役にも立つまい」


「僕は…役立たずなんかじゃない!」



威勢だけはいい。千景様に刃向かおうとする彼は、後から来た女の子に止められた。興ざめ、だな。



「千景様、そんなボロボロな奴相手にしても時間の無駄ですよ」


「……そうだな。こいつらが踏み込んできた時点で俺の役目は終わっていた」


千景様はそう言って刀を鞘に戻し窓から飛び降りた。それに続いて私も飛び降りた。最後に見た沖田総司は、悔しさでいっぱいの表情をしていて、なんだか可哀相に思えた。



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