12
「松本の奴……(減給を通り越してタダ働きだ!!」
乱菊のサボり癖のせいで残業の冬獅郎。漸く終わったと思えば、もう日付は変わろうとしていた。ずっと座っていて固まってしまった体をほぐそうと背伸びをして唸った。
「……宴、ねぇ…(こんな静かにか?ありえねぇ)」
不審を抱きつつ、冬獅郎は消灯を済ませて屋根に上った。
(不審なんてもんじゃねぇ、異様だ、異様!!)
「……俺は、夢でも見てるのか…?」
ポツリと、呟いた。
「ははっ……夢じゃないよ、冬獅郎」
遅くなったと言いながら屋根に上って来た冬獅郎は、私の姿を見て固まった。そして、ポツリと呟いたかと思えば私に瞬歩で近付いてきた。
「…………、」
(言葉が、出ないなんて)
「と…しろ…?」
両手を広げてニコッと笑うと、一瞬にして温もりに包まれた私。…ずっと、望んでいた、温もり。
「、凛…凛、凛…っ凛!!」
(存在を確認するように、何度も名を呼んだ)
「…ただいま、冬獅郎」
「お、遅いんだよ…っ!!!」
ぎゅーっと、痛いくらい抱きしめられて、背中が彼の涙で濡れた。(気のせいなわけない)
俺は、大馬鹿だ。こんなに愛しい人に甘えて、傷付けて。それでも凛は、俺を受け入れてくれた。背中に回された腕が、とてつもなく嬉しい。
「冬獅郎、このままで聞いて…?」
「・・・あぁ、」
「私ね、ずっと前から目を覚ましてたの」
「……っ?!」
ずっと…前から?
「冬獅郎の顔を見たかったけどね、あの時の…冬獅郎が、雛森副隊長に向けた笑顔が頭から離れなくて…怖くて、ずっと騙してたの…っ」
怖かった…?
「すごい卑怯だけど…っ無神経だけど…っ!ごめんなさい、ごめん、なさい…っ」
「………」
(また、言葉が出ない)
(言葉んて、無力なんだ)
「けど、毎日冬獅郎が私に話しかけてくれて…手、握ってくれて…それで、嬉しくて…っ(もの凄い、愛を感じて)」
「……松本は知っていたのか?」
「…1週間前、偶然…。卯ノ花隊長にも黙って貰うようにいってたの…」
「そう、か…」
「本当にごめ「もういい…っ!!」…っ」
もういい……もういいんだ、凛。
「もう謝んなくていいから…俺が悪かっただから…凛の気持ちに気付くのが遅かった俺が、悪いんだ…だからもう、いい…」
(そんな言葉より、欲しいものはある)
「……す、き…っ!」
「……俺も…好きだ」
「っ!(やっと、言ってくれた…っ)」
「いや……愛してる、凛」
「とーしろ…っ!!!」
(涙が詰まって言葉がでない)
(言葉は、無力だ)
愛してる……そう言うように、凛はさらに強く、俺を抱き締めた。
(痛みが、愛の証)
(もう二度と、この温もりを離さない)
(満月が、2人を祝福するように照らした)
(満月が、離れた2人の影を1つにした)
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