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「十番隊三席が拉致されたと言うのは本当か」


…信じたく、なかった。


雛森が目を覚ました。俺が弱かったから…あの時、藍染に傷ひとつ付けられなかった、俺の不甲斐なさ…負い目を持っていた。俺がもっと早く気付いていれば…雛森は傷付かなくて済んだのに。俺のせいでこんなに傷付いて…だから、目を覚ました時はかっこ悪いけど、泣きそうなくらい嬉しかった。

なのに、入れ替わるようにアイツは、俺の彼女は…凛は、姿を消した。1匹の、初めて見る地獄蝶を残して。

その地獄蝶は言っていた。捕まえたと、何度も繰り返していた。そして、


"これは見せしめだ。我々に抵抗するのなら、戦力となる死神は我々の仲間にする"


確かに、それは藍染の声だった。総隊長に報告すると、緊急の隊首会。



「先ほど、桜井の自室で地獄蝶を発見した。…あれは確かに藍染の声で…」



「ほう…。彼奴等に近付けば近付くほど、こちらの戦力は奪われていくとな…?」


総隊長は杖をトン、とついた。



「…それは困るの…。だが、な」



「簡単に捕まる者が、我々の戦力になるとは思わぬ」


頭が、真っ白になった。あいつは出来た奴だ。仕事も素早くこなすし、松本の仕事も普通に手伝っている。事務作業に関しては松本より上に思える。そんな奴が戦力外…?



「それより、今大切なのは瀞霊廷内の立て直しじゃ。負傷者も大勢いる。崩壊した隊舎もある。それをどうにかしないと…のぉ、」


「ジイさん、ちゃんとした態勢を整えるのも大切だげと、桜井ちゃんも大切なんじゃない?彼女は結構やるよぉ〜?桜井ちゃん奪還を希望だな、」


「奪還するのに何人の死神を派遣することになるのか分かるかのぉ?そ奴等が無傷で帰ってこれるのなら別だが…奴等に敵うのは隊長格。今は3人も隊長が抜けて大変なのじゃ。隊員の中には瀞霊廷に不審を持つ者もおる。隊長のいない隊は、内乱を起こす可能性もある」


「桜井ちゃんを見捨てるのかい?それじゃぁ彼も納得できないんじゃないの?」


京楽は、そう言って俺を見た。反対の意を述べない俺に疑問を抱いてるのだろうか。


「京「戦いに犠牲はつきものじゃ。それに……抵抗した形跡は見られぬ。最悪、裏切りという事も考えぬとのぉ。…おっと、時間じゃ。これにて解散!!!」…っ」


俺の言葉は、総隊長に遮られた。……裏切りだと?…そんなこと、ありえないだろ。

色々不満はあったが、ここに長居する理由はない。きっと総隊長はいくら俺が反対しても、命令と言って言いくるめる。無意味だ。そう思って、一番隊を睨みつけてから隊舎に戻った。





「…で、何でここにいるんだ、京楽。そして何故松本は呑気に煎餅なんて食ってられるんだ?お前の目は飾りか?お前の机の上にある山積みになった書類は見えないのか?」


「(もの凄く機嫌悪い…)い、今からやりますよ〜っ」


「(相当きてるな…)いやぁ〜ねぇ?ちょっと休憩がてらに来ただけだよ〜?」


「…伊勢が泣いて…いや、怒ってるぞ」


「ん〜それは困るなぁ」


「だったら戻れ。…京楽、」


頼むから、帰ってくれ。…あの時、凛の奪還を提案してくれたことには感謝している。だが……悪い、1人になりたいんだ。


「……分かったよ。乱菊ちゃん、一緒に来ないかい?いい酒があるんだけど…」


「(隊長を1人にさせていいのかしら…)…行きます行きますぅ♪てことで、隊長!休憩に行ってきまーす!」



松本にも気を遣わせたか…

2人の去った執務室は、もの凄く静かだった。

そういえば…凛は、よくソファの上で跳ねてたな。そん時は必ず俺に構って欲しい時で………



「いつから、だ…?」



いつからか、そんなことしなくなった。ずっと書類に目を向けていて………そうだ。


反乱の後、一度もない。五番隊と十一番隊の書類を預かって、書類で埋もれた俺の机の上から黙々と書類を持ち出して……机に噛り付きで、休憩しているのも殆ど見なくなった。

俺が休憩と言って雛森の病室に向かうとき……アイツは、いつも何か言いたげな表情で、ただ"いってらっしゃい"と言っていた。


俺に、何かして欲しいと言わなくなった。甘味処に行こうとも、デートに行きたいだとも、泊まりに行きたいだとも…。思えば、たくさん我慢させていた。俺が雛森に付きっきりでも何も言わなかったアイツ。そんな凛に、俺は甘えていたんだ。………俺は、どうしたらいいんだ?



「――――――馬鹿みたい、だな」



今になって、気付くなんて。
凛の笑顔を見なくなったのは…本当の笑顔を見なくなったのはいつからだ?無理して笑って、でも、俺は何も言わないで凛の優しさに甘えて。アイツはずっと俺を心配していたのに、俺は雛森を看続けた。


「…っごめん、凛…」



謝るから、お前を気にかけていなかったことを…甘えていたことを反省するから、だから…



「戻ってきてくれ……っ」
(せめて、無事でいて)
(絶対に迎えに行くから)
(必ず、)



「どーしようもないくらい、好きなんだよ…っ」
(それ以上に、愛してるから)
(だから、俺は……)






静かに、部屋を出た。



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あきゅろす。
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