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「冬獅郎、たまには…2人でゆっくりしない?あ、そうだ、昼食食べに行こう?」
「悪い、凛。…出来るだけ、あいつのそばにいてやりたいんだ。唯一の家族だからな」
勇気を出して言った台詞は、即座に否定された。
「え、隊長ってそんなに馬鹿でしたっけ?」
「サラッと自分の上司を貶しちゃまずいですよ、乱菊さん」
「一発殴ったら正気に戻るかな?あ、その前にぺちゃんこに小さくなっちゃうか」
「そ、それ以上言わない方が…(気付いて下さい、お願いですからっ!)」
「ビンタしたら、顔がちょっと縦長になって1ミリくらい身長伸びるかな?」
「ら、らん「ほーう。それは誰のことを言っているのか、松本」…(あぁ、どうしよう)」
「げ、た、隊長…;」
「なぜ俺の顔を見て驚く。理由を言え」
「あ、えっと、それは…」
冬獅郎が、雛森副隊長の元へ行ってから10分後、乱菊さんは思いついたように立ちあがった。何かと思えば、私に今度冬獅郎をデートに誘えだなんて言いだした。疲れてるんだし、書類も山積みだから無理だろうと思って断わったけど、乱菊さんは勇気を持ってと言って強制的に私に言わせようとした。(言わなかったら書類の山に墨ぶっかけるだなんて物騒なこと言った)だから、冬獅郎が戻って来てから言ってみた。もちろん、乱菊さんは面白がって給湯室から覗き見していた。…まぁ、そんな感じで勇気を持って言った私。見事に玉砕した。あまりの即答に唖然とした私に気付かず、冬獅郎は五番隊から書類を取りに行ってくると言ってすぐに執務室を出て行った。そして、乱菊さんがけろっとした顔で恐ろしいことを言い始めた。(冬獅郎に小さいは禁句なのに)
急いで書類を整理しなければいけないくらい大変なのだろう。冬獅郎は思ったよりも早く戻ってきた。両手に五番隊の書類を持って。扉に背を向けていて、冬獅郎に気付かない乱菊さんは口を滑らせまくった。そして今、冬獅郎の冷気に当てられている。
「と、冬獅郎がいけないんだよ?」
「凛…?」
「(わ、私をかばってくれたの?!んもーっ大好き!!)」
「冬獅郎が目の下にクマ出来たまま仕事するから…。いっそのこと、殴って気絶させて無理矢理眠らせようと…っだから、怒らないで?」
「……心配掛けてすまない。だが、今動ける隊長は少ないんだ。だから俺がやらないと…」
「冬獅郎が過労で倒れたら、もっと少なくなっちゃうよ?」
「分かってる。でも…――――悪いな、いろいろと」
「・・・っ、」
冬獅郎が、ふわっと…困ったように笑って、席に座って手を動かし始めた。もう、仕事に集中している冬獅郎。…全然、分かってないよ。
「乱菊さん、お昼まだでしたよね?一緒に食べに行きましょう?」
「え?えぇ…」
臆病な私。何故か冬獅郎を見たくなくて、執務室を早々に出て行った。
今の冬獅郎は、果てしなく遠い存在だ。
(唯一の家族って、)
(おばあちゃん、いるんだよね?)
(そんなの、理由になってないよ)
(いい訳より、嘘ついてよ)
(私が完璧に騙されるような嘘を)
空は、晴れ。
私の頬は、濡れていた。
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