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部活動事情 後篇



「あれ?」


教室に凛の姿がなかった。トイレにでも行ったのかな、って思ったけど……鞄がない。机の上に広げられた宿題は終わっていた。物凄い急いだのか、字が汚いけど。まさか忘れ物でもしたのかな?…だけど、凛にかぎってそれはないだろう。あいつは真面目だからね。




朝から変な2人に絡まれてイライラしたから、凛に癒してもらおうと思ったのに。なのに、凛は全然来てくれない。一緒に来た竜崎がチラチラこっち見てきて更にイライラは増すばかり。足音が聞える度に期待して、別人だったらがっかりして。あれ、朝ってこんなに長いっけ?って心の底から疑問を抱くくらい待ち遠しかった。



いつも一緒にいるわけじゃない。部活も委員会も違う。お互い別の友達もいるし、家の事情もある。だからこそ、こういう時は一緒にいたい。
朝早いのは辛いけど、凛と2人きりの時間が出来ると思えば苦にならない。だけど、会えるって思ってたのに会えないのは、しんどい。




「凛欠乏症だー…」



独り言なんて、らしくない。



















「…イラついてきた。馬鹿みたいに真面目な性格、変わらないかな…」



私が今いるのは音楽準備室。何が悲しくてこんな所にいなくちゃいけないんだ。…全部、あの子のせいだ。

リョーマ君と私のお弁当をとりに帰って戻ってきた時。お弁当の入った袋を抱えて上履きに履き替えてたら、目の前を小坂田さんが通り過ぎようとしていた。駐輪場に着いた時にチャイムが鳴っちゃったから、生徒は周りに私と小坂田さん以外いない。ただ通り過ぎるだけならよかった。だけど…。先生に捕まってしまったのか、大量の荷物を持ってフラフラ歩いていた。所謂雑用ってやつ。可哀相、だなんて思った私、思わず声を掛けてしまった。

小坂田さんは私を見ると大量の荷物を私に押し付けて去ってしまった。話す間もないくらいの素早さで、暫くぼーっと突っ立っちゃったくらい。仕方なくお弁当の中身がぐしゃぐしゃにならないよう気を付けて荷物を運んだ。因みに、荷物ってのは大量の楽譜と紙袋2つ。中身が気になるくらい重かった紙袋は、次の授業で使うのかなー?なんて呑気に考えていた。


階段をふらつきながら上って、休んで、上ってを繰り返して漸く辿りついた音楽準備室。長い間使っていないみたいで、埃っぽい部屋。荷物を置いて一息つくと、カチャリと嫌な音がした。それと同時に誰かが走り去っていく音。理解したくないけど、思いっきり慌てた。



まさか、鍵を閉められるだなんて思ってもみなかった。



あの時、ふらつく小坂田さんを見て見ぬフリでもすればよかったのに。可哀相だなんて思って、馬鹿みたいに声かけて、荷物押し付けられて。私の良心、あの時に消えてればよかったのに。



「またまた王子様登場ー、みたいにならないかな」


先生が来たら嬉しいけど気まずいな。だからリョーマ君、私をみつけて。



















「遅い」


「ん?越前なんか言ったか?」


「…別に」



1時間目が始まった。凛はまだ来ない。HRが終わってすぐ、下駄箱を確認しに行ったら凛の上履きがなかった。ってことは、学校内にはいるってわけで…。具合悪くなって保健室にでも行ったのかとも思って行ってみたけど凛はそこにもいなかった。電話しても出ないし、一体どこにいるんだよ。











「越前ー、なんか探してんのか?」



休み時間になると、俺は教室からすぐに出て行った。廊下をキョロキョロしながら歩いていたら、桃先輩が駆け寄ってきた。なんか、犬みたい。



「いや……ねぇ、桃先輩。凛見ませんでした?」


「え、凛ちゃん?見てねーけど…」


「そっすっか…。靴があるのに教室にいないんすよね。朝早くきたくせに。どっかでサボってるのかもしれないけど…桃先輩移動教室でしょ?途中の空き教室、ちょっと見てくれません?」


「おう、いーぜ!」


桃先輩はそう言って一緒にいた人と歩きだした。それを見届けると、俺は教室へは戻らずに屋上へ向かった。…もしかしたら、いるかもしれないしね。













「おい桃!お前俺の前で普通に話するなよな!なんだあの綻んだ笑みは?!何故お前にあの癒されるネコみたいな越前リョーマが微笑んでるんだ畜生コノヤロウ俺と変われやああああ!!!!」



「当然だろ?部内じゃ越前と一番仲良いやつは俺だしな!それより、俺次の授業サボる!」


「は?」


「あいつ、言ってたろ?凛ちゃんがいねーんなんて、一大事だ!部員全員に連絡して探さなきゃ!」


「…お前、いいな。俺も入りてーよ」


「いや無理だろ。お前には越前と凛ちゃんへの愛が足りねえ!」


「がーん!!!!」



って、コントしてる場合じゃないんだ!とりあえず乾先輩に連絡して、会議室に集まって…


「じゃーな!」


「おう、いっぱい萌えてこいやー」



あの2人に萌えを求めてるんじゃ、まだまだ部員には程遠いな!














「凛ちゃんがいないって本当か?!」


「僕には見える…越前の心の痛みが、手に取るように分かってしまう…っ!」


「ベイビィー俺についてこい!草の間まで探そうぜぃ!」


「俺の手にかかればすぐに見つけられる。なぜなら俺は先日、校内の全教室体育館に監視カメラを設置し終えたのだ!待ってろ越前!俺がすぐに彼女の居場所を…!」


異様な空気を放つ部屋、視聴覚室。ここは"越前リョーマと凛ちゃんを見守る部"、残念ながら部員になれなかった人達は"BD"と呼ぶ部活だ。集まったのはテニス部レギュラー陣+乾。乾は知将として特別に部員になっている。若干理解し難い台詞を吐いている人もいるが、彼等はいたって正気。ただ、リョーマと凛を溺愛しているだけなのだ。



「見つけたぞ!場所は音楽準備室だ」


「ここの真上だにゃっ!」


「越前に今メールを送った。越前ならすぐに到着するだろう」


「何であんな所にいるのかな?あそこは普段誰も立ち入らないし…」


「今調べている。今朝凛ちゃんは早く登校したらしいな、桃」


「そーっす!朝早く来たって越前が言ってました」


視聴覚室にある画面に、今朝の昇降口の映像が映し出された。チャイムが鳴っても凛の姿は見えない。じーっと顔が画面に食い込むんじゃないかというくらい近付ける彼等。




「あ!!!」



暫くすると、両手で大事そうにピンクの紙袋を持った凛が映った。そして、大量の荷物を抱える朋香。朋香が凛に荷物を押しつけるのをしっかりと見た彼等は、顎が外れるくらい口を開けて驚いていた。



「な、な、な、な…っ!」


「オラオラなんだこのクソガキはー?!」


「凛ちゃんに荷物を押しつけるなんて、いい度胸してるね」


「彼女の優しさを利用したな…っ!」


「無理矢理押し付けられたのにちゃんと荷物を持っていくなんて…」


「なんていい子なんだろうっ!!」



「もしかして、こいつが凛ちゃんを準備室に閉じ込めたの?!」


「…いや、違うようだ。こっちの画面を見てくれ」



乾はノートパソコンの画面をみんなに見せた。そこには、準備室の鍵を閉めて立ち去る人影。顔は映っていなかったが、あの特徴的な長い三つ編みはこの学園内に1人しかいない。



「あっはっはっはー、こいつ、何やっちゃってんの?」


「許せねーなぁ、許せねーよ」


「こんなこと出来るなんて、ある意味才能だよね」


「温厚な俺達を怒らせる才能?」


「僕達の出番を増やせる才能、だよ」



魔王が降臨した瞬間だった。


















「凛っ?!」


合い鍵はいつでも持ち歩いていた。屋上の鍵も、空き教室の鍵も全部乾先輩がくれた物だ。それを使って準備室の鍵を開けて叫んだ。


「あ、リョーマ君!」


そしたら、すごい気の抜ける声で名前を呼ばれた。へたり。そんな効果音がぴったりなくらいの動作で、俺は床に座り込んだ。埃っぽいけど、そんなの気に出来ないくらい安心したんだ。
前から知っていた。俺と凛が付き合ってるのをよく思ってない人がいるって。小坂田や竜崎はもちろん、その他にも俺と凛と目が合うと嫌そうに眉間に皺を寄せる人がいた。だから、もしかしたらそーゆー奴らが凛を………そう考えたら、死ぬかと思ったんだ。心配で心配で。なのに、目の前の凛は呑気にピアノを弾いていた。準備室まで防音完備なのには驚きだ。



「やっぱり来てくれた!」


ポーン、と音を鳴らす凛。どこか楽しげなのは、何故?



「私が助けてほしいって思った時には、必ずリョーマ君が一番に来てくれるんだよ?」


だから、閉じ込められても怖くなかったよ。

そう言って微笑む凛を見たら、どうしようもないくらい嬉しくて。








「待たせてごめんね?」


両手を広げてそう言うと、凛は俺の胸に飛び込んできた。……俺って、すごい幸せ者だな。





















「おい、聞いたか?BDがまた動いたらしいぞ!」


「そう言えば、退学した生徒がいたって聞いたぜー?」


「本当か?!滅多に気付かれないようにしてるのに」


「今回の相手は相当BDを怒らせたみたいよ?」


「馬鹿な奴だなぁ。BDが本気になったら革命が起きるって言われてるのによ」


「ほんとほんとー。噂じゃ顧問は校長っていうしね!」


「え、それってガセネタじゃないのー?」


「うーん…真相はBDしか分からないわよね」


「それにしても…」





「「可愛過ぎるよこの2人!!」」


生徒が見ているのは"BD通信"という、発行部数が僅か10部の新聞だ。部員漏れした人達の為に、乾が特別に作った新聞。それには2ショットの写真や(盗撮)、真剣な表情で授業を受ける凛の写真(盗撮)、汗を拭うリョーマの写真(盗撮)やらが数枚と、2人の微笑ましさについて熱く語った内容が書かれていた。ストーカーに近いが、最後のひとコマに"この前くれた写真どうもありがとうございます。私とリョーマ君の部屋に飾らせてもらってます!"という凛からのコメントがあり、ストーカー扱いではないのだろう。部の存在も新聞も盗撮も、リョーマと凛の公認なのだ。




「よし、いっぱい萌えたことですし…」



「今日も写真を撮りまくりましょうか!」




「「おー!!」」


彼等は"越前リョーマと桜井凛カップルを崇めよう同好会"メンバー。部員へと昇格するために2人の写真を集めて乾に提供するのだった。








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漸く終わりました…っ!
まとまりない感じで申し訳ないです。

準備室で抱き合った後はご想像にお任せします←

桜乃と朋香は同好会の人が言ったように退学します。BD全員に囲まれて、笑顔で退学届を手渡されました(笑)。しかも、フルぼっこにされた後に←

※"BD"はボディーガードの略です!あからさまに言うと、その部の存在を知らない人達に怪しまれるのでそう呼んでいるのです(笑)

管理人は思考がズレた人間なので、真面目な主人公が書けませんでしたorz
短編のくせに、3ヵ月くらいかけてしまい…
3ヵ月もかけたくせに、最後はぐだぐだ…

リクエストしてくださったアクア様、大変お待たせしました!

















■おまけ■



「ラスト1枚はなんと昼食中!越前が凛ちゃんに"あーん"をしてあげてるレアモノだ!レア度99%の為1000円スタート!」



「何?!あの越前が?!」



「欲しい!1500円!」



「私2000円出せるわ!」



「超絶萌えるわ!2500円!」



「畜生!俺の全財産3465円でどうだ!!」







「ふおっふおっふおっ……私が1万で買いましょうか!」




「「「(校長大人げねえな!!!)」」」





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リョーマと彼女の写真が競売(笑)


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あきゅろす。
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