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positive thinking
リョーマ彼女
切甘
桜乃・朋ちゃん悪役
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「じゃぁ、よろしくね〜!」

「…分かった!」


なーにが"よろしくね〜!"だ!小坂田さんの金魚のフンのくせに!…って心の中で叫んでる私、チキンです。こうみえて、リョーマと付き合ってるんですよ!チキンの私でも、リョーマの彼女になれるんですよ!………って、誰に訴えてるんだろうね。
放課後みんなが掃除へ向かう中、ほうきと雑巾を両手に持たされて教室に1人でいる私、寂しいっ!なんでこんなことになってるかって?そりゃ、陰険ないじめのせいだよ!
1組の人は、みんな桜乃ちゃんがリョーマのこと好きだって知っていた。ってゆーか、桜乃ちゃんの態度見て分かんないのなんてリョーマくらいだよ。…だけど、私はリョーマと付き合っている。それが気にくわないみたい。だから、私が何されようが1組の人は何も言わない。つまり、桜乃ちゃんのいいなりってわけ。
私は口悪いし、普段の生活態度も悪い。だけど生まれながら記憶力のいい私は、テストの点数はいつもいい。だから先生も強く言えないから好き勝手やっちゃってるわけ。そんな私より、勉強も部活も頑張ってる桜乃ちゃんのほうがリョーマに相応しいって1組の人達は思ってるみたい。
ってなわけで、私がリョーマと付き合い始めてからずっと続く陰険ないじめ。もちろん、1組以外の人は知らないっていう徹底的ぶり。もう、大人しくしてるしかないよね。最初は反抗したよ?だって、私がいじめられる理由に納得いかないもん。だけど、よく考えてみよう。つい最近まで"お前のかーちゃんでべそ!"みたいなのを言ってるようながきんちょだったんだよ。クラスみんなに囲まれちゃったら…………チキンですから!






「あーもう、バカだよねぇ」

先生にチクっちゃえばいいのに。リョーマに言っちゃえばいいのに。それなのに大人しくしてる私、決してマゾなわけじゃありません。だってさー……必死にリョーマにアピってる桜乃ちゃんを見たらさ?リョーマは話聞いてるか分からないくらいぼーっとして、私を見つけたら桜乃ちゃん放って私に駆け寄ってきて。まるで見せつける様にリョーマが私に抱きついてくるし?その時の桜乃ちゃんを見たら…。


「よし、掃除おーわり!」


今日もピカピカだぜ!私、将来清掃員になれちゃうんじゃね?……あ、忘れてた。

「…清掃員じゃなくて配達員?」

教卓の上に積み重ねられたノート。今日提出のものだ。因みにクラス全員分ある。…確実に重い。だけど、2回に分けて先生に届けに行くなんて面倒だし不審だ。…仕方ない。

「よっと……重っ」

荷物を届けたらそのまま帰ろうと思ってたけど、仕方ないから自分の荷物を教室に置いて行った。ノートは重いし最悪だ、とグチグチ呟きながら職員室へ向かった。







先生に、またお前かと笑われて適当にあしらったらついつい話し込んでしまった。畜生、先生が暇なのがいけないんだ。窓を見たらいつの間にか空は赤く染まっていた。早く帰ろう。暇人先生さようなら、と捨て台詞を吐いて職員室を後にした私。少ししてから、今日の運勢は最悪だと思った。






「あーら!こんなとこで会うなんて奇遇ね!」



「そうだね。知ってたら別の道通ってたよ」



「なっ…!リョーマ様の彼女だからって調子乗ってんじゃないわよ!」



「どちらかと言うと調子に乗ってるのはそっちだと思うけど?」



「っ…あーあ!なんでリョーマ様はあんたみたいなのと付き合ってんのかしらね!こんなムカつく人と付き合ってるなんて、リョーマ様可哀相!」



「因みに告白したのはリョーマだからね。てゆーか、陰険ないじめをしてる方がムカつくと思うけ…っ?!」





ピシャリ、と音が響いた。


階段を下りていたら、ちょうど小坂田さんと会った。私が嫌いなら、いちいち突っかかってこなきゃいいのに。めんどくさいけど、彼女には言い負かされたくない。そう思って言い返してたら頬を叩かれた。…あぁ、ムカつく。



「…返す言葉がなくなったら暴力?」


「煩い煩い!なんであんたなんか…!あんたなんかいなければよかったのに!」


「朋ちゃん、やっちゃおう!」


「え…っ?!」





小坂田さんしかいないと思ってたら、背後から声がした。何時の間に?後ろを振り向こうとしたら、背中を押された。…え、目の前が逆さまに……






「これでリョーマ君も私達を見てくれるよね、朋ちゃん!」


「…うん」













「…え?」

凛は馬鹿だ。馬鹿正直で、自分が一度決めた事は最後までやり通す。馬鹿みたいに真っ直ぐで、馬鹿みたいにいつでも笑顔だ。そんなあいつに俺は惹かれた。隣のクラスなのに、授業中遅刻して先生に怒られるのが聞えるくらい先生からの印象は悪いし、校内放送で呼び出しをくらってるときもあった。最初はただの問題児だとか思ってたけど、実際にあいつを見たら"違う"って思った。あいつは自分に正直なんだ。自分の意志を貫いた結果なら全部受け止める、寛大なやつ。
馬鹿正直で、馬鹿みたいに明るくて、馬鹿みたいに一生懸命で、馬鹿みたいに誰にでも優しいあいつ。そんなあいつが、俺は好きなんだ。本当に大好きで、何かあったら絶対に俺が守ってやるって思ってたんだ。なのに何で…何で俺は、こんなにも無力なんだ。


「先生…」

「分かってる。今のまま部活に出ても集中できんだろうに。病院にはあたしが連れてってやるよ。ほれ、さっさと車に乗らんか」

「…ありがとう、ございます」


昨日、凛にメールしたのに返信がなかった。ないときは大抵寝てるときで、次の日の朝になれば必ず返信があった。だけど、どんなに待ってもメールも電話もなかった。今日は移動教室が多くて昼休みまで凛の教室に行けなくて、結局屋上で来るのを待っていた。だけど、予令が鳴っても来なかった。帰りのHR。先生に聞いてみようとしたら、先生はあいさつが終わるとすぐに教室を出てったから聞くタイミングがなかった。仕方なく部活へ行くと、竜崎先生が俺に駆け寄ってきた。……その時初めて、凛が入院してると聞いた。念のために入院してるだけだからすぐに退院できるだろう。そう聞いたけど、気が気じゃなかった。それを知ってか、先生は俺を病院まで送ってくれた。
















「ん?あ、リョーマ!あれ、部活は?まさかズル休み?!そんな子に育てた覚えはないよー」


心配で心配で。病室まで走ってったから何度も看護婦に怒られて。本当に、心配したんだ。なのに病室にいた凛は、呑気の雑誌を読んでいた。しかも、母さんみたいな台詞を泣き真似付きで言うくらい、アホらしいほど元気で。…だけど、頭と手首に包帯を巻いていて。焦りとか怒りを通り越して、無言で凛のベッドに駆け寄って抱きしめた。



「わっ!ちょ、私こう見えて怪我人!怪我軽そうに見えて打撲してるんだから!」



「馬鹿、黙って…」




「は、はい…?」




ぎゅっと抱きついていると、凛も俺の背に腕を回した。ポンポン、と背中を宥める様に叩かれてちょっと子供扱いされた気がしてムカついた。だけど、凛から離れたくなかった。














「なんで、入院なんてしてるわけ?」

途中、検診のためにきた看護婦のせいで渋々凛から離れたリョーマ。ムスッとした表情で入院した理由を聞くリョーマに、凛は微かに視線を揺らした。




「…階段で足滑らしちゃった!ば、馬鹿って言わないでよ?」




「馬鹿だね。普段のあんたなら余裕で受け身とれたでしょ」




「え……いや、ちょっと…重労働した後だった…から?」




「重労働って何」




「教室掃除とか、ノートを職員室まで運んだりとか…」




「絶対おかしい。あんたいっつも教室掃除。掃除場所変わんないの?もしかしてさ、教室掃除無理矢理やらされてるわけ?普通分担してさっさと終わらせるでしょ」




「ち、違うよ!そーゆーの、全部じゃんけんで決めてんだよね。ほら、私ってじゃんけん弱いからさ?」




リョーマはじとーっとした視線で凛を見た。凛は小学校までテニスをやっていた。運動神経はいいし、中学に上がってからは親に言われて空手を始めた。それなりに実績を積んでる凛が、階段で足を滑らせて転倒だなんて…。打たれ強いはずなのに、軽い怪我だがいたるところに湿布やらガーゼやら包帯やら。






「…今日の検査で異常がなかったら退院だってさ。空手の方は暫く休むから、テニス部見に行くよ!…だから、機嫌直してよね?」




「………あんたが入院したって聞いた時、心臓止まるかと思ったんだから……明日、朝待ってるからちゃんと来てね」




「うん、絶対明日学校行くから。リョーマってば、1人だとお昼寂しいもんね!」




「こら、調子に乗るなっ」




「えへへっ!…ほらほら、部活行かないとみんなに追い抜かれちゃうよ?」





「今来たばっかじゃん…ケチ」




「ケチで結構!…明日ちゃんと学校行くし、お昼も一緒。帰りもリョーマが部活終わるの待つし…ね?」




「…わかった。じゃ、明日」




「うん、バイバイ!」





凛は笑顔で手を振ってリョーマを見送った。凛に行けと言われたら行かないわけにはいかない。渋々病室を出ていったリョーマは名残惜しい、と思ってもう一度病室に戻ろうと取っ手に手を掛けた。












"ばかやろー!!"



「…は?」

中に入ろうとすると、叫び声が聞えた。一応個室なのだが、こう廊下まで声が漏れるのは…と呆れたリョーマ。




"なんてお人好しなんだ私はー!"

「意味分かんない…」

口許に笑みが浮かぶのを隠しもしないリョーマ。つい面白くて耳をドアの押しあてた。







"大体、あいつらのせいで怪我したっつーの!"


「えっ…あいつらのせいって…」


"学校なんて好きで行かないっつーの!"


"あーもう!早くクラス替えしたい!"



「…ほんと、意味分かんない…」

リョーマは険しい表情で病院を後にした。
















「あ、竜崎!!」



「リョ、リョーマ君?///」

「ちょっと!リョーマ様が桜乃のこと呼んでるわよ〜っ」

リョーマは学校へ戻ると、一番に桜乃の元へと向かった。リョーマに呼びかけられた桜乃は顔を赤くしていた。隣にいた朋香は、つんつんと照れる桜乃をからかうように突っついた。



「あのさ、ちょっと話あんだけど…」



「話って…な、何…?」



「凛が入院してるの、知ってるでしょ?」



「!…し、知ってるけど…」

ギクリとした。もしかしたら、凛から突き飛ばした犯人が自分だと聞かされていると思ったのだ。




「凛さ、階段から足滑らせたって言ってたんだ。だけど、俺が病室から出てったら、部屋ん中で叫んでたんだよね。あいつらのせいで怪我したって。…あいつ、お人好しだからさ。犯人庇おうとしてると思うんだ。…あんたって、凛とクラス一緒じゃん?だから、犯人の心当たりないかなって思って…」





リョーマは僅かに目を伏せて言った。心底心配していると言っているようで、桜乃はここまでリョーマに想われている凛に腹が立ち、掌に爪が食い込むほど強く手を握った。



「あ、あの、リョーマ様!」


「(様…?)何?」


「私達、その…あんまり凛ちゃんと仲良くなくて、よく分からないんです。クラスの子も、あまり仲いい人いないみたいで…だって凛ちゃん、問題児ってゆーか…」



気まずそうに言うと、リョーマはきょとんとした表情をしてからクックッと笑いだした。





「それ、俺も最初思った!いっつも授業に遅刻して教室に入ってく音がうちのクラスにまで聞えるし、先生との言い合いも聞えてくるし。校内放送で呼び出しくらってるし、厄介なやつだよね」




「はい!だから、近寄り難いってゆーか…」







「…だけどさ。悪いように見えて、実は結構良い奴なんだよね」


「え…?」




「遅刻する理由、大半は"重い荷物持ったあばあさんの荷物も持ってあげたから"なんだって」


「それって言い訳じゃ…」


「俺もそう思ってた。だけど、俺が寝坊して急いで学校向かってるとき、呑気におばあさんと歩いてるあいつ見てさ。…まぁ、本当にただの寝坊の時もあるらしいけど。…けど、いいやつなんだ。先生の雑用の手伝いだって、面倒なはずなのに楽しそうにやってるし、男テニの後片付けも手伝ってくれたり…教室にある水槽の水も、あいつが変えてるんだよ。鉢植えに水やったり、みんなが面倒だとか嫌がることを自分から進んでやれるような奴なんだ」



「そんなこと…」



「あいつ、馬鹿正直だから、自分の言ったことは曲げないし、馬鹿みたいに明るいし、何も言わないし素振りなんて見せないからさ。周りはあいつの優しさに気付かないんだよね」


朋香は思った。……自分は勝てない、と。リョーマが楽しそうに凛のことを話しているのを見て、聞いて、自分じゃ敵わないと思った。そしてこう思った。自分はなんて馬鹿なことをしたんだ、と。




「ご、ごめんなさい、リョーマ君。本当に何も知らないの。…じゃ!」


「あ、ちょ、桜乃?!」

桜乃はいてもたってもいられなくてその場から逃げる様に去った。リョーマは訳が分からず首を傾げて朋香を見た。






「…行っちゃったけど?」






「…………リョーマ様、あの…」


朋香は大きく深呼吸をしてリョーマと向かい合った。


「ん…?」


「あの…その……えっと…」


「…何」


自分達がしてきたことを全部言おうと思った。今謝らないと、ずっと言えないままになってしまう。お人好しな凛は、リョーマに言わないだろう。そして、自分達が飽きるまで陰険ないじめに耐えるだろう。…だから自分から言ってしまおうと思った。


「実は…」
















「………小坂田、」


「は、はい…」

朋香が全部打ち解けると、リョーマは大きくため息をついた。それは、ぶつけようのない怒りを吐き出すようで、朋香は大きく肩を揺らした。




「話してくれて、ありがと」


「え…?」


「絶対に許さない。凛の顔叩いたのなんて、今ここでやり返したくらいだし。陰険ないじめも死ぬほどムカつく!クラス全員殴り飛ばしたい!……けど、あいつはそれを望んでない。だから俺に何も言ってないわけだし、あいつだったら自分で殴り飛ばすだろうね。…俺はあんた達を許さない。けど、言ってくれてありがと。小坂田が言ってくれなかったら、ずっと知らないままだった。凛は絶対に言わないだろうしね」



リョーマは困ったように…切なげな笑みを浮かべた。






「!…本当にごめんなさい!明日凛ちゃんが来たらちゃんと謝ります!許してもらえないだろうけど…ちゃんと、クラスの子にも、もう止めるように言います。…本当に、ごめんなさい…っ!」




涙が溢れた。今まで自分がどんなに彼女を傷付けたか。彼女を傷付けたことによって、リョーマがどれだけ傷ついたか漸く理解できたのだ。最初は軽い気持ちで始めた。だけど、いじめてくうちに歯止めがきかなくて、ついには病院送りまでしてしまった。今更だけど自分のしたことが怖くなった。




「…小坂田、竜崎は?」



「え?…たぶん、教室に」



「分かった」



リョーマは桜乃と話をつけようと教室へ足を進めた。

「あ、リョーマ様!」


「何?」


「桜乃に、気をつけてください。…桜乃、最近…その、危ないってゆーか…怖いから、」


「?…分かった。あ、そうだ、明日さ…」













「なんで…どうしてあの子ばっかり…っ!」

桜乃は教室にいた。…片手にはハサミを持って。桜乃の前には机に散りばめられた教科書やノート。次々とそれに刃先を立てていっては、"あんたなんか…っ!"と呟いていた。




「あんた、何やってんの」


「っ?!!」


ハサミを持つ手を掴まれ、桜乃は後ろを振り向いた。そこには、険しい表情をしたリョーマ。ミシリ、と掴んだ手首から音がした。



「いたっ…ぅ、」


カランカラン、と床に落ちたハサミ。リョーマの鋭い瞳に射抜かれた桜乃は、ガタガタと震え出した。



「小坂田はさ、さっき謝ったよ。まぁ、許さないけどさ。自分のしたことに後悔してた。だけどあんたは…竜崎は、まだ続けるんだ。一歩間違えればあいつを殺してたかもしれないのに、それなのにまだこんな陰険なの続けるんだ」





「っだって…っ!リョーマ君はいっつもあの子ばっかじゃない!どんなに頑張っても、リョーマ君はあの子しか見てないじゃない!だから…だからあの子がいなくなればっ!」




「っ……」


リョーマは、怒りと呆れと虚しさと、驚きで何も言えなかった。こんな桜乃を初めて見たからだ。ずっと内気で鈍くさい人だと思ってた。最初は顔も忘れていたくらい。だけどどうだろう。そんな彼女は今、自分の目の前で"あの子がいなくなれば"と叫んだ。陰険ないじめを先頭してやり、階段から突き飛ばして、今もハサミを教科書に突き立てていた。





「ねぇ、なんであの子なの…?私だって勉強も部活も頑張ってる!先生の手伝いくらいしてる!みんな私の事を認めてくれてる!なのに、何でリョーマ君は…」



「…だからだよ」


「え…」



「あいつは、誰かに認めてもらうために何かをしてるわけじゃない。自分がしたいからやってるんだ。強さも、弱さも、優しさも、全部隠すから…だから、そんなあいつを俺は好きになった。心が、綺麗なんだよ。だからきっと、誰も………誰も、あんたみたいなことをする奴を好きにはならない」



"好きにならない"

リョーマがきっぱり言うと、桜乃はへたりと座り込んだ。完全に身体から力が抜けた状態だ。これでもう懲りただろう。そう思って、リョーマは教室から出ていった。












「おはよ」


「…なんで?」


「何でって…彼氏が迎えに来ちゃいけないわけ?」


「いや、ものすっごく嬉しいけど…朝練は?」


「今日はないよ。…ほら、行くよ」


「うん………あ、おはよ、リョーマ!」


次の日、リョーマは早起きして凛を迎えに行った。リョーマが待ってるだなんて思ってもいなかった凛は開口一番"なんで"だ。そんな彼女に呆れた笑みを向けるリョーマ。手を差し出すと彼女はその手を握って満面の笑みを浮かべた。





「ねぇ、リョーマ?今日って何の日か知ってる?」


「……何かあったっけ?」


「やっぱり…アホっ!ほんとに忘れたの?」


「…馬鹿に言われたくないね」


「馬鹿馬鹿って…私、リョーマより頭いい自信あるもん!」


「…馬鹿だ」

他愛もない話をしていると、すぐに学校に到着。上履きに履き替えるリョーマに、凛は今日が何の日か尋ねた。もちろんリョーマは首を傾げる。そんなリョーマを見て、"やっぱり…"と呟いた凛。少し落ち込む彼女を気にもせず、リョーマは凛の手を取って教室へ向かった。自然と足取りが重くなっていく凛に気付かないフリをして。

















パンッパンパン!!


「っえ…?」





「「「おめでと〜!!!!!!」」」


教室へ入ると、殆ど生徒が集まっていた。そして、声をそろえておめでとう、と。教室に入った瞬間鳴った音はクラッカー。数人が薄らと煙が出ているクラッカーを持っていた。



「…みんな、どうしたの?」

恐る恐る聞く凛に、朋香が近寄った。



「昨日はごめん。今までも…本当に、ごめんなさい。謝っても許してもらえないと思うけど…」


「え、いや、こちらこそすみません?…へ?」


何が起こったのかいまいち理解できないでいる凛は、頭を下げる朋香に自分まで頭を下げた。



「今日、リョーマ様との記念日なんだよね!だから、お祝い!!」


「……あの、え、えっと…?」


凛は教室に入ってから何も言わないリョーマを見た。すると、リョーマは笑っていて。



「あんたが1ヵ月前に言ったんでしょ?次の記念日にはどっきりを用意してって」



「…けど、さっき忘れたみたいに…」



「言ったらどっきりになんないでしょ。…やっぱ馬鹿だ」



「……へへ。…うん、まぁ、馬鹿でもいーや!」



「凛ちゃん、見て見て!」



「ん?」


黒板には、2人を祝福する言葉や、今までごめん、ずっと仲良くね、とメッセージが書かれていた。そして、人だかりで見えなかったが、教卓の上には小さなケーキ。




「これ…」



「みんなからのプレゼントだよ。調子がいいって自分達も分かってるけど…その、」




「…ありがと、みんな!」


少し暗い雰囲気になったが、凛が笑顔でありがとうと言うと、みんなの表情にも笑顔が浮かんだ。凛は用意されていたフォークで早くもケーキを食べ始める。そのうちみんなとくだらない、だけど楽しみながら話を始めて。教室の入り口に立っていたリョーマは、クラスメイトに誘われて輪の中に溶け込んだ。



「みんな、今日から掃除当番は交代制!あと、ノート提出もね!」


「うん…本当にごめん」


「もういいって!こーやーって言わってくれたからチャラだよ、チャラ!過ぎた事はもう言わない!楽しい方が、楽しいじゃん!…って、自分で言ってて意味分かんね!」


「ははっ!オモシロっ」


「なぁ桜井〜」


「凛ー!」


「ちょ、気安く凛の名前呼ぶなっつの!」


「きゃーっ!凛ちゃん愛されてる!」


「てへへっ!」



(ありがとう、リョーマ!)

(ようやく、仲良くなれたよ!)












positive thinking






*********************


「なぁ越前!知ってっか?ばあさんの孫娘、学校辞めるらしいぜ?」



「へぇ…何で桃先輩が知ってるんスか」



「今日担任に呼び出されちまってよ。職員室行ったら、退学届持ったばあさんがいたってわけ。ばあさんに聞いたら…」



「聞いたら?」



「…此処だけの話、精神病院に通うらしいぜ。この前、ばあさんが家に帰ったら部屋が大荒れだったらしくてよ。食器は全部割れてるわ、窓も割れてるわ、泥棒が入ったみたいに酷かったらしい。あの子は気が狂ったように叫んでて…おぉ怖っ!きっと青学の呪いだぜ!」




「呪い、ねぇ…」







「リョーマ!」


「お、越前の可愛い可愛い彼女が呼んで…って早!……どんだけ惚れこんでんだよ」



部活が終わって着替えてると、桃城が桜乃の話をしだした。あれから暫く立つと、桜乃は学校を退学。リョーマに嫌われたショックのせいか気を病んでしまったのだ。…それを知ってるのはリョーマだけだ。興奮気味に桃城が話していると、部室の外からリョーマを待ちきれなくて凛が叫ぶ声がした。茶化してやろうと思った桃城だが、リョーマは茶化す前に部室から出ていった。窓から見えた人影は手を繋いでいて、ため息をつく桃城。


「お…?」

足元に視線を落とすと、1枚の写真が落ちていた。それを見るとまたしてもため息をつき、桃城は羨ましいぜと呟いた。
その写真に写るのは、たくさんのクラスメイトに囲まれるリョーマと凛。満面の笑みを浮かべる凛の頬に、リョーマがキスをしている写真だった。


「こんな笑顔なあいつ、見たことねーっつーの」


よし、これで茶化すネタが出来たと呟いて、桃城は部室を後にした。





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リクエストしてくださった零様に感謝いたします!
たいへん遅くなり申し訳ございませんorz
ご希望通りになっていれば幸いです。
訂正個所などがあれば、お手数掛けますが連絡お願いします。

リョーマ万歳!
(後輩をからかうのが好きな桃も!)


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