大 好 き な 人
切甘
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「…いいの?」
「あんたが言い出したんじゃん」
「…そうだね」
(でも、言いだすきっかけを与えたのは君)
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1週間前、私とリョーマは別れた。学校公認の仲だった私達だったからみんな驚いてた。朝から放課後、下校途中まで何度も理由を聞かれた。…私は、何度も同じセリフを言った。―――上手くいかなかっただけ。
私の不安の原因は桜乃ちゃん。彼女はテニス部で、しかも男子テニス部の顧問のお孫さん。必然的に同い年のリョーマとは仲良くなっていくわけで…。吹部の私とは違って、リョーマと共通の話がいっぱいあって。リョーマが離れていくのが不安で。
嫌われたくない――――その一心で、たくさん我慢した。急にキャンセルになったお泊りも。例え、急にキャンセルになったデートの日、ストリートテニスとかいう場所で、桜乃ちゃんと一緒にいるリョーマを見たことでさえも。
だけど、不安で仕方なくて……別れ話を持ちかけてみた。"お願い、別れて?"って。何で?俺は別れたくない。…そんな言葉を期待していた。なのに、
「やっぱ人の気持ちは変わっちゃうのかな…」
彼は、"分かった"と言った。たったの一言言って、彼は私の前から去った。聞き間違えなんじゃないかと思って、いいの?って彼の背中に問いかけたら、彼は"あんたが言い出したんじゃん"と言って、振り返らずにそのまま歩みを進めた。
嘘。本当は期待なんてしてなかった。薄々感じていたから。リョーマは私を見ていない。最後の最後まで名字で私のことを呼んでいたリョーマ。待ち合わせに遅れても、ドタキャンしても、彼の口から謝罪の言葉を聞いたことがなかった。…彼は、言葉が足りなかった。私には、たったひと言だけが必要だったのに。彼の口から私への想いを言ってくれるだけで、私は幸せなのに。…そう、私達は"上手くいかなかった"のだ。ただ、それだけ。
「…ック、フッ、ヒッ…」
泣きながら1週間、迎えに来るはずのないリョーマを待ち続ける私。1週間前までは、彼は部活が終わるとすぐに私を迎えに来てくれた。校門の閉まる10分前に、必ず。けど、今の私は5分前に出る。ちょうど教員が見回りしに来る時に。必ず、先生に早く帰れと言われて、自分の席を立つ。教室の窓際の一番後ろの彼の席を一瞬だけ見て、廊下側の一番前の席を立つ。街灯に、ポツリと1人の影を映して帰路に着く。
こんなはずじゃなかった。
…もしも、あの時。
あの時、別れ話なんてしなかったら…
私達はずっと一緒でいられたのかな?
こんな思い、しないですんだのかな?
「 さ み 、 し い … 」
もう、立っていられなくなった私。その場にしゃがんで、いつ止まるかも分からない涙を必死に止めようとした。
「…ほら、立ちなよ」
不意に、声がした。
「え・・・・、」
顔を上げると、大好きな人。
「…初めて会った時も、こんなんだったよね」
久々に見た、大好きな人の笑み。
「リョ、マ……っ?!」
「ほら、立ってよ。アンタらしくないじゃん」
「リョーマ…っ」
大 好 き な 人
付き合ってるとか
別れたとか
どーでもいい
ただ、目の前の彼が
もの凄く、愛しい。
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