03
陽炎の言葉に頭が真っ白になった気がした。
…………今、何て言った?
こいつ、今、美味しそうっていったか!?
真っ白に固まった信長を見て、陽炎は実に楽しそうに笑った。
「アハハハッ!なんだよ、今さらだろ?」
「んなっ……!?」
「お前、小ぃせぇ頃から可愛い面してたが、成長するにつれどんどん別嬪さんになってったもんなぁ。いやぁ、予想外予想外♪」
楽しそうな笑顔とは裏腹に、陽炎の瞳はどんどん妖艶さを増していき、その間にも手は信長の頬を伝い、首筋を撫でてくる。
こ、こいつ……!
どうやってもそっちに流れを持っていきやかって!
怒りと羞恥に頬を染めながら、信長は着物の合わせに手をかけて侵入を図ろうとする陽炎の手を掴んだ。
抵抗されるだろうことは予測済みだったのか、陽炎はにっこりと笑う。
「なんだ?」
「なんだじゃねぇ!昼間っからなに考えてんだ!?」
「お、夜なら良いんだな?」
思わず口走ってしまった己の口を、信長は呪ってしまいたかった。
そもそもが、昼から云々ではなく、増えたらしい守護の理由を聞いただけなのであって、断じて昼からまぐわう為ではない!
と言うか、何故この流れになったのかも疑問だ。
「そうじゃなくて!」
「だったら良いじゃねえか」
「それも違う!」
なんだこのどうでも良い押し問答は!?
「じゃなくて!……〜〜〜っ分かった!分かったから取り合えず退け!」
そう、何となくわかってしまったその理由。
取り合えずこいつが俺の顔が好きだっていうのはわかった。
「ふむ、まあなんだ。何はともあれ、これから戦になるんなら俺の加護を多少でも与えとかねぇとな」
陽炎の言葉に信長は目をぱちくりさせた。
「……加護?」
「おう、加護だ」
そんなことを言いながら、またもや覆い被さってこようとしたのを、信長は空かさず防いだ。
「なんで加護を与えるっつってんのにまた襲ってくんだよ!?」
もう、訳が分からない。
加護を与えるのに覆い被さってくる意味がわからない。
「なんでって……。ん?知らなかったのか?」
「だから何が!?」
「俺様の体液が加護の印だ」
馬乗りになりながら、なんとも爽やかな笑顔で答える陽炎。
その言葉にどこか引っ掛かりを覚える。
いや、恐ろしい言葉を聞いたような…………。
「……た、体液?」
「ああ。所謂、俺様の精液だ」
「………………はあぁぁ!?」
俺は顔が真っ赤に染まっていくのを自覚しながら、盛大に叫ぶはめになった。
「うーん、いつ見てもその初々しい反応。そそるなぁ」
「そそっ…………?!」
えっ?
ていうか、なに?
じゃあ、今までのあれこれは?!
いや、確かに…に、二回ほど、まぐわってる……けど。
あのまぐわりが、摩利支天の加護とか……。
好き合ってした行為じゃないのは分かってたけど……それが、好意からでもなんでもなくて……?
チクリ。
あれ?
なんだか、胸の奥がモヤモヤする。
なんだこれ?
そもそも男女のまぐわいは子孫を残すためにするのだ。
だったら、陽炎とのまぐわいは?
俺、男だし……。
ただ加護を与える為だけのまぐわりだった?
「どうした?」
陽炎は怪訝そうに眉を潜めながら、思考の海に漂いだした俺の意識を浮上させた。
「ああ、いや…………」
胸の奥に感じる違和感を振り払うように、ゆるく頭を振る。
考えても仕方ないことは後回しだ。
「勘十郎の件だが、今回は戦はしない」
「……放って置くのか?」
「放って置く。その為に、しばらく引き籠るつもりだ」
「……成る程な。そういうことか」
ニヤリと笑った陽炎には既に、俺が何を考えたのか見当がついたらしい。
「だったら俺様も一緒に引き籠ってやる」
「なんで?」
「まあなんだ、しばらく信長とゆっくりすんのも悪くねぇ」
「………………」
陽炎の言うゆっくり過ごすというものの中には、きっと同衾することも含まれている。
なんという好き者の神様なのだろう。
いや、軍神だと言うことを考えれば体力があり余ってる?
……………………?!
って、何てこと考えてるんだ俺は!
自分の思考に辟易する。
兎に角、この体勢を何とかしよう。
馬乗りになられて話すのは、普通に考えておかしい。
というか……この状態で会話できてしまった自分が恐ろしい。
ため息が出そうになるのを堪え、陽炎の瞳を強く睨み付けた。
「取り合えず陽炎。いい加減退け!!」
掴み掛からんばかりの勢いで怒鳴るも、陽炎のニヤついた笑顔が引っ込むことはなかった。
「つれねぇなあ?まあ、お前の怒った顔も中々可愛いけどな。褥の中ではもっとかわいっ…………!!?!?」
その言葉は最後まで言わせなかった。
あまりにも恥ずかしいことを言われて、羞恥に顔を真っ赤に染めながらも、渾身の力を込めて陽炎の頭に制裁を加えた。
「ふ、ふふふふざけたことぬかすな!」
「ふざけてねぇし!お前のあの泣きがっ………!」
まだ言い募ろうとする助米軍神の顎にきれいに拳が決まる。
「それ以上口にすると本気で殴るぞ!!」
「既に本気で殴ってるだろ!?」
どんなに頑丈な体でも、さすがに綺麗に入った顎への一撃に涙目になっている。
まあ、多分……本気で痛がってはいないのだろうが。
それからしばらく、俺と陽炎の下らない言い合いは続いたのだった。
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